第1章

第1章ー①

「我の呼びかけに応えし者たちよ。よくぞ参った!」


 視界が回復したと思ったらそこは見たことのない場所だった。高校に行くために電車に乗っていたはずなのに、ここは何処だ? 手に持っていたはずのかばんはないし、制服のポケットの中を確認したがあるはずのものが何一つない。あ、ハンカチはある。

 目の前には大仰に手を広げた派手な服を着たおっさんが、興奮したように震えている。頭にのっているのは王冠?

 その周囲にはひげを蓄えた恰幅かつぷくの良い中年が。左右には整列してたたずよろい姿の騎士っぽい人たちが、警戒しながらこちらの様子をうかがっている。


 俺の周囲には、同じような……服装じゃないな。学生服やスーツ姿、カジュアルな軽装をした男女が、俺を含めて七人いる。男が三人、女が四人だ。

 誰もが戸惑い、中には不安そうな顔をした者もいる。

 そもそも呼びかけに応えた覚えはないし、勝手に呼び出したのだろう。原理は謎だ。


「ここは何処ですか? それにあなたは誰ですか?」


 一人の学生君(たぶん)が一歩前に出て問いかけた。

 その瞬間騎士が動きを見せようとしたが、目の前のおっさんが手をかざして止めた。


「ここはエレージア王国。そして余はエレージア王国国王である。此度は我が王国に伝わる秘術、異世界召喚によって、そなたたちをここに呼び寄せさせてもらった」


 長々と退屈な話を聞かされた。

 要約すると、召喚された者は優れたスキルの恩恵があるので、その力を使って復活した魔王を討伐してくれとのこと。

 学生君が魔王を討伐したら元の世界に戻れるか聞いたら、魔王の持つ魔石を使用することで元の世界に戻ることは可能らしい。魔石とは人間でいうところの心臓。殺して奪えということか?


 説明が曖昧あいまいなのは、あくまで文献に魔石を使用して帰還した勇者がいるとの記録が残っていたからだと、彼らは主張した。


「では、勇者よ。ステータスオープンと唱え、その力を我に示すがよい!」


 周囲からステータスオープンというつぶやきが聞こえる。


「ステータスオープン」


 俺も逆らわずに言う。

 言葉とともに透明なパネルのようなものが目の前に浮かび上がった。

 そこにはゲームでいうステータスのようなものが表示されている。

 驚き周囲を見たが、他の人のものは見えない。ただ集中して宙を見る様から、同じようにパネルは見えているようだ。


――――――――――――――

名前「藤宮そら」 職業「無職」 レベルなし

HP10/10 MP10/10 SP10/10


筋力…1  体力…1  素早…1

魔力…1  器用…1  幸運…1


スキル「ウォーキング」 効果「どんなに歩いても疲れない」

――――――――――――――


「なんだこのステータスは……」


 弱キャラだ。最弱モンスターにも勝てるかどうかも怪しい?

 向こうの世界では学生だったが今は無職。何もしていないからか?

 そもそもレベルなしってなんだよ。最初はそういう仕様なのか、それとも文字通りないのか。なかった場合、これ以上の成長は見込めないということになるのか?


「確認は済みましたかな? 済んだなら一人ずつ、この水晶に手を触れるがよい」


 王のかたわらに立っていたローブ姿の老人の指し示す先には、豪華な台に置かれた水晶があった。

 これに触れると、触れた者のステータスを他者が見ることが出来るようになるという。

 一人一人。順番に水晶に触れていく。

 まずは先ほど国王に質問していた、学生服をしっかり着込んだ少年。

 ラフな格好で、少し眠そうな女性。

 スーツをビシッと着こなしたお姉さんと、その女性とは真逆の、おちゃらけた印象を受けるスーツを着た男性がその後に続く。

 腰まで伸びる長い黒髪が目立つブレザーの制服を着た少女が水晶に触れ、最後に茶髪のおかっぱヘアーの子が、背を丸めて恐る恐る水晶に近付く。

 ステータスが次々と表示され、それを見た王様と老人、その周囲にいる人たちから、次々と歓声があがる。


「剣王」「魔導王」「聖騎士」「剣聖」「聖女」「精霊魔法士」


 職業の呟きと共に、そのレベルにも驚きの声が上がる。

 高い者で既に50。一番低くても30だ。

 スキルだって皆複数持っている。

 多い者だと一〇個以上もあるだと? 一番少ない者でも六とか……改めて自分のステータスと見比べて思う。この差は残酷過ぎません?

 期待するように見てくる無数の視線が痛い。

 しかし逃げることも出来ず、一歩二歩と歩いていき、あきらめて水晶に触れた。

 一瞬ノイズのようなものが走ったが、同じようにステータスパネルが他の人たちにも見えるように表示されたようだ。

 誰もがその表示に言葉を失う。悪い意味でだけど!

 それは同じように召喚された同郷の者たちからも、だ。さっきまであった熱狂が波を引くように収まっていく。


「何じゃこのステータスとスキルは!」


 王様の叫びはごもっとも。

 むしろ俺が聞きたい! やり直しを要求する。

 ざわつく周囲と自分のダメっぷりに心が折れそうになったその時、ふとステータスパネルに表示されたある箇所が目にとまった。


「……あれ?」


 さっきまでと違っている。

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