第32話 有備無患 ゆうびむかん
有備無患 ゆうびむかん
日頃から十分に準備をしておけば、何が起こっても困らないという意味。「備え有れば患(うれ)い無し」の形で使うことが多い言葉
第五階層に俺とイブキは入る。ユキとカグラはギルド施設の中の特殊な設備”コクピット”からの遠隔だ。
昨日のユキの話を思い出す。
『第五階層がこの国のダンジョンの最終階です。魔物は1種類です。サイクロプスです。サイクロプスは1本角、一つ目の巨人です。皮膚は硬く傷をつけても回復します。トロールが自ら回復した様にサイクロプスも回復します。まず彼らの回復速度に勝るダメージを与える火力が必要です』
『そして魔法はほぼ効きません。逆に魔法によるダメージは回復を促進してしまいます。どうやって倒すか、それはミスリル武具によるダメージです。彼らはダンジョンを構成する岩や土を食べます。そしてそれを取り込んで体内の魔石と融合させます。その魔石を我々はミスリルと呼んでいます。
魔力と金属の融合はサイクロプスの体内で起こります。従って、ミスリルは彼らの一部であり、ミスリルによる斬撃は外部からのダメージと認識されにくく回復が遅れます。サイクロプスの中の魔石、つまりミスリルを回収することで討伐となります。
通常丹の位置にミスリルはあります。攻撃は身体による打撃、目からの光線になります。二つとも当たれば即死します。ゲンジをもしこの国の基準で判定すると、既にトリプルSです。イブキちゃんもそうです。しかし、第五階層ではいくら飛び抜けた強さを持つ冒険者でも、一人で正面からの討伐はほぼ不可能です。一人が陽動し、その隙をもう一人が急所を突く必要があります。
私たちは単体で行動しているサイクロプスを探します。戦闘行為は他のサイクロプスの気を引いて呼び寄せます。討伐に時間がかかりもう一体が近づいたときは退却してください。その状況になれば、こちらから指示します。
一体の討伐に3分以上かかれば失敗ということになります。一撃即死の攻撃を躱し3分以内に討伐可能な魔法以外の火力を持つクラン、これが第五階層に入れる条件です。ゲンジさんとイブキちゃんは魔法に物理を組み合わせた技を持ち、物理優先でそれを強化する要素として魔法を使う多くの技を持っています。お二人なら可能と判断しています。
ここでの目標はミスリルの回収です。1体のサイクロプスから6本相当のインゴットが回収できます。我々の目標はサイクロプス200体の討伐です。長らく第五階層を抜けれるクランはいませんでした。多数のサイクロプスが今も第五階層のダンジョンを食べ続け、地獄に向けて拡張しています。安定ダンジョンを暴走の状態に戻そうとしています。少し増えすぎています。一体でも多く討伐してください』
ユキとカグラ、二人の誘導で慎重に奥に進む。一匹目を見つけたようだ。俺とイブキは一人が光線を放つ目を潰す陽動役、もう一人が腹を切りミスリスを回収する役に分かれることを決めていた。
見えてきた。大きい。10mはある。ここで呼吸を整えた。イブキの目の色が変わる。
奴は地面を殴り砕きそれを食べている。気配を消し近づくが50mで俺たちに気付いた。角に稲妻が走る。途端に目から光線が来た。
二手に分かれイブキが目の方に突っ込んだ。俺は背中に突っ込む。国行に抜き放ち切るも傷は浅い。そのできた傷に飛斬を乗せて突きを放つ。
刺さる。拳が来るのを空中の足場を踏み込み躱す、躱しまた突きを放つ。何度か頭の方から光線が発射されているが、俺とは違う方向だ。
空中で踏み込み背骨や肋骨を避けながら刺す、拳を躱す、刺す。刺した場所を切る。切れた場所に鎖を巻き付け剥がす。サイクロプスが倒れた。目を押さえ、のたうつ。イブキが目を潰したようだ。
だいぶ開いた背の肉を剥がし鎖を手に巻き手刀の形に変形させ刺した。見つけた。鎖を体内のミスリルに絡め引っこ抜く。動きが止まった。
『討伐完了です』
“光線、右腕、振り回し、右腕、光線”
カグラは未来予知ができるのか次のサイクロプスの攻撃イメージを伝えてくる。最初は戸惑ったが今は無意識で体が反応する。攻撃すべき最も刃が通る点と線が私の目に映る。点の場合は突き、線の場合は斬撃を放つ。サイクロプスの皮膚だけではなく目も硬く、線が現れることはない。
次の攻撃すべきところ示す、カグラの能力だ。感覚は一体化しているので自分の認知と同じだ。点を刺すタイミングがずれれば、その点は消え、次の点が浮かぶ。愛刀の薙刀“雪様”の刃と石突を体勢と方向に応じて刺していく。
線が浮かんだ。奴の目が一瞬兄さんの方を向いた瞬間だ。切る“雪様”を全力で引き切りすると目の大部分を切断できた。手で目を覆い倒れた。もがいている奴の背から兄さんが鎖でミスリスを引き出しているのが見えた。
『討伐完了だよ』
カグラの声が聞こえた。
ユキとカグラの探索ではこちらに近づくサイクロプスはいないようだ。時間にして2分。やっと一体。
次の一体は目と腹を交代した。正面に突っ込む。砂魔法でのダミーを残し上に跳ぶ。ダミーが光線で消滅する。鎖と影の触手を角に絡め手綱とし、国行を逆手に握り目を刺していく。
手が俺を掴もうとするが、ダミーを残し避ける。ダミーを握り潰している間に、手綱を引き国行を目に刺していく。目の一部に切り目ができると手に鎖を巻き直接目を切り抜く。
目を押さえ倒れた。イブキが背中から体内に飛び込んでいるのが見えた。腹方向から飛び出るが、イブキが抱えるミスリルに奴の触手が絡みついていたので国行で切る。
『討伐です』
鎖が使える俺がミスリルの引きはがしが容易であるから、俺が腹、ユキが頭と役割を固定し討伐を続ける。
休憩を取りながら移動し10体の討伐で今日は終了とした。イブキからは静かな波動を感じ、まだ行けると思うが、ユキの指示で下がった。あと190。
体を清め、サロンで集合し、予定を決める。今後討伐の次の日は休息と決めた。明日は一日休みだ。イブキはどこに入るかわからない量の食べ物を腹に詰め込んでいた。後でカグラに聞くと、次の日は一日中寝ていたようだ。
2回目のアタックを開始する。前回1体の平均討伐速度3分の計算であったが、第二回は1分30秒とし、その時間で他のサイクロプスに詰められない距離にいる単体をターゲットとした。
この計算にあうターゲット数増加とサイクロプスの攻撃パターンの理解で討伐数が上がった。今日は14体討伐できた。得たミスリルの一部でイブキは鎖鎌と刀と槍、俺は薙刀と槍を作る。3回目からの討伐数が更に上がった。
開始して11日目、6回目のアタックで200体を突破した。最終的には236匹狩った。最後までイブキの静かな闘気は乱れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます