第2章ー②

 装備を整えたら、宿屋に戻り裏庭を借りて軽く素振りをしてみた。女将さんにはしっかりと確認して許可を得るのを忘れない。


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NEW

【剣術Lv 1】

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 剣術は簡単に言えば剣の扱い方が上手うまくなるスキル。

 最初はぎこちなかった動きも、剣術スキルを取った瞬間、スムーズに動けるようになった。

 振った時の風切り音も、武器屋で試した振り下ろしも薙ぎ払いも、同じものを扱っているとは思えないほどの違いだ。熟練度は素振りをすることで上げることが出来るようだ。

 やっぱりスキルの恩恵はすごい。



 一日依頼を受けずに装備を整えて休み、翌日朝一でギルドに向かい採取依頼を受けた。ミカルは驚いていたが、「気を付けてくださいね」と応援してくれた。

 一応昼前には戻る予定で街を出たが、慎重な男である俺は保存食の用意も忘れていない。

 試食させてもらったら美味しくなかったので、あまりお世話にはなりたくないが。


「見ない顔だな? 冒険者か?」


 鎧に身を包んだ男に声を掛けられた。どうやら人の出入りを管理している門番のようだ。


「初めて外に出る。薬草採取の依頼を受けてきた」

「……そうか。依頼内容は口にしない方がいいぞ。誰が聞いているか分からないからな。あとは薬草のある周辺の森は大丈夫だと思うが、まれに魔物が迷い込むこともある、注意だけはしておきな」



 南門を出て街道に沿って歩くこと三〇分ぐらいか? 左手に森が見えてきたのでそちらに向かう。森を横断するように川が流れていて、薬草の群生地帯は川の近くにあるとのことだった。

 何度も採取に来ている人がいるからなのか、足場は踏み固められていて森の中だというのに歩きやすい。

 気配察知を発動させながら注意して歩くが、周囲にはぼんやりとした小さな気配しか感じられない。


 さらに歩くこと三〇分、目的の群生地に到着。

 群生地といっても薬草以外の植物も交じっている。かなり近くに寄れば違いが分かるが、一枚一枚確認するのは大変。似たような形のものもあるし。

 ただここで鑑定を使えば、


【薬草】【薬草】【活力草】【薬草】【偽薬草】【魔力草】【満月草】【薬草】


 と、目の前にある植物が何であるかが表示される。


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【薬草】主にポーションの原料に使われる。品質・良

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 さらに状態まで見ることが出来るから、状態の良いものだけを採取していく。

 鮮度や品質も大事で、枯れているものや、まだ育っていないものは査定の評価が低くなる。悪いとカウントされない場合だってあるそうだ。

 時々魔力草というものが交じっているのでそれも回収。

 他にも活力草や毒消し草などの細々したものも忘れない。

 ただ取り過ぎるとなくなってしまうので、ある程度は残しておくのがマナーらしい。

 それでも十分過ぎる量を採取出来たと思う。

 専用の保存袋がパンパン。鑑定様々だ。

 しかし何度もかがむと腰が痛くなるな。薬草採取するためにしゃがみながら作業すると、足が徐々にプルプルと震えてくるし。貧乏ゆすりのように。

 見たら身体強化の熟練度が上がっている。

 これならひざあても買えば良かった。地面に直接膝を付けると汚れるし、ちょうど小石でもあると当たりどころが悪ければ膝にダメージが入るし。地味に痛いんだよな、これ。

 それでもお金のためだと頑張っていたら、変なものを見つけた。


 それは葉っぱの上にポツンとのっていた。複数の葉っぱをベッドのようにして器用に。


「これは何だろう……?」


 一言で言うなら、白いマリモ? 見た目はモコモコしていて触ると手触りが良さそう。鑑定したら鑑定不可と表示された。

 重さがないのか、不思議と葉っぱが折れ曲がることがなかった。

 あ、コロンと転がり葉っぱから落ちた。

 音はしなかったが、それは地面にバウンドすると不思議な動きを見せた。

 まず表面に目のようなものが浮かび上がり、キョロキョロと周囲を見回しているのか動いている。その視線? が俺をとらえて動きが止まった。

 俺もそれをジッと見つめる。

 一、二、三、と見詰め合ったまま時間が過ぎていく。

 やがてそれは静かにスーッと浮き上がると、右に移動した。

 俺もそれを追うように右を見た。

 それを見て今度は左に移動したので、追うように左を見た。

 なんか驚いているのかあたふたしている。それを一言で言うなら困惑? ウサギのような耳がせわしなく動いている。

 ま、俺も正直困惑している。けどこの世界はある意味ファンタジーだし、こんな不思議生物がいてもおかしくないのかもと思い始めた。

 それにあれだな。小動物みたいな感じだな……食べ物とか食べるのかな?


 何も考えずにエネルギーバーのような保存食を取り出すと、最初は警戒していたが、興味を持ったのか少しずつ近付いてくる。鼻先? を突き付けて匂いをいでいるようにも見える。

 そこまでして気付いた。あ、これあまり美味しくないやつだった……と。

 しかし時既に遅く、手に持った保存食が消えた。体がフルフルと震えているのは咀嚼そしやくしているから?

 あ、動きが止まったら耳が垂れ落ちた。視線が合うと、そのひとみがウルウルとしている。


「ご、ごめん……」


 物凄ものすごい罪悪感を覚えて、思わず謝っていた。

 その時、それが不意にキョロキョロと挙動不審な動きをし始めた。何事かと不思議に思っていたら、気配察知に反応があった。


 徐々にこちら側に近付いてくる気配が六つ。

 思いのほか移動する速度が速い。

 気配に注意を向けながら隠れられる場所に全力疾走で移動する。ちょっと息切れした。

 この時謎の生物? の方をチラリと見たら、既にそこにはいなかった。

 移動が完了したと同時に、群生地に六つの塊が飛び込んできた。

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