【KAC20228】この世でたった一人の英雄

ゆみねこ

第1話 この世で一人の英雄

 父──それは僕にとってこの世に残された唯一の血縁であり、僕が世界一憧れている人だ。


 僕の母は生まれつき身体が弱い人で、僕を産むとともに死んでしまったらしい。祖父母も病死しており、その他兄弟関係も父にはない。

 だから、父は僕が生まれたばかりのときから誰の力も借りずに一人で育ててきてくれた。


──つまり、僕の父はシングルファザーだ。

 

 そうであったのにその上、世の中の事が何も分からなかった三歳ごろまでは特に大変な子供であったとなんとなく覚えている。

 夜泣きによる睡眠不足や育児と仕事の両立。自分の時間だってなくなってしまうし、ストレスだって沢山溜まる。確実に一人では苦労も多かっただろう。


 目の下にクマをつくって、眠い目を擦り、ストレスに耐えながら僕を育ててくれた。

 しかし、それだけ大変であったはずなのに父は僕に暴力や暴言一つ投げかけずにここまで育ててくてくれた。


 究極的に言えば、僕は母の命を奪って生まれた。僕という存在は父の最愛の人を殺してしまったのだ。

 それなのに慈しみ、大切にして育ててきてくれた。

 

 だから、今ここに僕は生きられている。父の助力なしでは僕はここまで育つことが出来なかった。

 最大の愛を注いでくれたから、母のいない悲しみを抱えずにここまで成長する事が出来た。


 それは紛れもない事実であり、僕はとても感謝している。

 僕はそんな父に昔から憧れている。


──だから父さんは僕の英雄。僕だけのヒーロー。


 いつか父の様なカッコいい父親──カッコいい人間になれる事を願って、僕は布団の中で目を閉じた。

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