第22話
「……あのさ。二人ともそろそろ仲直りしたらどうかな? 流石に一週間もこの空気は、僕、耐えられないんだけど」
生里を倒してから、一週間。
金時家の食事は空気が重い苦痛な時間となっていた。
「ほら、アカネもさ。
俺達の間に何が起きたのか事情を知る兄貴が間に入ろうとするが、それでもアカネは話を聞いてくれなかった。
「ごちそうさま」
小さな声で手を合わせると、すぐに自分の部屋へ消えていった。機嫌が悪くても食事を終えた挨拶をするあたり、兄貴の育て方が良いと分かる。
残された兄貴に何度目か分からぬ詫びの言葉を並べる。
「ごめんな。こんな空気にさせちゃって」
「しょうがないよ。銅次は過去から来たんだから、価値観は違うさ。……願わくば、僕は弟にはそのままで居て欲しいって思うよ」
「銀壱……!」
兄貴の優しさに思わず涙が流れそうになる。
俺の境遇を知るただ一人の兄弟だということもあるだろう。
「ただ、もし、生里と戦う時があったら、その時は僕も読んで欲しいな。言いたいことは沢山あるんだ」
「……そうだよな」
誰よりも不満が溜まっているのは兄貴だ。
恋人を奪われたのだから。
「まあ、アカネのことは僕に任せてよ。銅次はしばらく休んでなよ。ここ最近、なんか元気ないみたいだからさ」
「ありがとう」
俺は兄貴の優しさに感謝しつつ自室へ向かう。
部屋の扉に手を伸ばした俺は、兄貴がいるリビングを見る。
「色々と考えちゃうんだよ、兄貴」
もしも、また生里と戦うことがあったとして、俺はどうすればいい?
この世界に『罪』も『罰』もない。
どうすれば――生里に償いさせることが出来るのか。
生里を倒すという目先の目標だけを見ていた俺は、完全に
「加害するのに理由はいらないか……」
いつだっただろうか。
「はぁ」
ため息と共に扉を開ける。
すると、部屋の中心に見知らぬ女性が立っていた。金色の紙を縦ロールにした如何にもお嬢様といった風貌。
人形のように可愛らしい女性は、俺を見るなり頭を下げた。
「あ、あの……初めまして。私は
「……」
じっと俺は素子さんを見つめる。
ちゃんと挨拶する当たり、敵意はないのか。それに、彼女が着ているのは俺達と同じ銀の制服。
お洒落のつもりなのか、アカネよりもスカートの丈が短くなっていた。
「あ、その……服を着てごめんなさいなの」
素子さんは俺の視線を何だと思ったのだろうか。
おもむろにスカートに手を掛けて脱ぎだそうとする。
「ちょちょちょちょ! 何してるんですか!?」
「だって、視線が脱げって言ってたから」
「初対面で俺はどんな風に見られてる!?」
俺はそこまで野蛮ではない。
慌てた俺に素子さんを「ニコリ」ともせず話題を切り替えた。
「なんて……冗談は置いておいておくの」
「……」
勝手に持ち出して勝手に置かないで頂きたい。
それなら、兄貴が目覚めなかったのも納得だ。兄貴はこの世界でも常識を持っているもんな。
「イムさんから……話を聞いてると思うけど……。
「と、その前に公式戦って何ですか?」
「……それは、私に脱げってこと?」
「いや、なんでそうなるんですか?」
もはや、ただ、自分が脱ぎたいだけの露出狂か?
だったら、俺のいないところでやってくれ。
いまいち、話の進まぬ彼女に俺は自身の状況を説明する。
「実は俺、過去から来てまして。ちょっとまだ、未来での状況を把握できてるわけじゃないんですよ」
「……やだなぁ。過去から未来になんてこれる訳ないじゃないの」
露出狂に真っ当な言葉を返されてしまった。
俺は咳ばらいをして改めて問う。
「取り敢えず、公式戦って何か教えて貰ってもいいですか?」
もう一度、質問する俺に対して首を傾げながらも素子さんは教えてくれた。
「公式戦は……魔族が開催する
「……」
【魔能力】を欲する人間は、基本的には貴族としての身分が欲しいだけの人間が多い。つまり、
そうなれば、当然、争いは起こらない。
強制的に【魔能力者】達を戦わせるための場が――公式戦という訳か。
「今回……発表されている公式戦は二回。その両方に銀の
「ちょっと待ってください。銀の
「さあ、その辺は魔族であるイムさんが決めることだから。勝負で勝ったほうが魔族は得をするって言ってた」
「……」
そうか。基本的には自由が故に忘れていたけど、この世界は魔族によって支配されているんだ。彼らのゲームに人間が利用されているんだよな。
「……そういう訳だから、力を入手したばかりの二人を鍛えるように、私が頼まれたの」
「なるほど」
「そういうわけで――よろしくね、
「俺、金時です」
「……」
「……」
「ぬ、脱げばいいかな?」
「なんでですか!」
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