犬の散歩(猫の手を借りた結果)
しょうわな人
第1話 散歩に行かない我が愛犬
我が家には飼いだして三年になる愛犬、サンタという雑種犬がいる。
カタカナでサンタと名付けたのは亡父で、拾って来たのも亡父だった。
そして、先々月に父が病で逝ってしまってから、サンタは散歩に行かなくなってしまった。それまでは、朝は父。夕方は私が散歩に行っていたのだが、朝、母が散歩に行こうと誘っても小屋から出てこないという。
そこで、私が学校に行く前に時間があったのでサンタに散歩に行こうと誘ってみたのだが、小屋から出てくる事は無かった。
仕方なくそのまま学校に行き、帰ってから何時もの時間にサンタに散歩に行くよと声をかけたが、何故か出てこない。私は小屋に手を入れてサンタを引きずり出した。
グデーとして、一歩も歩かないよという顔で私を見るサンタ。けれども、朝から一度も小も大もしてないのは体に悪いから、私はサンタを抱えて何時もサンタが小をする場所におろし、小を終えたら次の場所にまた抱えていき、大の場所にも連れていきで、全て抱えて歩いた。
「もう、今日はしょうがないけど明日からはちゃんと歩いてよ!」
そう言ったけれども無理だろうなとは分かっていた。サンタは亡父を主人としていて、母や私は同じ群れの同等の立場に見ていたんだろうから。
その夜に母に相談してみたけれど、二人とも何も解決策を思いつかないまま、一週間が過ぎた。
さすがに私もウンザリしてきて、もう散歩に行くのイヤだって母に言った。
「悲しいのはサンタだけじゃないのにね……」
母はそう言ってサンタの小屋に行き、長い時間サンタの背を撫でながら語りかけていた。
翌朝である。私はイヤイヤながらも散歩に行く為にサンタの小屋に向かった。ソコには外に出て、尻尾を振りながら見知らぬ猫と遊んでいるサンタがいた。けれどもサンタは私を見た途端に小屋に引っ込んでしまった。
猫はそのまま大人しく座って、私が近づいても逃げなかった。私は猫に話しかけた。
「どこの子かな? 触ってもいい?」
私は下から猫の鼻先にゆっくり手を持っていった。コレも父に教えて貰ったことだ。いきなり触るのはダメだ。先ずは匂いを嗅いで貰って敵意が無い事を示しなさいと。
猫は私が出した手の匂いを嗅いで、頭を擦りつけてきた。ちょっと安心した。私は猫の下あごからノドのあたりを撫でながら愚痴を言う。
「さっき、アナタと遊んでいたサンタがね、お父さんが亡くなってから、散歩に誘っても行ってくれないのよ。アナタからも言ってやってくれる?」
何を馬鹿な事を言ってるんだという自覚はあったけど、その時の私は何となくこの猫ちゃんなら分かってくれそうなんて思っていた。私の言葉を聞いた猫はサンタに向かって、ウナーンって鳴いた。
そしたら、なんとサンタが小屋から出てきた。私はビックリしたけど、チャンスだと思ってサンタに散歩紐をつけた。そして、歩きだそうとしたけどサンタは座り込んで動かない。しかし、そこで猫ちゃんが、数歩進んでサンタにまた鳴きかけたら、サンタは猫ちゃんに向かって歩き出した。
「うわ、有難う。猫ちゃん」
私は久しぶりに歩くサンタと散歩を楽しんだ。家まで帰ってきたら猫ちゃんはどこかに行ってしまったけれど、母にその事を話すとそう言えばと
「お父さんが亡くなって暫くしてから、見かけるようになったのよね。その猫。案外、お父さんが心配して猫になって見にきてくれたのかもね」
なんて言い出した。そして、夕方になって母と二人でサンタの小屋に向かうと、また猫ちゃんがいた。猫ちゃんは母の足に顔をすり寄せている。
「あらあら、随分と人懐こいのね。でも有難う。アナタのお陰でサンタも散歩に行ってくれるのね」
そう言って母は猫ちゃんを撫でていた。そして、夕方も猫ちゃんの先導でサンタは散歩に行った。
それから、朝、晩になるとどこからともなく猫ちゃんは現れて、サンタの散歩についてくれた。
そして、そんな中サンタの心も変わってきたのを私も母も感じていた。
今はサンタの中で母が群れのリーダーで、次に猫ちゃん。そして私。サンタ自身は群れの最下位だと認識してるようだ。
そう思っていたら、猫ちゃんがパッタリと来なくなった。不思議に思って母に聞いてみたら、
「本当にお父さんだったかもね。もう大丈夫だと思って来なくなったのよ、きっと」
そう笑って言っていた。
真実は分からないけれど、もしそうなんだとしたら、母によく擦りついて行ったのも分かるななんて言いながら、母と泣き笑いをした。
お父さん、助けてくれて有難う……
犬の散歩(猫の手を借りた結果) しょうわな人 @Chou03
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