第1章ー②

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スキル「ウォーキングLv -」

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1取得)」

経験値カウンター 21/1000

スキルポイント 0

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 しかし水晶の方に表示されるステータスを見ると追加された項目の表記がない。

 歩くだけでレベルが稼げるとか……けどレベルなしだったからこれは何の経験値なんだ? あ、スキルにLv って付いているからこれか?

 ただ経験値カウンターの数値は0ではなく21となっている。

 水晶まで歩いた歩数がカウントされたのか?

 しっかり覚えていないがそれぐらいの歩数を歩いたような気がする。あとは気になるのがスキルポイントか。


 考え事をしていたらいつの間にか周囲が静かになっていた。

 顔を上げて王様を見ると顔を逸らされた。

 次にローブの老人を見たら同じように顔を逸らされた。


「うむ。此度は六人の選ばれし勇者を無事呼び出すことが出来た。これより歓迎の宴を開こうと思う! 勇者の皆様はこちらへ」


 どうやら俺のことはなかったことにするようだ。

 召喚された同郷の人たちは、困惑する者、視線を逸らす者、心配そうにする者とそれぞれいたが、最終的には強制的に連れていかれた。

 職業が立派でも、レベルが高くても、戦う術なんてない社会で生活していたんだ。武装した騎士に囲まれたら従うしかないのだろう。

 一人残された俺の目の前に、同じく残っていた騎士が近付いてきて小さく「ついてきてください」と呟き、返事も聞かずに歩き出した。


 結果は、ハイ、城から追い出されました。

 王城の扉の前までついていくと待つように言われて、三〇分ぐらい見張りの監視のもと待たされた。

 やがてそれなりに豪華そうな馬車がやってきて、中に押し込まれ、行き先も告げられずに動き出した。

 窓にはカーテンが付けられていて外は見えない。まさかこのまま何処かに監禁とか?

 目の前には屈強な騎士が二人座り、両隣にも挟むように座っている。逃げる隙はない。もっとも隙があっても何処に逃げればいいのか分からないが。揺れた時に触れる金属鎧が痛いんですけど。


「降りろ」


 馬車が停まると、掃き出されるように外に追いやられた。

 振り返るとそこには立派な門があり、今は開いている。門の向こう側には立派な城があり、城に続く道には豪華な、煌びやかな大きな家が道を挟んで立ち並んでいる。

 唖然あぜんとその光景を見ていたら、遅れて馬車から下りてきた騎士の一人から、「餞別せんべつだ」と小さな袋を投げ付けられた。

 どうにかキャッチして確認すると、銀色に輝く硬貨が二枚と、銅色の硬貨が一〇枚入っていた。

 これが多いのか少ないのか判断出来ないが、騎士に目を向けるとニヤニヤと馬鹿にしたようにこちらを見ている。悪意を感じるのは気のせいか?

 やがて騎士が乗り込んだ馬車は門の中に消え、開いていた門がゆっくりと閉まっていった。



「世界は違っても人は人か……」


 何処の世界でも嫌な奴はいるなと思いつつ、どうせもう会うこともないだろうと街中に目を向ければ、今まで見たことのない世界が広がっていた。


「…………っ!?」


 圧倒されて言葉が出ない。

 ほんの少し前まで抱いていた嫌な感情が一気に吹き飛んだ。

 何も知らなければ仮装のパレードと思ったかもしれない。道行く人は剣やつえを持ち、服装もゲームで出てきそうな鎧を身に着けた人や、物語の中の魔女が被るようなつばの広いとんがり帽子の人もいる。異国情緒を思わせる服装は、まるで自分がゲームの世界にでも入ってしまったような不思議な感じにさせる。

 立ち並ぶ建物も石材やレンガを積み重ねて造られていて、一瞬タイムスリップでもしたんじゃないかと錯覚させられた。本やネットでしか見たことがない、中世ヨーロッパのような風景が広がっている。

 しばらく我を忘れて見惚みとれていたが、多くの視線を感じて我に返った。

 最初金髪ばかりの中に黒髪の男がいるのが珍しいのかと思ったが、相手と自分の服装を見て、明らかに浮いているのを感じた。場違い感が半端ない。確かに制服姿の俺は物珍しく目立っている。

 逃げるようにその場を離れながら、今置かれた状況を考える。ドキドキする鼓動を必死に抑えながら、現実的に。


 第一に、お金の価値を早急に知る必要がある。特にこのお金でどれぐらい生活が出来るか。すぐになくなるようなら何かしらの手段でお金を稼ぐ必要がある。

 第二に拠点となる場所の確保。やっぱ宿かな? さすがに野宿とかは怖い。街行く人を見れば軽装の人もいるけど、普通に武器を持っている人の姿が視界に入る。寝ているところを襲われたら、一瞬で命がなくなりそうだ。

 あとは……この世界についての根本的な知識か。

 そこまで考えて不意に足が止まった。


「この美味しそうな匂いは……何?」


 キョロキョロと周囲を見回し、発生源を見付けると無意識に足が動いた。


「なんだ兄ちゃん。冷やかしなら向こうへ行ってくれ」


 ジッと眺めていたら怒られた。

 お腹が空いていないはずなのに、無性に食べたくなった。その漂う匂いに、抗う術がない。


「これで一つもらえるか?」


 ある意味チャンスだと思い、銀貨と銅貨をそれぞれ一枚差し出す。

 あ、すごく変な顔された。


「おいおい、兄ちゃん。銀貨なんて出されても俺じゃ釣りなんて出せねえよ。銅貨なら、銭貨八枚の釣りだな」


 俺は銅貨を差し出し、串焼くしやき一本と銭貨八枚を受け取った。

 色々と聞きたいが、まずは一口。と思い手が止まった。

 一見すると何でもない肉の串焼き。他の人も普通に食べているから食べられるものであるのは違いない。しかし……外国の屋台で食事する番組で、あとからその材料を聞いて驚愕きようがくする芸能人。それを何故か思い出した。

 思わず買っちゃったけど、本当に食べても大丈夫なのか?

 匂いだけなら間違いなく美味うまい。断言出来る。脳は食べろと指令を発しているが、手がこれ以上動かない。

 そんな俺をいぶかしげに見てくる屋台のおっさん。間違いなく今の俺は不審者だ。

 どうする……どうする?

 助けてくれる人は誰もいない。

 その時呼び出したままだったステータスパネルの一部に視線が釘付くぎづけになった。


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スキル「ウォーキングLv 1」

効果「どんなに歩いても疲れない(一歩歩くごとに経験値1取得)」

経験値カウンター 149/2000

スキルポイント 1

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 ウォーキングのレベルが上がってスキルポイントが増えている。

 さらに習得可能スキルというリストが新たに表示されている。

 そのリストの先頭にあるスキル……【鑑定】を見た瞬間。考えるよりも先に選んでいた。

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