第16話

「もう一度だ!!」


 例え防がれたとしても、俺の【魔能力】で出来ることは限られている。ならば、絵本えもとが出来ることを探すしかない。

 再び時を速めた俺は、絵本えもとの顔ではなく背を蹴りつける。だが、やはり、鉄を蹴ったかのような衝撃が足裏を通じで伝わってくる。


「見えない力……?」


 仮に絵本えもとの力を仮定するならば、見えない力を操り、攻撃、防御に使うと言ったところか。

 俺の加速に対抗するために常に力を纏っている。


「と、したところでどうすればいいのか分かんねぇよ!」


 力を解除した俺は、距離を取って絵本えもとを睨む。


「やれやれ。勝てないと分かっても気持ちだけは一人前だな。さっさと負けを認めればどうだい?」


「うるさい! そういう訳にはいかねぇんだよ!」


 俺は生里なまりを倒したいんだ。

 こんな所で苦戦してられるか! 


「気合だけじゃ実力差は埋まらないんだよ」


 絵本えもとはそう言って右手を翳す。

 それが攻撃の動作だと言うことは、既に経験で分かっていた。俺は回避すべく力を発動し、攻撃を仕掛ける。

 攻撃に手を回したことで、防御が薄くなるのではないかと期待したがそんなことはなく、しっかりと、固い鋼鉄が絵本えもとを守っていた。


「……どうすればいい?」


 絵本の攻撃に合わせて【魔能力】を発動すれば、俺も被弾することはないだろうが、その繰り返しでは貯蓄した時間だけが減っていく。

 かと言って戦闘中に貯蓄は出来ない。

 俺に残された時間は既に半分になっていた。


「……くそ!!」


 再び右手を翳す絵本えもと

 俺なんて片手で充分ってことなのかよ。左手には読んでいた絵本えほんを抱えたままなんて――。


 うん?


 そこで、俺は疑問を抱いた。

 絵本えもとは確実性を取る性格だ。それなのに、何故、態々、片手を封じてまで絵本えほんを抱えているのだろうか?


「気になったら試すしかねぇ!」


 俺は【魔能力】を発動して、攻撃ではなく絵本えもとが抱える絵本えほんを注視する。

 抱えていた絵本えほんのタイトルは――。


『見えないクラゲちゃん』


「見えないって、まさか――!」


 俺は【魔能力】を発動したまま、店の中へ戻る。初めてここに来た時、俺は似たような本を手に取った気がする。

 俺の記憶は間違ってなかった。並べられた本の中から同じタイトルを見つけて内容を読む。


「だから、時間の能力ってもっと格好いい筈だろうって!」


 しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。現実はいつだって理想とは違うものなのだ。

 俺は遅くなった時の中で本を読む。

 本の内容は透明なクラゲが、親を救うため、敵のサメに挑んでいくという話だった。固い甲羅を持つ相棒の亀と協力して――。


「そういうことか」


 絵本えほんの中ではクラゲが亀を多い、見えない甲羅でサメを撃退するシーンがあった。そして、それは――まさに、今の俺と同じだった。


「これが絵本えもとさんの【魔能力】か!」


 抱えた絵本えほんの力を扱うこと。

 なら、抱えた絵本えほんを奪えばいい。俺はチラリと視界の隅へ意識を向ける。残された時間は一時間とちょっと。

 つまり、後、一分で勝負を決めなければならない。


「でも、一分もあれば充分だ」


 今度こそ、確実に充分だ。

 だって、そうだろ?

 ――相手の防御が亀の甲羅だって分かったんだから。


 俺は能力を駆使して、ペタペタと手の平を使って見えない甲羅の感触を探っていく。背中から絵本えもとの身体を覆って防いでいるが――。


「やっぱりね」


 見えない盾では防げる範囲は決まっている。身体の横と後ろは覆えても正面はスカスカだった。


「タネが分かれば単純な話だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る