赤ちゃんと猫

NADA

猫の手を借りた結果

あぁ、猫の手も借りたいってこういう気持ちなんだ

窓際で丸くなって寝ている猫のモモを見ながら、志保しほは思った

「モモ~助けて~」

と声に出して言ってみたが、モモは耳を少し動かしただけ

モモはうちに来てから6年くらいになる、おばあちゃんネコだ


泣き止まない生まれたばかりの息子を抱えて、新米ママの志保はぐったりしていた

「モモだけが頼りなの~」

もう一度言うと、モモは立ち上がって部屋を出ていってしまった

「猫の手なんて借りれないじゃん…」


里帰り出産で、実家に帰って来た志保だが、実家に戻ってもたいへんなのは、変わらなかった

志保の母親は、志保が高校生の時に病死している

実家には、年老いた父親とフリーターの弟とモモだけだった


それでも、夫の長期出張と出産の時期が重なり、一人だけで新居にいるよりはと、帰って来たのだが…

手伝ってもらえるどころか、父親と弟のご飯を作ったり、洗濯をしたりと、どっちが手伝いなのかわからないという状態


さすがに産気付いた時は、車で病院に付き添ってもらえたが、本当にそれだけだった

こんな時の男というのは、役に立たない…

お母さんがいたら、なんて考えても仕方ないこと


産婦人科を退院してから三日、ほとんど寝られていない

限界だ

ぼんやりとした頭で、ミルクを作る


赤ちゃんの泣き声で、我に帰る

あぁ、意識を失いかけた

眠い、眠くてどうしようもない

もう午前2時過ぎだ

泣き続けている理由はわからない

オムツはキレイ

ミルクは足りてる

ずっと、あやしている

赤ちゃんの声が遠のく…


「姉ちゃん、大丈夫か!」

ドアを叩く音で、目が覚めた

もう少しで、抱いている赤ちゃんを床に落とすところだった

ドアを開けると、弟の忠志ただしが立っていた


「ずっと泣き声が止まないから、心配で」

バイトから帰って来た忠志は、風呂入ったから、と手を差し出す

疲れきった志保は、藁にもすがる思いで、赤ちゃんを弟の忠志に預けた


赤ちゃんの泣き声が、より一層激しくなる

「あ!服キレイなの?」志保が問い詰めるように言う

「洗濯してあるよ、キレイだから」

忠志が赤ちゃんを上下に揺さぶりながら答える


「そんなに強く揺らさないで!もっとゆっくり、ゆーらゆーらって感じで」

こう?と忠志がぎこちなく赤ちゃんを抱えて揺らす


「歩きながら、リズムとって…」

細かい注文をつけて、指示をする志保

そう、そう、その調子…、と言いながら眠りに落ちていく

「ゆーら、ゆーら、だよ…」


明け方、志保がはっとして気がつく

赤ちゃんは…!大丈夫?

部屋を見渡すと、暗がりの中、ソファーに座ったまま赤ちゃんをお腹の上に抱えて、弟の忠志が口を開けて寝ていた

猫のモモも弟に寄り添って寝ている

赤ちゃんはすやすやと寝息をたてている


猫の手より、役に立つじゃん

あの忠志が、手伝ってくれるなんて…

小さな頃から、やんちゃで世話の焼ける弟だったけど、優しいとこも変わらない


志保はまだ起き上がる気力がなく、二人と一匹を見ながらうとうとした

ありがとう…助かったよ

静寂の中、窓から明るい朝陽が差し込んできていた










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赤ちゃんと猫 NADA @monokaki

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