第2章ー④

 解体に取り掛かりながら、改めてお互い自己紹介をした。


 双剣使いの名はルリカ。杖の少女は魔法使いで、クリスと名乗った。

 クリスは遠慮しているのか、警戒しているのか、一歩下がっている。けど時々何も考えないで勢いで行動することがあるようだ。さっき接近したのも心配が警戒を上回ったためだ。とは、ルリカ談。


「クリスは少し休憩していて。まだ魔力が回復してないからつらいでしょ?」


 ルリカの言葉に素直に従い、クリスは腰を下ろして息を整えはじめた。

 そして思い出したように慌てた様子でフードを被り直した。


「逃げる時に結構無茶させちゃったから。本当は森の中にも、倒したウルフが何体かいるんだけどね。今回はあきらめるしかないかな」


 解体の仕方を教わりながら、時々世間話をした。

 二人はコンビの冒険者で、ランクはD。今回は森の中にあるキラービーのハチミツの回収依頼を受けてきたのだが、その途中でウルフの群れに遭遇したとのこと。

 魔法でかく乱して群れの本体からは逃げることが出来たが、群れから外れた個体が何体かいて追跡されてしまった。それでも逃げながら個別に撃退していたが、クリスの魔力が切れそうになったためここまで引き連れてきてしまったと言った。

 開けた空間の方が対処するのが大変じゃないか聞いてみたら、クリスの魔力が回復するまで頑張る予定だったと。

 それにルリカが言うには、ウルフは木を巧みに使い攻撃してくるから、森の中よりも開けた場所の方がまだ戦いやすいとのことだ。


「ハチミツの依頼は失敗かな。近くにウルフの群れがいるんじゃ取りに行けないし。あ〜、でもギルドに報告したらペナルティーなしにならないかなぁ。あと少しでCランクになれるのに」


 なんでもウルフの群れに対処するのは、規模にもよるけどランクB案件になる場合があるらしい。群れが出来ると、まれに特殊個体、上位種が誕生し、それがいると難易度が一気に引き上がるとのこと。


「解体の仕方はこんな感じかな」


 話しながらもルリカは器用に解体を進めた。流れるような動作で、迷いが一切なかった。目の前には素材ごとに分けられた山が出来ている。

 俺は……まぁ、頑張った。吐かなかったよ。

 出来栄えは聞くな。誰だって初めてはあるさ。


 解体された素材はまとめられて、ルリカたちの素材袋に収納された。それでもウルフ四体分、解体したけど量が多いため肉を諦めようとしたが、俺が持っていくと言って予備の素材袋に詰め込んでそれを背負った。ずっしりと重いが、見た目ほどの負荷は掛かっていない。レベルアップしたステータスのお陰か、それともスキルの身体強化のお陰かは分からない。


「見かけによらず力があるのね」

「荷物運び限定だけどな」

「何それ、変なの」


 ルリカはあきれ、クリスは可笑おかしそうに笑っている。

 ウルフは捨てるところがほぼない魔物だが、それでも一部は使い道がないものが出てくる。残ったそれは集められて、クリスが火の魔法を使って燃やし尽くした。もちろん薬草の群生地から離れた場所で、だ。


「それじゃ戻ろうか? って、ソラは薬草集めの依頼終わっているの?」

「ああ、それは大丈夫。必要数は採れたから」


 クリスの魔力も回復し、薬草の採取も十分だから戻ることになった。

 結構集中して薬草の採取をしていたらしく時間も経っているし、群れの近くでのんびり薬草採取をするのもちょっと怖い。

 俺は戻る前にもう一度薬草の群生地を注意深く見たが、あの不思議な生物の姿を見つけることは出来なかった。

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