第14話
「……赤の
いや、ただ立っているわけじゃない。彼らの手には地面に座り込む女性たちが握られていた。拒絶する女性を引きずるようにして歩く二人。年齢は俺と同じ位で中学生か高校生くらいか。
「……人攫いね」
アカネも一階へ降りてきたのか。俺と同じように本屋の中から外を覗くと、「ボソリ」と呟いた。
「人攫い?」
「そ。好みの相手を力付くで攫って、煮るなり焼くなり好きにするのよ」
「そんなこと――」
犯罪ではないか。
しかし、この場でそう感じているのは俺だけだった。アカネも
「どんな方法だろうと、子を作ることは魔族によって推奨されてるからね。強い人間は管轄を無視して人を物色するのよ」
尚も聞こえる悲鳴から逃げるようにアカネは奥に消えていった。自分もそうやって生まれたのだから、見たくないのだろう。
「俺は……!」
女性たちの悲鳴は拒絶の叫びだ。恐怖で死んだ方がマシだと泣いている。そんな人を無視できるほど、俺はまだこの時代になじんでいなかった。
俺は女性たちを助けるべく、外に出ようとするが――、
「何をする気だい?」
ガシっと、力強く
力を込めて抵抗するが、
「何って、あの人達を助けるんですよ!」
大きなため息と共に、
「君は彼女の話を聞いていなかったのかい? この世界では普通のことだよ。むしろ彼らの邪魔をして、赤の
「目の前で困ってる人がいるのに、自分に降りかかるかも知れない可能性の方が大事なんですか!?」
俺の言葉に
「当たり前だ」
「……」
「大体、君に助ける義務はないだろう? それとも彼女たちは知り合いなのかい?」
この時代に来たばかりの俺にとって、知り合いは兄である銀壱くらいだ。赤の
けど――。
「あの人達は知らないけど、俺でも知ってることがある」
挑むことをやめて、負けた未来がどうなるのか。この時代で良く分かった。兄貴の彼女だった吹楚先輩は――もうこの世にはいないんだから。
「だから、困ってる人がいたら助けたい」
「ま、兄貴や吹楚先輩だったら、助けるのに理由なんていらないっていうんだろうけどさ」
俺はそこまで崇高な人間にはなれないんだけど。
そう言って笑う俺の顔を
「……助けるのに理由がいらないと言うのなら、加虐するのに理由を持たない人間もいるんだよ!!」
善だけが特別ではないのだと――
◇
綺麗な顔からは想像もできない憎悪が俺に向けられていた。まるで、人間の本質は性悪説だと決めているような表情だった。
「お前がどうしても助けに行くっていうなら、私は本気でお前を止める」
でも、ここで戦っていたら彼女たちを助けられない。
「あー、もう! だったら、バレないように助ければいいんだろうが!」
俺は叫ぶと同時に【魔能力】を発動する。
貯蓄された時間は一時間。
数字が物凄い勢いでカウントダウンされていく。時間を戻すときに倍の時間が必要になるのと同じように、加速させる時もまた、何倍もの時間が必要になるようだった。
数字の減り具合から見ると、一時間で加速できる時間はおよそ一分間。
「なんて燃費の悪い能力だよ!」
それでも一分あれば充分だ。
俺は動きが遅くなった
吹き飛んだ男達から、女性を奪うように抱える。
「よし!」
後はビルへ戻ればいい。俺は全力でビルへ戻り女性たちの口を手で押さえた。本に囲まれた店内へ戻ると同時に視界のカウントがゼロになる。
「んー!」「んー!」
女性たちのくぐもった声が店内に響く。
大丈夫。
きっと外には聞こえていない筈だ。
「落ち着いて。俺はあなた達を助けたいんです!」
何が起きたのか理解できなかったのか、きょとんとした表情で俺を見る。害がないことが伝わったのか静かにしてくれた。
「あ、ありがとうございます!!」
女性たちは目を潤ませながら、何度も、何度も俺に頭を下げた。「まさか、助けてくれる人がいるなんて」と、膝を折って震える。
「礼には及びませんよ。一先ず、上の階で隠れててください」
……まさか、自分が生きている中で「礼には及ばない」なんて、実際に口にすることがあるとは。次は「名乗るほどの者ではない」と言える日も近いかな。
信じられないという
「ほら、こうすれば赤の
「君は……どこまで馬鹿なんだ」
俺の笑顔に
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