第2章ー③

 人が二人と魔物が四体。魔物はウルフか? 確か素早い動きが特徴で、仕留めるのが大変だって話だ。ただそのスピードに対応出来るならそれほどの脅威ではないらしい。


 対峙たいじした二人は一人が一歩前に出て双剣を構え、つえを持ったもう一人が下がる。下がった一人は肩で息をしているのでつらそうに見える。

 ウルフが飛びかかるが双剣を巧みにあやつりいなしている。

 隙を見て反撃を仕掛けようとするが、そのタイミングで別のウルフが飛びかかって攻撃の邪魔をしている。

 ならこちらは杖の者が援護かと思ったが、息を整えるだけで何もしない。

 相手の動きが速過ぎて手が出ないのかと思ったがどうも違うようだ。

 杖で体を支えているようにも見える。

 考えたのは一瞬。

 行動に移したのも一瞬。

 ウルフが飛びかかると同時に解体用のナイフを投げた。

 空中でかわすことが出来なかったウルフにナイフが刺さる。これはまぐれだ。気を逸らせたら程度に思っていたのが、偶然ヒットした。

 奇襲が運良く成功し、驚いて動きが鈍った別の個体に走って近付くと、勢いそのままに剣を振り下ろす。

 確かな手応えを覚えて動かないことを確認し、次の獲物を探す。

 しかしそこには横たわる三体のウルフの前にたたずむ双剣使いがいた。


 どうやら戦闘は終わったようだ。

 改めて自分のとった行動を思い返し無謀だったかと考える。

 しかしあのままだったらあの二人もどうなっていたか分からなかった。

 ただ、横から獲物をかっさらうような行為はトラブルの原因になるからしないようにと注意を受けたことがあったのを思い出した。

 これってゲームでいう横殴りというやつになるのか?


「すまない」


 とりあえず謝っておいた。

 すると双剣使いはちょっと驚いた表情を浮かべて、その言葉の意味を理解したのか苦笑をもらした。


「危ないところを救ってもらったのに、悪いなんて思わないよ」


 改めて冷静に見ると、それが女性だと気付いた。

 肩口で切り揃えられた髪は金髪で、金色の瞳は興味深そうにこちらを見ている。

 視線が少し顔の下に誘導されそうになるのは、男なら仕方がないはず。

 出来るだけ見ないように、頑張ったはず。それほど大きくはないけど、動きやすさ重視のためか、少し薄着のため目がき付けられる。

 杖を装備した冒険者も少女で、フードの中から現れた顔は幼く見える。風に流れる金髪のツインテールが、髪型も相まって幼さをさらに印象付ける。体も小柄で、将来に期待したいところだ。なんて思うのは失礼だな。瞳の色も髪と同じ輝くような金色だった。

 一見すると姉妹に見えなくもないけど、金髪金目はこの世界の一般的な人の特徴だし違うだろう。


「助かりました」


 ささやくような声がして、ペコリとお辞儀をされた。


「この場合、取り分とかってどうなる? 冒険者になったばかりで、詳しいルールを知らないんだ」


 ちょっと驚いた表情をされた。何故に?


「ウルフって、初心者が倒すには結構大変なのよ。それをあんなに簡単に倒したのに? それに装備だって」

「こう見えて冒険者になってまだ一〇日も経ってないよ。ここに来たのも薬草の採取依頼で来ただけだし、倒せたのは武器が良かったんだと思う。あと、装備が良いのは臨時収入があったからだよ」


 抵抗なく剣がウルフの身体に入っていった。いい武器をありがとう、おやっさん。

 その時の肉の感触を思い出し、手が震え出す。魔物とはいえ、生き物を殺したんだという実感とともに。


「大丈夫?」


 気付いたら目の前でツインテールが揺れていた。

 視線を上げると少女の視線とぶつかった。

 慌てて一歩下がると、動揺を誤魔化すように大丈夫アピールをした。


「これってどうするんだ? ウルフの解体なんてしたことないけど」


 資料には目を通した。必要素材と部位も分かる。

 解体方法も一応頭の中には入っているはず。ただ魔物とはいえ、それを解体すると吐くかもしれない。今も流れ落ちる真っ赤な血が生々しく、臭いも少しきつい。


「もちろん解体するよ。お金を捨てるようなものだしね。なんだったら教えるよ?」


 見透かされたのか、双剣使いが意地悪い笑みを浮かべている。

 せっかくだし教わろうと思う。

 それによって今後自分で解体出来るかどうかが分かるはず!

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