第1章ー⑥

 通路の奥にある保管庫に向かい、そこで荷物を受け取る。それぞれのギルドに一袋一〇キロになる袋を五つずつ届ける必要がある。

 まずは商業ギルドに運ぶ分の五袋を背負子しよいこのようなものにセットしてもらう。

 五〇キロか……人一人分の重さ。まぁまぁの重さだが持てないほどじゃない。けっこうかさばるけどそのまま一歩、二歩と歩くと急に肩から重さが消えた。


「ん? どうした? 重いのか?」


 突然立ち止まったら心配された。他の冒険者と比べたら体も小柄だし、肉付きも悪いから体力がないと思われたのかもしれないが、それどころじゃない。

 もう一度歩き出し確認する。気のせいじゃなかった。歩くとまるで荷物を持っていないように歩ける。これってもしかしてウォーキングのスキル効果?


「あの、薬師ギルドの分も積んでもらっていいですか?」


 商業ギルドと薬師ギルドの建物は近くにあるし、手紙の配達依頼のことを考えたら一度に持っていった方が手間が省ける。何かあった時の時間的な余裕も出来る。これが勘違いだったら謝って、最初の予定通り一件ずつ回っていけばいい。


「おいおい、本当に大丈夫かよ」


 文句を言いながらも準備してくれるのはありがたい。

 背負子に一〇袋セットしたら小さな山が出来た。視覚的にも重そうだ。実際さっきの二倍の重さだから、背負った瞬間はズッシリときた。

 それでも歩き出したらそれが消えた。思った通りだ!


「それじゃ行ってきます!」

「お、おお。頑張れよ」


 元気よく言ったら保管庫の職員は驚いていた。

 最初はこんな目立つ荷物を持って襲われないか心配になったが、冒険者ギルドのマークのついた荷物を奪うことは、冒険者ギルドに喧嘩けんかを売ることと同義なので大丈夫だろうと言う。ただ絶対はないから、裏道に入らずメインの大通りを歩くようにと注意された。



 指示通り大通りを進む。そもそも道が分からないから裏道になんて入ったら迷子になる。薬草の配達依頼を受けた理由の大半は道が分かりやすいからというのもあった。

 しかしすれ違う人が時々驚くのは何故だ? と思ったところで思い出した。重さを感じないから忘れていたが、大きな荷物を運んでいるんだった。

 薬草の配達依頼は、特にトラブルに見舞われることなく終わった。

 そう、問題が起こったのは手紙の配達依頼の方。何度も地図を確認したが途中で道に迷い、通行人に恐る恐る話し掛けてやっと到着した。お店の人に話し掛けるのにはあまり抵抗がないけど、ただの見知らぬ人に話し掛けるにはちょっと勇気がいるよね。

 届け先の家は煉瓦れんが造りで、庭先には綺麗きれいな花が植えられていた。ドアをノックすると、程なくして顔を出したのは妙齢の女性だった。手紙を渡すと首を傾げられたが、差出人の名前を見て驚いたようだった。サインをもらおうと声を掛けようとしたら、突然手紙を開けて真剣に読み始めた。

 空気を読んで黙っていたら、突然部屋に引き返してしまった。ポツンと残された俺はどうすればいいのかと思っていたら、手紙を渡された。


「あ、あの。これをお願いしてもいいですか?」


 受領のサインと一緒に渡されたが、この場合どうすればいいんだ?

 顔を見ると不安そうなひとみが揺れているのが見えた。確か依頼人に手紙の配達完了の報告に行けという話だったし、渡してくれと頼まれた手紙は依頼人宛てのようだから手間はないか。


「分かりました。責任持って渡しますね」


 受け取るとホッとした表情を浮かべて、深々と頭を下げられた。

 それを持って今度は依頼人のもとに行く。あ、方向が商業ギルドのあった方だ。場所は東門の近くだから結構な距離になるけど問題はないな。ステータスを一度呼び出し確認したら、順調に経験値が稼げているし、レベルもいくつか上がっている。

 依頼人の家は、自宅というよりも作業場のようなところで、通された室内には色々な道具が並べられていた。


「それで今日は何の用でしょうか?」


 もしかしたらお客さんだと思われている?


「冒険者ギルドに依頼した、手紙の配達依頼の件で来ました」


 俺は冒険者ギルドからの依頼で手紙を届けた旨を伝え、受領証と預かった手紙を渡した。

 最初それを聞いた依頼者、ライさんは何を言っているのか分からないといったような顔をしていたが、思い出したのか急に挙動不審になり出した。受領証と、受け取った手紙の差出人の名前を見て驚いていた。

 サインをもらい帰ろうとしたら何故か呼び止められた。


「ちょ、ちょっとそこにいてください。ひ、一人で読むのはちょっと怖いので……」


 何を言っているのか分からないが気分の問題なのかな?

 手紙を恐る恐る開け、大きく深呼吸し、そして手紙を読み始めた。視線の動きでなんとなく手紙を読み終わったはずなのに反応がない。あ、目をゴシゴシとこすっている。また読み始めた。


「……やっ……」

「や?」

「……たぁ〜〜〜」


 突然大声を上げてこぶしを天に向けて突き上げた。

 それをジッと見ていたら、俺の存在を思い出したのか顔を真っ赤にしたが、


「ありがとう、本当にありがとう」


 と何故か物凄ものすごく感謝された。ついていけないんだが?

 詳しく話を聞いたらラブレターを送り、色よい返事をもらったらしい。


「おめでとうございます?」


 とは言ったものの、どういう反応が正解だったか分からない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る