第1章ー⑤

 教えられた道を進み、一軒の大きな建物を見上げる。掲げられた看板を見ると、冒険者ギルドと書かれている。日本語じゃないのに、不思議と読める。元の文字はそのままで、日本語が吹き出しのように浮かんでいるのが見える。字幕のような感じだ。

 俺がイメージする冒険者ギルドは、荒くれ共の巣窟そうくつ。グレイに勧められたとはいえ、緊張するな。


 大きく息を吸い込んで一歩足を踏み入れる。混雑していると思ったら人の姿はそれほどない。正面には受付があり、左側は壁を埋め尽くすほどの用紙が貼られている。所々剥がされたのか歯抜けのように空いている。その前に数人が立っていて何事か言い合っている。

 その時大きな声が聞こえたので、反対側の声のした方を見ると食堂のようだ。が、テーブルを囲む冒険者らしき人たちは、ジョッキのようなものを手にしている。昨夜宿で同じようなものを見た気がする。あれは……朝から酒盛り?

 唖然あぜんとして立ち尽くしていると、それに気付いた受付の一人が元気よく声を掛けてきた。


「冒険者ギルドにようこそ。ご利用は初めてですか?」


 声に導かれるように受付に行く。同時に対応出来るようになのか複数に分かれている。いくつかは既に埋まっていた。

 耳を傾けると受付嬢をナンパしているようだった。

 それを見てふと思いつき、その冒険者に鑑定を使ってみたら鑑定不可と表示される。試しに受付嬢にも使ったが結果は同じだった。

 どうやら人間を鑑定することは出来ないようだ。レベルが低いからか、そもそも人を鑑定することが出来ないからかはまだ分からない。


「はい。ギルドの登録がしたくて」


 うなずいて話を聞いた。

 受付の女性の名はミカル。年は一五歳。ギルドの受付嬢になって一年になり、やっと新人を卒業したとうれしそうに話してきた。


「え〜、と。それでギルドの説明は?」


 指摘すると、恥ずかしそうに頬を赤く染めて説明してくれた。

 冒険者ギルドはランクがS、A、B、C、D、Eと分かれていて、Sが最高で、Eが最低ランクになる。

 ランクを上げるには依頼をこなしていく必要があり、失敗するとペナルティーを課せられることになる。またAランク以上に上がるには試験があるとか。

 通常依頼で上げられるのはAランクまでで、Sランクになるには複数の指名依頼やギルドマスターの推薦をもらわないといけないらしい。

 他にも細かい決まりはあるようだが、気を付けるのはランクごとに受任期間があるということぐらいか。それを守らないと降格や再登録になるようだ。気を付けよう。


「依頼は壁に貼ってある依頼票を持ってきてこちらの受付で手続きをしてください。常時依頼に関してはその旨伝えてくれれば良いです。素材に関してはあちらの買取カウンターの方で精算されるので、そちらでの手続きをお願いします。今の話の中で分からなかったことはありますか?」

「討伐依頼の場合だけど、倒した魔物を解体しないまま持ってくるとどうなる?」

「魔物によっては買い取れないものもありますが、素材として使える部位のある魔物に関しては、解体料を引いた代金を支払わせてもらっています。まれに処分料をもらう魔物もいるので注意してください。ゴブリンとかゴブリンとかゴブリンとか」


 うん。ゴブリンに何か嫌な思い出でもあるのだろうか?


「あ、あとは依頼を受ける前に魔物を討伐した場合、それは依頼達成になりません。ただ素材の買い取りはします。それと場合によっては討伐依頼を受けた冒険者の成否に係わる場合がありますので、報告はお願いします」


 他に聞くことはないかと考え、今のところないと判断した。分からなかったらその都度聞けばいいだろう。

 登録料(銀貨三枚)を支払い、差し出されたカードに血を一滴垂らした。

 血を吸い込んだカードは、一瞬輝いたと思ったら真っ黒になった。

 手渡されてしばらくするとカードの色が白くなる。

 これは登録した個人が持つと色が変化し、ランクによってカードの色が変わっていくとのことだ。

 無駄に高性能だ。もしかしたらこのカード自体が魔法のアイテムなのかもしれない。

 そう思うと少し興奮してくるな。

 だからなのか、紛失した場合のカードの再発行にはお金が必要になってくるそうだ。

 その手数料銀貨一〇枚。うん、なくさないようにしよう。


 ミカルから説明を受けている間、隣の受付嬢には果敢に男たちがアタックしていた。

 さっきは言及しなかったが、ここの受付嬢は美人揃いだ。地球だったらアイドルにだってなれそうな容姿だ。逆に男たちは山賊のような厳ついのが多い。もちろんそうでない容貌ようぼうの者も中にはいるが少数派みたいだ。少なくとも今現在冒険者ギルドにいる人を見た感じだとだが。

 俺が席を外すと滑り込むように次の男がミカルに話し掛けている。

 依頼の相談ではなくて、食事のお誘いであるようだ。



 そろそろ昼の時間になるが、いくつか依頼を受けることにした。

 まずは壁に貼られた依頼を確認する。街中の依頼は報酬こそ低いが、内容的に安全なものが多い。主な依頼は配達だが、建築の補助や引っ越しの手伝いなんてものもある。

 手紙の配達? 締め切りの記載がないけど届ける気があるのか? 依頼者は匿名希望で、届け先は南西地区にあるとある民家か。

 これはお弁当の配達。日にちが指定されているから今日受けても実行日は違うか。けど誰も受けなかったらどうするんだろう。自分で届けるのかな?

 素材を道具屋や別のギルドに届けるものも存在するな。

 これは冒険者からの依頼だ。遠出するから荷物運び募集? 戦闘経験不問とあるけど、危険はないってことなのか? あ、こっちは自衛出来る者歓迎となっている。報酬は後者の方が高いな。

 パッと見選ぶなら素材運びかな。他のギルドが何処にあるか覚えるのにちょうど良さそうだし。

 ナンパに撃沈して立ち去る男と代わるようにミカルに依頼書を渡す。


「商業ギルドと薬師ギルドへの薬草の配達に、ラ……手紙の配達ですね。東地区に南西地区と、届け先が反対方向で結構距離もありますが、いきなり三つも大丈夫ですか?」

「たぶん大丈夫」

「……それでは手紙はこちらになります。届け先の地図はこちらですが、手紙を届けたらサインをもらって……そうですね……今回は依頼者の方に直接報告してください。あと薬草は奥にある保管庫の方で受け取ってください」

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