第43話
「いや~。公式戦。二回連続お疲れ様。二回やって一回勝てれば充分さ。これで僕も魔族の中でメンツが保たれたよ。良かった良かった」
アカネと別れた俺はイムさんの元を訪れた。久しぶりに会うイムさんはご機嫌で、玉座に座り嬉しそうに手を叩く。まるで、応援していた球団が勝った時のような喜び方。
テレビで観戦しているだけの応援者で所詮は他人事。
それを証明するかのように、
「うん。ちゃんと、一回目で負けた反省を二回戦で生かしたのは偉いよね」
……。
この男。
観戦すらしていなかった。
「……あの、イムさん。俺達は一回戦で勝って、二回戦で負けたんですけど……」
「え? そうなの?」
「はい、そうなんです」
「……」
「……」
自分が公式戦を引き受けておきながら、結果だけしか知らないのか。
それも勝敗の数だけ。どの試合で、どれだけ苦戦したかなどイムさんにとっては、どうでもいい情報なようだ。
不満を視線で投げかけていると、
「バン!」
イムさんが指を鉄砲の形に変化させ撃つ。
俺は咄嗟に時を止めて回避する。イムさんが困ったら人を撃ち抜く癖は理解しているから、いつでも加速できるよう身構えていたのだ。
「ちょっと! 自分が悪いのに攻撃しないでくださいよ!」
「……やだなー。攻撃じゃないよ。これは警告さ。油断するなって僕は言いたかったのさ」
「油断?」
「そう。一回目に勝ったからと、二回目に負ける奴は大概、無意識に油断してるのさ」
ふっと、自らの指先に息を吹きかけるイムさん。
二回戦目に負けた敗因は、俺達が人を殺さないと決めたからなんだけど、説明するのも面倒くさいから、そういうことにしておこう。
「ま。それでも一度は勝ったから、その分の【ご褒美】は上げなきゃね。何がいい?」
「ご、ご褒美?」
「そ。公式戦に出て勝った人間には、魔族的にご褒美を上げなきゃいけないルールなんだ。なにがいい? ギャルのパンティは無理だけど、宇宙から来る侵略者くらいなら倒して見せるぜ?」
「……どんな
個人的には好感は持てるけども。
ただ、侵略者を倒すこと出来るならば、是非とも魔族の侵略をどうにかしていただきたい。
まあ、どうせ無理なんだろうけどさ。
「冗談はその辺にして下さいよ。因みに【ご褒美】って、何を貰えるんですか?」
「ま、そうだね。望みを叶えるって感じかな」
「だから、神龍だった訳ですね」
「そういうこと――。ランプの魔人でも良かったんだけどさ、ほら、僕ってそういうキャラじゃないじゃない?」
「……」
いや、どちらかというと魔族なんだから、魔人の方がしっくりくるのでは?
龍のような神々しさもないし……。
一々、突っ込むと話に終わりが見えないので、俺はスルーを決めた。
「簡単な望みですか……。他の人は例えばどんなことをお願いするんですか?」
「えっとね、さっき来た
「なるほど」
実に
「
そう言えば、
つまり、お菓子のために人を――。
俺は思考が深く潜り込みそうになるのを、首を振って切り替えた。
「とにかく、ちゃんとした望みを言わないと、言い降らされることは分かりましたよ」
軽口で身を軽くすることで、暗い思考の中から浮かび上がる。
無理矢理、呼吸を肺に入れる俺にイムさんは笑う。
「やだなー。言い難いことはちゃんと隠すさ。もっとも、君の場合は何を望もうとも、乏しめることしか言う気はないよ」
「最低だ!!」
どんな願いを口にしても、意味はないではないか。
「はっはっは。冗談はさて置き、何が望みだい?」
「……ここで改まって言われても、言い辛いだけなんですけどね」
俺はしばらく考えた後に、思い付いた答えをイムさんに伝えた。
俺が望むこと。
それは――。
「公式戦は全部、俺が出てもいいですか?」
「え? そんなことでいいのかい? それくらい、【ご褒美】を使わなくても教えるけど?」
俺の願いにキョトンとするイムさん。
「それでいいんです。俺の【ご褒美】はそれで――」
もし、ここで俺が【ご褒美】を貰ってしまったら、どんな理由があれ、【ご褒美】のために戦ったことになってしまうのではないか。
そんな恐怖もあるし、なにより俺は公式戦を経験して改めて分かった。
理不尽に遊ばれる怒りを。
「分かった。銅次くんには必ず伝えるよ! 良かったー。楽な望みで」
俺の望みが楽だと喜ぶイムさん。
その時、「ギー」と、俺の背後で扉が開いた。
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