第50話 一新紀元 いちしんきげん
一新紀元 いちしんきげん
新しい時代の始まり。古いことが終わりを告げ、新たな時代が始まる最初の年。
Bステージ、都市型施設のレストランで俺はギルド長のナバラ、Bステージ管理者のアレクサン、それとクラーク卿と話をした。
もうこの暴走ダンジョンは第二領域まで安定化できたことを。そしておれは二人に提案する。第二領域の、あの神殿を祭ることを。
安定した魔力が涌くスミレに囲まれたあの場所こそ一つのゴールであったことを。クラーク卿が頷く。
『今、火口に第五階層までの安定ダンジョンができた。火口周辺の地上も、パイプラインの敷設が終わり、十分人が生活できる環境が整った。そして魔力という資源の産出国として経済的な自立が容易になった』
『かの国だけでなく、噂は伝播しており、移住希望の人がどんどん集まっている。ゲンジ君、ユキさん、イブキちゃんにカグラちゃん、君達は英雄だな。その計画、もちろん乗るよ。君たちの成果を人々の幸せに繋げる、それは私の役目だな。君達は何を望む。この新しい国では君達は英雄だ。王になることも可能だ。地上は私、地下は君が王になる。この二つの国に対抗できる国はないな。そんな未来も選べる。それが無理のない流れだ。それにイブキちゃん。君の支持者であるクランが、勇者クランを追い抜く形で活躍している。君達が王になることが自然だな』
『俺にそんなつまらないことをやらすな。まだ暴走ダンジョンはここだけじゃない。ユキの目的はここだけの話じゃない。次の暴走ダンジョン、あるいは安定が崩れ、暴走ダンジョンに戻ったダンジョンに挑む、そこで俺は技を更に極める。これはユキと国の求める未来に繋がるとユキが教えてくれた。ただ、イブキ、お前が王女になってもいい、カグラ、お前が王になってもいい。好きにしろ』
『ゲンジ、前と同じ質問だよ。前と同じ5文字だよ。もう聞いたよね。“ついていく“だよ』
『ゲンジお兄様、私も“いつまでも“でございます』
『ユキお前はどうなんだ』
『私は・・・、ゲンジが今思っていることよ “よろしくね”』
『おいお前ら!“花のイブキ組”の名を背負ってるんだろうが!やわなハーレム野郎に遅れをとるんじゃねえ!姉さんが見てるぞ!』
『へい!』
新生クラン“花のイブキ組”はどこからか調達した多量のミスリルの武具で装備を固め、勇者クラン“栄光の導き“と新しいダンジョン、第五階層の攻略を競っていた。クランメンバーは総勢47名だ。
皆あそこに”イブキ命“のタトゥーを入れたツワモノの集団である。リーダーのヤスケ、副リーダーのサモンジの激励が飛ぶ。
『探知によると、このあたりがボスエリアだ!みんな男をみせろよ!姉さんが見てるぞ!上向け!』
『へい!』
その場所に近づくと魔動文字が浮かび上がった。
『第一隊形!』
『おう!』
ミスリルの槍を持った槍隊20名が前で円形に浮かぶ魔動文字を囲む、ミスリルの弓を持った弓隊20名がその後ろで矢をつがえる。7名の魔法隊が弓隊の後ろで呪文を準備する。円の中から黒い魔物が徐々に出てきた。
『かかれ!!』
槍隊は浮かび上がった黒い何かを滅多突きにする。槍隊と魔法隊はとにかく多量の弓と魔法を打ち込む。
徐々に浮かぎ上がる黒い何かは、顕在化した部位からミンチにされた。半分も浮かび上がった魔物はもう肉そのもので原型をとどめていない。全体が浮かぶと同時に魔石を残し、黒い煙にかわった。後から魔石の分析で、この魔物はマンティコアというSSSランクの魔物であったことがわかった。
『みんな!よくやった!これで姉さんにあわせる顔ができた!姉さん!見てくれましたか!俺たち、“花のイブキ組”が大将首です!姉さん!やりました!姉さん!』
47名は次の階層に転移した。そこは紫や青の花に染まる、豊かな大地であった。
アイリーンが闇魔法を放つ。
『光を遮る見えなき闇よ!光なくして闇は在らず!聖なる光で闇夜を薙ぎ払え! ハデス・リプル!』
前方に黒い円形が地面に浮かび上がった。
『シャルロット様!こちらでございます。ボスはあそこです!』
『アイリーン、君は世界最高の闇魔法使いだね。みんな!下がっていろ!もうすぐ第五階層のボスが出るぞ!』
『はい!』
黄色い声が揃う。
地面に描かれた黒い円に魔動文字が浮かぶ。中から黒い魔物がゆっくり顕在化されていく。
『みんな!危ない!もっと下がって!』
その魔物はマンティコアだ。こちらを睨んでいる。
『おのれ魔物よ!この勇者クラン“栄光の導き”が相手だ!』
『清き天使の慈しみよ!穢れ泣き愛する僕を守り給え!我が愛は子羊たちの壁となり!愛の力は全てを弾く!スーパーシャインバリヤー!』
クランのメンバーを光の壁が包む。
『闇を切り裂く栄光の刃!天使の愛が僕を包む!今・・・』
マンティコアが毒針を飛ばしてきた。かろうじてエクスカリバーで弾く。
『詠唱の途中だろうが!礼儀を知らぬ化け物め!』
『闇を切り裂く栄光・・』
マンティコアが突撃し噛みついて来た。かろうじてエクスカリバーで弾く。
『おのれ!知性の“ち”の字もない化け物め!これでもくらえ』
『闇を切り・・』
マンティコアがひっかき攻撃をしてきた。エクスカリバーで弾く。
『ちょ!ちょっと待てよ』
壁の中から魔法が放たれる。
『・・・・ヘルフレイム・バースト!!』
マンティコアが炎に包まれた。
『・・・・フォーリング・ヘイルニードル!』
マンティコアが凍てついた。
『・・・・スパイラルブラストレイ!』
マンティコアがぶつ切りにされた。
『・・・・アポカリプス・カタストロフ!』
シャルロットが混乱した。
魔石を残し、煙になったマンティコアの辺りで黄色い悲鳴が上がる。クランの女子を涎をたらし追いまわしているシャルロット、キャーキャー逃げまどう女達。ようやく混乱の魔法が解けた後 “栄光の導き”は転移ゾーンに入った。
そこはスミレの花が咲き誇る、緑の大地であった。
“綺麗”、“夢かしら”、“お花がいっぱい“
『みんな!僕たちはとうとう天国に辿り着いた!天国だ!ここに栄光の旗を掲げよう!!』
『はい!シャルロット様!』
勇者クラン“栄光の導き”も第二領域に辿り着いた。
スミレの丘の向こうで、ギルド長やクラーク卿の執事、花のイブキ組が待っていた。
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