第51話 自己実現 じこじつげん
自己実現 じこじつげん
自己が本来もっている真の絶対的な自我を完全に実現すること
私はイオ。神と言われるものの一人だ。
ある災難によりスミレという花の概念になった。
スミレの花が咲く世界は私の世界、私が関与できる世界。
強く私を認識してくれる何かがいて私は存在する。
多くの世界で知的生物が私に語り掛け、通り過ぎる。
ある世界で一人の子供が語り掛けてきた。
彼のことは誰も知らない。
誰も彼に構わない。構うのは打算、その歯車としての期待だけだった。
誰も話す相手がいないその子は、私を強く認識した。
彼は私を人格のある誰かとして、父や母の代わりのように毎日語り掛けた。
誰も自分を見てくれない悲しみ、親が思い出せない嘆き、飢えへの恐怖、死にたくない、死にたくない、幼い頃は全身で私にまみれ、嘆き、恐怖していた。
誰にも見せられない自分を私にだけ見せた。
彼は少年となり理不尽な鍛錬でいつ死ぬかわからない恐怖、仲良くなっても怪我や死で去っていく同じ境遇の者達への哀しみ、これからどうすればいいのか何もわからない嘆き、支配を超越するために強くなりたいと切実に訴えてきた。
少年に名はない。
“無の□”
それが少年を示す記号だった。
ある時期から彼の心が私の存在に気付くようになった。
スミレの花ではなく、スミレの概念として、イオとしての私を見つけた。
それからか彼は私に直接語り掛けるようになった。
どうすればこの支配から抜けだせるのだろう、どうすれば自分で自分として生きて行けるのだろう、強くなりたい、その理不尽を超える強さが欲しい、成長したい、自分は自分だ、その想いが毎日伝わってきた。
私は彼を見つめるようになった。時々白い狐の姿を借り彼を見に行ったりもした。
私も強いモノの理不尽から隠れるためにスミレとなった。
見つからないよう草葉の陰でひっそり咲くようになった。
私は誰にも何もしていない、なぜ隠れなければならない、なぜ強いもののエゴが理を超えてまかり通る、私が弱くなければ理不尽を跳ね返せたはず、陽の光のもとで堂々と咲き広がれたはず。
なぜひっそり隠れて咲かなければならない・・・・・・・。
弱さだ。強くなりたい。
誰にも支配されない強さが欲しい。
彼と私は重なった。
しばらくして彼は強くなった。
そして彼だけの名を手に入れた。
源次郎。
けど支配からは完全に抜けられず戦場に散った。
魂を最も輝かせた形で。
私に嘆くもう一人の男の子がいた。
彼も強さを、成長を願っているが、報われないことを誰にも言えず、私に語りかけていた。
あんなに元気だったのに、不幸な境遇でも前を向いていたのに、理不尽は、彼の魂を徐々に冒し、守るべきもののために彼は孤立し疲弊した。
彼の魂の火が消えかかっていることが解った。
そして死んだ。
魂が枯渇する形で。
彼の名はゲンジ。
私はこの二人に繋がっている。
籠の目の様なしがらみの中の理不尽、万年と続く理不尽、ここから私も出たい。
広々とした大地で誰の目にも臆さず、登りゆく陽の光を浴びて咲きたい。
私の中の表裏と言える源次郎とゲンジ。
私の手の中に帰ってきた二人。
始めて神の力を使い二人を繋げた。
二人の想いを、私の想いを実現させるために。
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