ある寝る前の夫婦の会話
夏緒
ある寝る前の夫婦の会話
ぺたっ
「っうううう……」
ぺたっ
「っうあああ〜……」
「サロンパス貼るたびにおっさんみたいな声を出すなよ」
わたしが寝る前に肩にサロンパスを貼っていると、後ろのソファで涅槃像のように寝転んでいる夫が呆れたような声を出した。
「おっさんじゃないもん。せめておばさんって言って」
「おばさんなら良いのか」
なんとでも好きに言うがいいわ。なにを言われようともわたしは寝る前には自分の肩にサロンパスを貼るのだ。
「サロンパス臭いんだけど」
「え、いい匂いじゃない? わたし好きなんだけど」
「ええ、臭くね? 刺激臭がすごい」
「わたしのヒーローの悪口を言わないでよ」
そう、サロンパスはわたしのヒーローなのだ。
ヒーローっていうのは困ってる人のところに颯爽と現れて、敵を倒したら素敵スマイルだけ残して風のように去っていくのよ。まさにわたしの推しと同じ。
それってつまり、まさにサロンパスでしょう。毎晩のように酷い肩こりに困っているわたしのところにどこからともなく(戸棚から)颯爽と現れて、一晩かけて肩こりという名の強敵と闘い、朝にはみごと大勝利をおさめて風のようにゴミ箱へと去っていくのよ。
まさにヒーロー。わたし以外誰も使わないから、このお得用120枚入りパックはまさにわたしだけのヒーロー。間違いない。
夫の痛いだけのマッサージもどきとは違うのよ。見てこの考えつくされた使いやすいフォルム! ひとりで自分の肩や背中に貼れるようになっているこの手のひらサイズ! 痛いところにピンポイント! カンペキよ!!
「っあああああ〜……きたきた、ビリビリするう」
「おいおばさん、まじでババァみたいになってんぞ」
「寝る前の暴言許さん……。寝ている間の5時間くらい悪夢にうなされるがいいわ。いやでもね、これ本当にすごいのよ。凝ってるときはビリビリするの早いのなんの。凝ってないときに貼ってもあんまりビリビリ感じないの。すごくない?」
「おまえのサロンパスに対する熱意しかわからない。一日中推しに夢中でスマホいじってるから肩こりになるんだろうが。運動しろ運動」
っかあ〜! こいつなんっもわかってねえ!!
わたしの肩こりの原因はそれだけじゃないのよ!! そら豆くん(2歳児)一日中抱っこしてみろ、誰でも肩バッキバキだわ!! こちとら10年前の枝豆くんからずっと同じことやってんだかんね。お出かけすれば誰よりも重いかばんを持ち続け、買い物すれば重い荷物を抱え、腕を上げる作業の家事なんてたかが知れてんだよ。ほんっと、なーんもわかってない!!
「わたしのことわかってくれるのはサロンパスくんだけよ。けっ! バーカバーカ!」
「はいはい、寝よ寝よ」
「サロンパスくんがいなくなったらわたしもう生きていけない」
「はいはい。電気消すよ」
「サロンパスくんあと10枚しかないからあなた明日の帰りに買ってきてくれない?」
「自分のヒーローは自分で買いにいけ。もう寝るよ、おやすみ。サロンパスくせえ……」
「ああ〜ビリビリするう」
サロンパスくんがいれば寝るのもぐっすりよ。いつもありがとうサロンパスくん。
あなたのおかげでわたしは明日もがんばれる。
「大好きよサロンパス……」
「うるせえから早く寝ろ」
おわりっ
ある寝る前の夫婦の会話 夏緒 @yamada8833
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