第1章ー④

 今いる宿屋は街の外周部に比較的近い安宿だ。一応二階建てで、一階のスペースは食堂になっている。

 朝と夜の食事が付いて一泊銅貨一〇枚計算。本当はもう少し高いけど、まとめて一〇日分支払ったから少し値引きしてくれた。

 金貨で支払おうとしたら迷惑そうな顔をされたが、今回は初めてということでどうにか応じてくれた。やはり金貨は一般的に目にするものではないようだ。

 一応商業ギルドで両替をしてくれるらしいが、ギルド員以外だと手数料を取られるとも教えてもらった。金貨の使える店では金貨をどんどん使った方がいいかもしれない。けど細かいお金ばかりで数が増えると、持ち歩くのに苦労しそうだ。

 けど餞別せんべつでもらったのが銀貨二枚に銅貨一〇枚だったことを考えると、服屋での臨時収入がなかったら所持金のほとんどがなくなっていたことになる。良心があるならそんな少ない金額を餞別で渡すとは思えないが、良心がないから追い出されたんだよな。ただあの騎士の態度からお金を横領した疑いもなくはないと思う。


 ……考えるだけ無駄だな。

 あとはもう減る一方だろうから、何かしら稼がないと駄目だ。宿代や屋台の値段を考えれば金貨があるから、かなりの余裕があると思うが、何が起こるか分からないのが世の常だ。現に異世界なんてところに今いるし。


「まずは身分証を手に入れないとか……」


 これがないと色々不便だ。特に町の出入りにこれがないと、入場するごとに金銭の支払いをしなくてはならず、町によってはかなりの額を請求される場合があるらしい。また犯罪履歴の確認を理由に、取り調べのため拘束される場合があるという。身分証はいわば身の潔白の保証書のようなものらしい。犯罪者になればもちろん取り上げられることになる。

 そのことに驚いていると女将さんは不思議そうな顔をした。

 街の中にいる以上、入場しているのだからその仕組みを知らないことに疑問に感じたのかもしれない。


「身分証を手っ取り早く手に入れるには、ギルドに所属する必要あり、か」


 一般的なのは冒険者ギルド。これは特別な技能がなくてもお金を払えば登録可能。

 他には錬金術ギルド。薬師ギルド。商業ギルド。魔術師ギルドなど色々あるが、特定の技能を習得しないと本登録出来ないところもあるそうだ。


「冒険者ギルドか……やっぱ異世界の定番だよな」


 それに錬金術や魔法も習得スキルリストにあるし、もう少しこの世界のことが分かってきたら覚えたいな。ギルドに入るかどうかは別にしても、魔法を使えるなんて、アニメや映画を見て何度そんな特別な力が欲しいと思ったことか。それが今では普通に使えるかもしれない世界にいる。



 ステータスオープン。と、心の中で唱えるとステータスパネルが表示された。

 昨日あれから試したところ、声にしなくても呼び出せることが分かった。閉じる時も同じように唱えないと表示されたままになるようだ。歩くと視界の邪魔にならないように勝手に移動する親切設計なのは、誰の御業みわざかちょっと気になる仕様だ。

 そして宿に到着するまでにあちこち街中を歩いたおかげでさらにレベルも上がっている。


――――――――――――――

名前「藤宮そら」 職業「無職」 レベルなし

HP60/60 MP60/60 SP60/60


筋力…50(+1) 体力…50(+1) 素早…50(+1)

魔力…50(+1) 器用…50(+1) 幸運…50(+1)


スキル「ウォーキングLv 5」

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1取得)」

経験値カウンター 452/6000

スキルポイント 4


習得スキル

【鑑定Lv 2】

――――――――――――――


 色々と増えていた。経験値カウンターはスキルの効果通り歩くごとに増えていき、数値が上限に達するとレベルが上がる。今のところ1レベル上がるごとに上限が1000ずつ増えていっている。

 レベルが上がるとステータスはそれぞれ10上がった。

 それと同時に筋力…50(+1)と表示されるようになった。カッコ内の数値は、これは職業による補正数値なのでは? と勝手に思っている。

 スキルポイントも1レベル上がるごとに1ポイントずつ増えていっている。

 今スキルポイントが1減っているのは、鑑定スキルを取る時に使用したためだ。

 また習得スキルのレベルを上げる方法は、熟練度とスキルポイントの二通りあることも分かった。

 熟練度はスキルを使用することで上がっていく。この熟練度はレベルが上がるごとに要求される数値も増えていくようだ。

 鑑定のレベルはこちらで上げてみた。

 スキルポイントで上げる場合は、Lv 2で2ポイント、Lv 3で3ポイントを要求されたことを考えると、レベルに応じたポイント数が必要になっていくようだ。

 他に特筆すべきことは……やはり職業だろう。といっても、何か条件があるのか今は文字が灰色になっていて選ぶことが出来ない。

 一応職業には剣士、魔術士、錬金術士と色々あるが、剣王や魔導王などは見当たらない。



 昨日一日で分かったことはこんなところか。と、考えていたらお腹が鳴った。

 窓の外を見るともう日が昇り、通りを歩く人の姿がちらほらと見えた。

 朝食はパンに、スライスしたような薄いお肉にサラダとスープが付いてきた。

 味は昨夜食べた食事と違って塩分控えめであっさりとしている。

 夜は一日に消費した塩分を補充する意味もあって、濃い味付けにしていると言っていた。

 素材の味そのままといった感じで、お世辞にも美味しいとは言えない。パンも硬くてスープに浸して食べる感じだし。

 けどこれでも値段を考えると美味しい部類に入るみたいなんだよな。誰一人文句も言わずに食べている。これがこの世界の普通なのだろう。


 食事を終えて部屋に戻って一息。しばらく時間をつぶしてから宿を出た。

 部屋を出る時に女将さんにシーツの交換だけは頼んだ。これは連泊する時にどうするか聞かれたので、お願いしておいた。


「まずは話を聞きに行くか」


 独り言が増えてきたな。

 街には地図なんてないから、人に聞いて場所を確認しないといけない。誰かに聞こうと思ったがなかなか話し掛けられず、気付いたら目の前に屋台があった。


「おっ、誰かと思えばソラじゃねえか。見違えたぞ。今日も食ってくか?」

「悪い。宿で朝食を食べたばかりなんだ」

「そっか。まぁ、腹が一杯の時に食っても仕方ねえしな。それで今日はどうしたんだ?」

「……ギルドの場所を探してたんだ」


 グレイの話だと、ギルドは大通りに面したところにあるから、迷うことはないだろうと言われた。各ギルドの建物は縄張りでもあるのか、一部のギルドを除いて一軒一軒が離れた位置にあるらしい。


「身分証ね……ソラは何がしたいんだ?」

「……体力には自信があるかな? あとは色々なことをやってみたいと思ってる」

「色々か……特定のスキルがないと大変なとことかあるからな。門前払いされたりもするし」


 この辺りは宿屋で聞いた通りだな。


「迷っているなら冒険者ギルドがいいと思うぞ。魔物の討伐に素材の採取依頼……街中での荷物の配達とかもあったかな? とにかく自分に合ったものが何かあるはずだ。特別なスキルがなくても登録出来るしな。それに冒険者ギルドに登録したからといって、他のギルドに所属出来なくなるわけでもないからよ」

「……そうだよな。うん、ありがとう。まずは冒険者ギルドに行ってみるよ」


 グレイの助言に従い冒険者ギルドに行くことにした。他は……必要になった時に詳しい話を聞けばいいか。

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