第39話
「きゃあああ!」
だが、
「ここも……なの」
人がいた痕跡は発見できるのだが、まるで、神隠しにでもあったかのように痕跡が消えるというパターンが多くなっていた。
この短期間で痕跡を残さず移動する方法を見つけたのだろうか?
理由は不明だが、とにかく俺達は誰とも出会うことはなかった。
一時間近く走り回っていると、ようやく人を見つけることが出来た。離れた場所から悲鳴が聞こえてきたのだ。
「行きましょう!」
俺は
木々を掻き分け悲鳴の元へ移動する。そこには赤の
俺と
「ちっ……。ポイントを横取りに来たか!」
制服を見て俺達が銀の
角ばった顔に鍛え上げられた肉体が特徴的な赤の
「こいつは俺の獲物だ。銀の
叫ぶと身体が「ミシミシ」と音を立て変化していく。身体から生える毛や人から大きく外れていくシルエット。
「生里と同じく生物の力を身に宿す【魔能力】か……」
「はっ!!」
気合の声を上げると男は空を飛んだ。
男の【魔能力】は【鳥】のようだ。もしかしたら、種類が明確に分かれてるのかもしれないんだけど、俺は生物には詳しくない。
それでも鳥が空を飛べることは分かる。
完全に宙へ舞われる前に引きずり下ろす!!
「させるか!!」
俺は【魔能力】を発動し、男の足を掴もうと跳躍するが――
「……あ」
天に伸ばした俺の手は届かなかった。その理由は単純で俺が跳ねた分の距離を男は動いただけ。
「ごめん……なの」
空中に飛んだ俺は、横に
彼女が滑り、演技している間は周囲への影響を無効化する。それは、敵だけでなく味方でも同じことが言えるようだ。
「演技が始まれば俺の【魔能力】は発動しないって……味方でもか!?」
俺の【魔能力】を無効化した
この戦いを俺に譲るつもりはないようで、
「みたいなの……。銅次は怪我してるんだから、黙ってみてるの」
地面に着地した
「いや、そういうわけには――」
いかないんだけど……そうするしかないよな。彼女が動き続ける以上、俺は役には立たない。
「
不可視で不可避な一撃がある。しかも、それは威力の調整が可能。
「
俺はそう信じてる。
だが、俺の認識は甘かった。
「……なっ!?」
その
鉤爪に変化した男の足に捕まれる
「そういうことか……」
俺は例え怪我をしていようとも、自分で戦うべきだったと後悔する。
「
更に厄介なことに変化することで、強化された身体能力に更に生物の力が上乗せされる。
「【魔能力】には明確に有利不利があるのか……!!」
鳥の鉤爪に掴まれた
バタバタと手足を動かすが、そんなものは抵抗にすらなっていないようだ。
「だとしても、なんで攻撃に転じないんだ?」
無抵抗に足掻いても、逃げられない。
俺は浮かんだ疑問を、宙に浮かぶ
「ははっはっは。無力に死んでいく人間ほど虚しい瞬間はねぇよな。死を悟った人間の目が俺は大好きなんだよ」
「……っああ!」
握る鉤爪に力を込めたのか、
どうすれば、彼女を助けられる!?
折角、俺の思いが届いたのに――。
「って、あ」
そうだ。
俺はもう、ここで見てる必要はないじゃないか。だって、
「肉体を変化させるあいつの【魔能力】には、俺は有利だ」
身体が強化され防御力は上がるだろうが、その分、手数で攻めればいい。
こっちは既に生里を倒してるんだ。
似たような【魔能力】を持つ男を倒せない訳がない。
「はっ!!」
この場における時を俺は支配した。
羽ばたく男の翼が遅くなり、
「……よし!」
俺は空中を飛ぶ男に手を伸ばすため、木々を利用し跳躍を高めていく。
木と木を壁キックの要領で幹を弾く。
「はっ。はっ。ははっ!!」
森を上空へ抜けた男。その高さであれば普通の跳躍なれば届かないと思ったのだろう。仮に届いたとしても、その分、自分も逃げればいい。
だが、俺の力がそれを許さない。
止まった男に俺の手が届いた。
俺は空を舞う男の頭上へ跳ねた。
素子さんを捕えた時点で、もっと高く飛んでいれば俺が届かなかっただろうに……。
いつでも逃げれるという油断。そのおかげで、俺の手が届く!!
「おらぁ!」
手を伸ばした俺は、羽毛が重なる柔らかな翼を掴んだ。そして、地面に突き落とすように放り投げた。
能力を解除すると、男は地面に向かって垂直に落ちる。
「うわあ!」
土煙を舞わせ地に伏す男。落下したダメージで拘束が緩んだのか、
「よし、じゃあ、このまま拘束してしまうか!」
すとんと地面に着地した俺は、再び能力を発動してグルグルと男を巻いていく。
今後、もし公式戦に参加した時のために、拘束用の道具を持った方がいいな。そんなことを考えながらも作業を終えた俺は、発動していた時間加速を解除する。
「なっ! 馬鹿な! いつの間に俺が……!?」
「取り敢えず、これにて一件落着だな」
パンパンと手を叩き汚れを払う。
後は……この人か。
俺が向き合ったのは、男に襲われていたターゲット役の男の人だった。足に怪我をしているのか、動けずその場で頭を抱えていた。
「……いやだいやだいやだ」
死にたくない。
そう繰り返す男性に俺は優しく手を置いた。
「もう、大丈夫です。俺達はあなたを殺す気はありません。勝負が終わるまでの間、一緒に行動しましょう」
「え……?」
男は信じられないという面持ちで俺達を見つめる。
男にとってここは狩場で、自分は狩られるのを待つだけの獲物。狩人である俺達の「守る」なんて言葉を鵜呑みにできるわけもない。
「本当に……殺さないのか?」
震える目。
それはまさに死を待つだけの瞳だ。
「そう……なの」
俺達二人が本当に殺す気がないことが伝わったのだろうか。
男は一段と涙を流しながら、「ありがとうございます。ありがとうございます」と、抱き着かんばかりの勢いで頭を下げた。
死から解放された喜びは大きく、涙と笑みが混ざった感情の雫が森へ消えていく。
「……不思議な感じなの」
「へ?」
抱き着かれた
「どうしました?」
「何故だか分からないけど、私まで嬉しくなるの」
可愛らしい少女の笑み。
やっぱり、どの時代でも人に感謝されることは嬉しいんだ。素子さんの笑顔が徐々に大きくなっていく。
その笑顔を掻き消すように空から声が響いた。
「タイムアーップ!! 『ハント戦』はこれにて終了だぁ!!」
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