第42話 胸中成竹 きょうちゅうのせいちく

胸中成竹 きょうちゅうのせいちく

ある物事を始めるときに、あらかじめ見通しをつけて、準備を整えておくこと。


『じゃんじゃじゃーん!』


イブキが寝る前の俺の部屋に転移してきた。


『兄さんもう寝る時間ですよね。今日はユキ姉さんがご自身のお部屋でお休みなのを確認してきました。横で寝てもよろしいでしょうか。ブラコン女王イブキは定期的に兄さんの匂いにまみれないと死ぬっす。一週間の6日は姉さん、一日は兄さんの娘のわたしにご慈悲を』


 そんなことを言いながらベットに潜り込んできた。ピタっと抱き着くイブキは安心したのか直ぐに寝た。

 この短時間で、ここまで成長するなんて思いもしなかった。イブキには俺のような前世の経験はないはずだ。しかし、俺に付いてきているし根源力の使い手として俺と同じ域に来た達人だ。


“ゲンジ、イブキはここまで大きくなったぞ。お前の強くなりたいという思いは俺とイブキが成し遂げるかもな” 

 天国のゲンジに語りかけた。


『この暴走ダンジョンの魔力噴出はだいぶ低下しました。魔力濃度の低下によりワイバーン、ワームも地表から火口に移動しました。火口付近では現時点安全ダンジョンのレベルです。火口内を落ち着かせるには第二領域の攻略が必要です。あの領域はドラゴン等、本来1クランのみでは挑めないのですが、それは火口内でも同じでした。我々は瀕死となった激闘の経験もしましたが、生きています。第二領域のドラゴンもイブキちゃんやカグラ君の活躍で倒せることもわかりました』


『これは大きな成果です。現在、火口付近の地上に、安定化に向けた結界作成と平和利用のための魔力を吸収する多数の魔動機の設置が行われています。この設置作業には護衛が必要ですが、クエストとして既に他のアタッカークランがこなしています』


『この暴走ダンジョンの安定化に向け第一段階はクリヤーすることができました。最近にない大きな成果です。次は火口内の安定化です。現在、地下からあふれ出ていた魔力は我々が倒した多くのタラスコンを産み落とすことに振り分けられており、大幅に弱まっています。次に火口内を安定化させるには第二領域から火口内に流れる魔力を安定化する必要があります』


『つまり、火口内に残るタラスコンを殲滅すること、第二領域の魔物を討伐することです。火口内タラスコンは他のアタッカークランで対処が可能です。しかし、第二領域に入れるアタッカークランは数が限られています。我々はその一つのクランです。今日、父とヘーゲル卿がBステージに来ています。今後の我々の計画に関し確認すると思います。我々は、都市型の宿泊施設のレストランに招待されています』




『ゲンジ、イブキちゃん、大きくなったな。見違えた。ゲンジの身長は184cm、イブキちゃんは165cmってとこかな、ゲンジの体重は大体90kg、イブキちゃんは6じゅ・』

『くぉらー――!おっさん何乙女のコンプライアンスレベル1をべらべらしゃべろーとしてんねん!親しい中にもっておっさん習わんかったか!どんだけ年を無駄に生きとんねん!ユキ姉様の御父上ってヒエラルギーなかったらワイバーンの餌にしてくれたわ!ナバラ!聞いと・・』


『イブキさん、お久しぶりです』


『・・・・・』


固まったイブキが振り返る。


『まあ、エスワットさん。あの、あの、お久しぶりですわ。コホンッ、学校はどうされたの、コホンっ、私はお兄様に付いて来て、療養のため、ここに、いさせていただいていますの・・おほほ』


『そうだったのですか』


『えっ、ええ、ここの魔力温泉の効能は、滋養強壮、皮膚病、リウマチ、ここのナバラ叔父様にもお勧めさせていただいたところですわ・・・』


『まあ、素敵。イブキさん。私も案内いただきたいわ。このあと、よろしくて』


『あら、エスワットさん、もちろんよ、・・・ここの・・・・』


 誰だあれ。

 ヘーゲル卿とエスワット、Bステージの管理者アレクサンもいる。


『ゲンジ君久しぶりだね。君の活躍は聞いているよ。おかげで急いてここに来なくてはならなくなってね。今後のことについて話したくてね』


『ゲンジ、君たちの活躍で、思いのほかあの暴走ダンジョンの安定化が進んだ。今は、ここの過剰な魔力を濃縮しAステージに送り込むパイプラインの施設、火口内に安定ダンジョンの魔物の核を移植することによる安定化、結界魔動機、魔動砲の施設等、そこをAステージ化にする重要なミッションの総指揮をクラーク卿が摂られる。今日からここで暮らされる。エスワットお嬢様もだ』


『ここの安定化は“赤い砂塵”の進攻速度と進行方針に依存する。お前たちの動きに合わせて、安定化計画を立案し遂行する。そういうことだ。俺の言っていること、解るか』


『解る。ナバラからの俺たちに対する希望があるか』


『ある。けど調整が必要だ。お前のクランの中から一人窓口を決めてくれ、お前でもいいそ』


『ここは僕の出番だね。ゲンジはリーダーだし、ユキは親子間で感情入るし、イブキでもいいとは思うけど現場の人だからね。僕が窓口になるよ。ユキ、どうかな』


『私もそれがいいと思います。私では私情が入ります。お互いにね』


「わかった。カグラだ。イブキ、いいな」


『お兄様、わたくしはよろしくてございますわよですわ』


誰だこれ。


「そっちは誰が窓口だ、アレクサンさんか、ナバラか」


『A,Bステージのギルド側の窓口はナバラ卿です。ナバラ卿はカグラさんと意識の回線も繋がります』


「わかった、カグラいいか」


『僕は問題ないよ』


 精錬された料理なのだろう、旨い。イブキは変なモードのままだ。アレクサンとクラーク卿から状況を聞く。この暴走ダンジョンが安定化すれば、ここは巨大な魔力エネルギーの輸出国に成り得る。国家連合はその管理に対し、もちろんどの国も野心を燃やす。しかし今回は誰がそれをやったか、クラーク卿、ナバラの手配で送り込まれた赤い砂塵が進めた、そうなっている。

 国造りだ。ここが安定化すれば、大きな国ができる。その国王はクラーク卿になる。この線で進めるらしい。そういう話だ。もちろん異論はない。

 ユキはナバラと行く、イブキはカグラとエスワットを案内する。俺は帰り寝る。

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