第40話
声が聞こえると同時に、俺達は闘技場へ戻っていた。開始と同様に一瞬のうちに景色が切り替わる。生命豊かな自然から、無機質な白色へと。
「良かった。二人とも無事……とは言えないみたいだけど、生きててよかったよ」
闘技場へと戻ってきた俺達に、
良かったは俺の台詞だ。森の中で合流が叶わなかったから心配だったんだ。
仲間の無事に安堵するが、それと同時に守れなかった人間もいた。その事実を俺は
「俺は……」
言葉を詰まらせた俺を見て、何が起こったのか察したのだろう。
「救えなかった人間もいたかも知れないが、君の言葉で救われた人間も沢山いるよ」
「それって、どういう――?」
開始前と明らかにテンションが変わっており、結果発表は投げやりだった。
「はい、それじゃあ結果発表。赤の
名指しされたことに肩を竦めて優しく微笑む。
「まさか、名前を把握して貰えるとは思わなかったよ」
悪戯な笑みが良く似合う美形な男。キザな動作が板に付く。
何が起きているのか理解していない俺達に、自らが何をしたのか、その行為を告げた。
「私はモノを透明にする
「え……?」
森の中に残されていた明らかな痕跡が突如として消えていたことを。それはどうやら、
驚く俺に、
「何をそんなに驚いているんだい? 君が人を殺さないでくれって言ったんじゃないか」
「でも、それは……」
正直な感想を告げる俺に、
「私もね、思い出したんだよ。母が私に
そう言えば、俺は
男だからふざけて
俺はてっきり、苗字が
「子供たちに
必要なのは『物』ではなく、自由に好きな本が読める『環境』。読み聞かせをしてくれる両親。母の言葉の意味をようやく理解したと語る
「そうか。やっぱり、お前が俺と同じ時期に力を手に入れてくれてよかったよ」
「……それは、私の台詞さ」
その言葉に俺は二人の仲間を見る。
銀色の制服を着た
だが、俺の喜びを壊すように向かいにいる赤の
「おーい。今回は楽しかったぜ。また、よろしくな?」
闘技場から去っていく赤の
銀の
「彼は……? 知り合いですか?」
話しかける
「スパイ……ですか。そんなことするメリットはない気がするんですけど」
「ああ。本人は女神の復活が目的って言ってたけど、なんのことだか……」
しかし、この場でどれだけ考えても答えが出る訳じゃない。俺は「パンっ」と手を合わせる。
「それよりも、今は――」
俺は戦いが終わってから、ずっと俺の背後でモジモジと髪を弄る
俺はその渦に吸い込まれるように近づき、深々と頭を下げた。
「
「……礼を言われることはないの」
頭を下げた俺の顔を覗き込む
「そんなことないですよ。今後とも俺と一緒に居てくれたら嬉しいです」
それだけで、俺は充分だ。
他人と過去は変えられないと言うけれど、人に影響を与えることは可能なのかもしれない。凄く難しいだけで……。
「い、一緒に……勿論なの」
頬を赤らめる
何を思ったのか、姿勢を正すと、「これ……読むの」と、【魔能力】が書かれた巻物を俺の眼前に突き出した。
「これは……」
【魔能力】が書かれた巻物。ルールを確認するときでも、頑なに見せなかったモノを自らの意思で俺に手渡した。俺は巻物を掴み顔を上げる。
「本当にいいんですか?」
「いいから、渡してるの」
スッと顔を背ける
「へぇ、
視線を巻物に落とす。
だが、その耳を
「……
「……アレ、ひょっとして、私、まだ恨まれてます?」
どうやら、初対面で
そんな二人を笑いながら、俺は巻物の中身を読んでいく。
ずっと気になってたんだよな。
いくつかの効果は分かってるんだけど……。
しかし、俺が予測していた
「これって、本当にフィギアスケートじゃないですか」
彼女が演技と言っていた意味が分かる。
巻物の紙面にはびっしりと、技の難易度と説明が乗っていた。演技プログラムの得点に応じて、演技を見た人間に点数分のダメージを与える。
それが不可視で不可避な一撃の正体だった。
見えないエネルギーを操るのではない。見た人間にダメージを与える。だから、木を盾にしても意味がなかったわけだ。俺は
「なるほど。これは誰にも見せたがらない訳だ」
演技さえ見なければ、攻撃は通用しない。【魔能力】を知らなければ脅威だが、知ってしまえばどうということはない【魔能力】。
躱すだけならば力を持たない人間でも行えることだろう。
俺の呟きに
「……でも、私は気に入ってるの。だから、今度からは、銅次のために演技するの」
果たして。
何が「だから」なのか、俺には良く分からなかったけど、お嬢様のように短いスカートの裾を摘まんでお辞儀する
「じゃ、帰ろうか」
俺は仲間となった二人と闘技場を後にする。
こうして、俺の二回目の公式戦は後悔と喜びを含んで幕が閉じた。
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