第8話
「本当、ダサいよな俺は……」
その日の夜。
俺は自分の部屋で眠れぬ夜を過ごしていた。
「魔族に会えば力が貰えるのか……」
力が手に入る興奮と魔族に会う恐怖。二つの感情が俺の眠りを妨げる。部屋に掛けられた時計がチクタクと音を刻む。
現在の時刻は2時。
夜はまだ長い。どうして人は苦痛な時間は長く感じるのだろうか?
「でも、目を閉じるだけでも回復するっていうしな」
俺は無理矢理に目を閉じる。すると不安が興奮を押しのけ、『震え』として表に現れる。身体を抱き力づくで止めようとするが、一向に止まる気配はない。
「くそ……。早く朝になってくれよ」
目を閉じながら俺は祈る。
せめて太陽の光があれば、気分もマシになるだろうに。だが、日が昇るまでは何時間もある。それまでは孤独な戦いだ。
「え……? なんで朝日が?」
そう思っていたのに、窓から一筋の光が差し込んだ。
俺は慌てて時計を見る。
時刻は6時。
いつの間にか朝になっていた。俺はそんな長時間、一人で震えていたのだろうか? 興奮も不安も疑問に押しのけられた。ある意味、それで良かったのかも知れない。
「あれ? また、数字が増えてる」
俺の視界に移る数字が『0:00:00』から、『4:00:00』に増えていた。
「駄目だ。この数字の規則性が分からない……。この数字が減り始めたら、またあの苦しみが襲ってくるのか」
なんとかして、数字のカウントを動かさないようにしないと。
そんなことを考えていると、扉がノックされ、アカネが部屋に入ってきた。
「あら……。今日は起きてたのね。偉いじゃない」
「起きたっていうか、ずっと起きてたんだけど……」
「それで酷い顔なんだ。ま、元から酷い顔なんだけど」
「……アカネはお母さんとは似てないよね」
吹楚先輩は優しい性格だったよ。と、思ったけど、死んだような目って言われてたから、案外アカネと似たような性格だったのかもしれない。
自分の体感よりも早くやってきた朝に困惑するけど、日が昇っているのは事実。曖昧な決意のまま、俺は起き上がる。
朝食を食べた俺とアカネはとある場所を目指していた。
それは――。
「ここが銀の
「……今にも崩れるジェンガみたいな見た目だね」
どうやって建築したのか気になるほどバランスが悪かった。根元が細く頭がデカい。部分部分が空洞になっており、機能性も悪い気がするけど……。
「さあ。相手は魔族だから、何考えてるのか分からないわよ」
「……別の色じゃ駄目なのかな?」
なんだろう。
こんな所に住んでいる魔族に力を貰うのはなんとなく嫌な気がする。そう言えば、なんで銀を選んだのだろうか?
俺は建物に入る前にアカネに聞いてみた。
「
赤は体育会系で年功序列。
青は小隊を作って行動する合理主義。
緑は二人一組の運命共同体。
黄は優れた人間に更に特権を与える弱肉強食。
白は戦いを拒む平和主義。
黒は魔族が全て支持する絶対王政。
銀は放任主義。
「みたいな感じね」
「……だったら、白が良い気がするんですけど」
戦いを拒む平和主義。
この時代でもそんな人々がいるならば、俺はそこに入りたい気もするのだけど。
「……白は不気味なのよ。平和主義を唄ってるのに、勝率は100%に近いのよ」
「な、なるほど……」
平和を望む完全勝利。
確かに――不気味だった。
「それに、銀は私が力を貰った
「そうだな。銀は兄貴の色でもあるし」
どう足掻いても俺では届かない銀。
だからこそ、俺が所属するには丁度いいのかもしれない。俺は崩れかけのジェンガの扉を開いて中に入った。
「……おじゃましま~す」
一階部は階段以外何も置かれていない。広さが虚しいフロアを抜けてアカネがどんどんと階段を昇っていく。
どれだけ階段を昇ったのだろうか。
遂には最上階までやってきていた。最上階へ続く階段の終わりは巨大な銀の扉だった。
鏡のように反射する扉。
アカネは迷わず手を掛ける。「ギー」と音を立てて扉が開いた。部屋は中心に椅子が置かれているだけだった。RPGで王様が座ってるようだと俺は思う。
「
「やだな~。僕のことはイムさんって呼んでって言ってるじゃない。絶対、そっちの方が格好いいと思うんだよね」
玉座に座っていた男は立ち上がり言った。
銀の
……て、いうか、魔族にも名前があるのだろうか?
七五三 一って……。
全部足してイムってこと?
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