第44話
俺は中に入ってきた人物の姿を見て愕然とする。
「
「……っ。銅次も来てたの」
傷だらけの身体を隠すように手で覆う。しかし、その挙動ですら痛むのか、「……うあぁ」と声を漏らす。それに
「なにがあったんですか?」
「それは、その……」
傷を負った素子さんに問いかける。
俺に何が起こったのかを伝えたくないのか、素子さんの歯切れは悪かった。彼女が自分の意思で口を開くのを待つが、その間をイムさんが許さなかった。
こんな状況でも変わらず、笑顔で話しかける。
「いや~。はっはっは。
「イムさん!」
道化師のような笑みを浮かべるイムさん。
俺はそんなことよりも治療が先だと、
この場でいらないのは俺のようではないか……。
「珍しいこともあるもんだ。じゃあ、何が望みなんだい?」
「……この傷、治して欲しいの」
「お安い御用さ」
パチンと指を鳴らすと、目に見えて傷が癒えていく。アカネが持つ【魔能力】みたいだ。もっとも、傷を引き受けているわけではないらしく、イムさんの身体に傷は移行しなかったが。
数秒で全身の傷が癒えた
どこに行くつもりなのか?
また、傷を負うかもしれないと俺はその後を追おうとするが――、
「うわっ!」
閉じた扉が再度開かれた。
開いた扉の先にいたのは――、
「あれ……銅次。偶然なの。ご褒美を貰いにきたの?」
今、部屋から出たばかりの
時間を操る俺でも無理なことを、行おうとしているのか?
彼女の目的が分からぬ俺は、素子さんの小さな肩を抱いて揺する。
「無理、無理ですって! 流石に限界がありますよ!」
「……銅次は、何をそんなに焦ってるの? イムさん知ってるの?」
「さぁ。それが僕にも分からないんだ」
……厄介なことに。
この場には悪ノリをする人間がいた。誤魔化すための味方を見つけた
「銅次が……一番、公式戦頑張ったんだから、ゆっくり休むの。手の怪我も治ってないでしょ?」
「そうなんですけど」
俺は左手を見つめる。
イムさんは俺の怪我を今気づいたと、わざとらしく大げさに驚く。……いや、これは本当に今気づいたな。俺の怪我に興味はないだろうし。
「おや、言われてみれば、銅次くん。怪我してるじゃないか! よし、ここは僕がサービスで治してあげよう」
指の摩擦で乾いた音が響く。
「は、へ? 熱っ!?」
燃える炎を消火しようと腕を振り回すが、消える気配はない。それどころか制服へ燃え移り被害が拡大していく。
腕を振り回し焦り駆けまわる俺を、笑いながらも、
「おっと、行けない。漫画を間違えてしまったよ」
もう一度、指を鳴らした。
すると炎が消える。
焼け落ちた包帯からは、赤く溶けた俺の肌が覗いていた。怪我を治して貰うはずだったのに、怪我が増えているのだけど。
「はっはっはっは。本当に銅次くんは揶揄っていて楽しいよ」
イムさんが笑うと俺の傷が治っていく。
……どうせ、治すのだから火傷くらいいいと、イムさんは思っていたのか。
「ありがとうございます」
あまりにも衝撃的なことが起こり過ぎて、その前に何を話していたか忘れてしまった。
えっと……。そもそも、なんでこんなことになったのだっけ?
「そうだ、
治った腕て再び肩を揺する俺に、
「……ちっ。覚えてたの」
「口、悪くなってますよ?」
俺もその後を追って外へ出る。
ジェンガのような建物。俺がこの前来た時から、二ターン位回ったのだろうか。また、根元が細くなって頭が大きくなっていた。
俺は
「ちょっと、話を聞いてくださいよ!」
そんな俺に苛立ったのか。
「銅次には……関係ないの!!」
「
「これは、私の問題なの。私が
どうやら、
俺を関わらせまいとしての行動で、責任を一人で取ろうとしたようだ。
彼女と手を組んでいた。
そのことから、
俺と共に行動するために、手を切ろうとしたのだろう。
だったら、俺は無関係じゃない。
大体にして――俺達は仲間じゃないか。
「関係なくはないよ。だから、何が起きたのか教えてくれないかな?」
それでも、それでも
身体を恐怖に震わせる。
「銅次は大切な人だから、教えられないの」
決意を決めた少女は歩き出した。俺は何度でも呼び止めてやると手を伸ばした時、素子さんの足が止まった。正面から一人の女性が歩いてきたのだ。
前髪の半分を桃色に染め、頭には棘の生えたカチューシャ。銀の制服を革ジャンのような材質に変更した彼女は、バンドマンのようだった。
彼女は八重歯を覗かせるように笑った。
「やっぱり、ここに逃げてたんだな、
「なあ、
優しい仕草に反する怒号が響いた。
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