第34話 奇貨可居 きかかきょ
奇貨可居 きかかきょ
好機はうまくとらえて、利用しなければならないというたとえ。「奇貨」は珍しい価値のあるもの。転じて、絶好の機会のたとえ
Bステージの街に入る。やはり何らかの結界があったようで、通過する時に高濃度の魔力の液体を通った感覚がした。
内部の街には宿泊施設やレストランや工房らしきもの抱える商業施設が立ち並ぶ、見たこともない4輪や2輪の魔動車両が道路を走っており、巨大な人型の兵器も飛んでいた。
奇抜な平服の者、冒険者らしき防具や武器を装着しているもの、冒険者ギルドのマークが入った服のギルド職員が見られた。
街の中央部には大きなドーム型の施設があった。冒険者ギルドに入る。大理石のエントランスとロビー、その奥に魔動昇降機がある。男は昇降機に誘導した。ガラス張りの昇降機は上に上がっていく。荒野の中でこの区画だけが近代化された街を形成していた。10階に着く。この階にはいくつかの広間があり、その一つに案内された。
『よく来た。アレクサンだ』
2本角の男が座っていた。
『我々はここをBステージと呼んでいる。私はここの管理者だ。ちなみに君たちの生活していた世界をAステージと呼んでいる。Aステージからここに辿り着いたものは最近で君たちしかいない。ここでの君たちの身分証明書だ』
透明なカードがそれぞれ渡された。そのカードを持つと左の甲にある契約紋に煙となって吸収された。契約紋の幾何学模様が複雑に変化している。
『この街を楽しんでくれ、そして良き準備をしてくれ』
会見は終わったようだ。先ほどの執事が俺たち一人ひとりに鍵を渡す。そのカギも契約紋に吸収された。契約紋が変化した。
『では、なにかありましたらお声がけを』
そう言って男とエントランスで別れた。ユキに導かれ、1階エントランにある、いくつかの扉が並ぶスペースの前に立った。ユキに言われ左手で触れる。扉は転移ゲートのように白く光った。
みんなで入る。そこには大きな木のソファーとクッション、テーブル、ウッドデッキがある。ウッドデッキから外に出ると真っ白なビーチとエメラルドグリーンの海が広がる。ビーチに降りて部屋を見ると俺たちが出てきたのは小さい家であった。同じ様な家がビーチに沿って連なっていた。
『アイランドタイプの部屋ですね。多分この隣のコテージが私たちの部屋なのでしょう』
イブキがユキの手を引っ張って外に出た。カグラも続く。しばらくするとイブキが隣のコテージから出てきた。
ユキが反対隣から出てきた。カグラはユキの向こう隣だ。各コテージはウッドデッキでも繋がっておりイブキがそれを伝い駆けて来る。ユキとカグラも来る。俺の部屋のデッキの椅子に皆座り、ユキがダイニングのボックスから冷たい飲み物を皆に出した。
『ここはBステージに至った冒険者の居住空間の一つです。もし山の麓や近代都市がお好みの場合は変更可能です。私達はアタッカーとナビゲーターいう身分になりました。ここの者達には最高の休憩と準備ができる機会が与えられます。ここには我々だけではなく、同じアイランドタイプの住居を選択したアタッカーも居住しており、一切の戦闘行為と施設の故意の破壊行動、施設員への暴行行為を行わない限り何をするのも自由です』
『このゲート街にはこの世界最高の魔法技師が終結しており、暴走ダンジョンで戦える兵器を研究しています。アタッカーが持ち帰る暴走ダンジョンのデータやドロップ品、魔石を分析し、新たな兵器を開発し、アタッカーに供給しています。ここの転送ゲートは最も近い暴走ダンジョンの火口に繋がっており、そこには準備ができたアタッカーしか行けません』
『そこの魔物はAステージとは異なります。例えばドラゴンです。生身では前に立つこともできないでしょう。ここの魔物を討伐するための兵器を“マリオネット“と呼んでいます。人型の巨大兵器でアタッカーはその兵器に乗り込みます』
『マリオネットはアタッカーの能力や動きを再現し、更には拡張する人型魔動兵器です。。巨大な魔物に物理で立ち向かうための兵器です。マリオネットはアタッカーとナビゲーターの特徴に合わせカスタマイズ生産され、それには多量のミスリルが必要です。莫大な資金でミスリスを用意することもできますが、自ら準備できないクランは暴走ダンジョンに入っても火口で死に至ります。このミスリルのマリオネットも暴走ダンジョンの入り口用の兵器です』
『暴走ダンジョンの奥に入るアタッカー達は、そこの魔石”オリハルコン“を得てマリオネットを改造していきます。マリオネットを構成する上位金属の含有量がアタッカーの戦歴であり、ステータスでもあります。もうスキルボードのレベルやステータスは意味がありません。オリハルコンで終わりではありません。その上もあります。この世界に暴走ダンジョンは発見されているだけで108あります』
『人はこれらの暴走ダンジョンから離れた一部の土地にしか住むことができません。邪悪な想念を浄化し、人の居住域を拡大するためにも一つでも多くの暴走ダンジョンを安定化することが必要です。このBステージは最前線になります』
『明日から人型魔動兵器、マリオネットの生産を始めますが、我々4人のクランを登録する必要があります。アタッカー二人とナビゲーター二人の4人のクランです。名前が必要ですが、そのクランの名はイブキち・・』
「ユキが決めてくれ」
『・・・・・』
静かに時間は流れた。
『それでは“赤い砂塵”はいかがでしょうか。お二人の活躍はAステージの上位冒険者クランに目撃され、噂になっていました。彼らがお二人の赤い装いが砂塵と共に魔物を殲滅していく様をみてそう呼んでいます』
「いいだろう」
『姉さん!かっこいいっすね!けど私からも提案をさせていただきますと“世界を守るユキ&ゲンジ組”はいかがでしょうか、“I♡YUKI”はいかがでしょうか!“YUKIをGENJIに変えてもOKっすよ!、それに』
『ぼくも赤い砂塵がいいな』
『カグラ!!!、お前に聞いてないっちゅうねん。こんなラブリーなジャストミートな名前ないやんけ、兄さん姉さんにお伺いしておる最中なんじゃ!』
「赤い砂塵、いいだろう」
ここに新しいクランが誕生した。今日は休み、明日から兵器作成に入る。
イブキはビーチでカグラと遊び、日が暮れると俺たちはビーチのレストランで海の魚を使った料理を食べた。旨い、ユキやカグラも美味しそうに食べていた。
イブキは何度も追加の注文をし、給士のお姉さんを驚かせていた。食べ終わると、同じレストランの角があったり、猫の耳が付いていたりする女アタッカー達がいるクランの方にカグラの手を引いて向かい、自分の角やカグラの尻尾を自慢げに見せ、直ぐに懐に入っていった。
“可愛いー”って声が聞こえてくる。
俺とユキも合流し、酒を酌み交わしながら暴走ダンジョンの魔物や攻撃モーションの情報を、ユキはここの施設や最近の新兵器について話しあった。イブキとカグラは既にお姉さん達に甘いもので餌付けされていた。
小屋に戻るとイブキはユキの手を離さず、ユキの部屋に入っていった。カグラも当然のようにそれに続く。
俺は少し潮が満ちてきた砂浜を眺めながら、さっきのアタッカーに貰った酒を飲んで眠った。
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