第23話 形勢逆転 けいせいぎゃくてん

形勢逆転 けいせいぎゃくてん

劣勢だった勢力が優勢になること、もしくは優勢だった勢力が劣勢になること



 白い空間に俺は浮かんでいる。

 国行を正眼に構える。

 上下左右もわからない。

 気配を感じ足元に斬撃を送るがその前に具現化した奴の爪が俺の右足を切り飛ばした。

 その斬撃を返し上方を切り裂くが間に合わず左肩から先を切り飛ばされた。

 ボックスから鉄弾を出せるだけだし、鉄火弾を全身に纏わせた。

 呼吸を整える。戸惑う気配を感じた。

 目を瞑り意識を根源の海に浮かべる。どれくらい時間が経ったか判らない。

 背中を奴の爪が触れた。

 その瞬間に雷を最大限に纏う。

 腹を貫かれた。

 同時にすべての鉄火弾があらゆる方向にはじけ飛んだ。

 白い世界は消えた。


 朦朧とした意識で辺りを見渡した。祭壇には対の石の狛犬と、全身から血を流し倒れている白狐がいた。

 俺はその前に倒れ込んだ。白狐と目が合った。優しい目で俺を見つめている。起き上がり俺に近づき傷を舐める。

 しばらくすると、白狐は俺を物言いたげに見つめ、見つめながら影が薄くなっていく。白い煙となった。その煙は意思があるようにゆっくり俺の方に漂い俺の中に入った。


『ゲンジさん!』


ユキの声が聞こえる。


『ゲンジさん、目を閉じてはダメです!回復です。回復です!ゲンジ!』


 意識が途切れ途切れになる中、ユキの声が聞こえる。回復だ。そうだ回復だ。魔力を循環させる。

 ユキの悲鳴が俺の中で響く。片方ずつ手足は切り飛ばされている。腹も切り裂かれている。そこからか、赤い血が目の前をゆっくり流れていく。

 どこかで見たな。

 血が広がり、土に染み込むのを眺める。あの時だ。スミレを思い出す。前世の最後の可憐な一輪のスミレ、鍛錬場の横でいつも俺たちを陰から見守っていてくれたスミレ。

 ユキの声が薄くなる。地面に流れる俺の血を見るでもなく眺めていると、血の中からスミレが生えてきた。

 また会ったな。

 見つめているとスミレの中に俺の意識が流れ込んだ。



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 気づけば神社境内なのか、神殿、鳥居、狛犬、スミレの野原で倒れている俺、こっちを見て歌っている女の子が見える。俺は歌を聞いていた。


“かごめかごめ


かごのなかの とりは いついつ でやる


よあけのばんに


つるとかめと すべった


うしろのしょうめん だあれ”


誰だろうな、スミレ。お前か、ユキか、イブキかな。





『ゲンジ!ゲンジ!』


ユキの声が聞こえた。まだ生きている。ユキの声がはっきり聞こえた。


「聞こえる」


『ゲンジ!』


「大丈夫だ」


 ユキのホっとする意識が届いた。


『とにかく、そこから移動してください。祭壇の裏に階段があるはずです』


 自分の体を確認した。切り飛ばされた手と足がある。貫かれた腹の傷もなぜか繋がっている。白狐を探す。

 狛犬は消えていた。目の前には白い魔石があり、白い祭壇の上に白い核が乗っていた。魔石と核をユキに送る。

 朦朧とした意識の中、いつもなら蹴り壊す祭壇へ、なぜか向け手を合わせ白狐の冥福を祈った。奥に現れている階段へふらふら歩いた。真っすぐ歩けていない。血は再生はされていないようだ。目の前は霞む。

 なんとかダンジョンを出るとユキがいた。俺に駆け寄ってくる。安心した瞬間に俺は倒れた。

 意識は保っているが動こうにも動けない。ユキは自分の肩を貸し自分の部屋まで連れてきた。俺の防具と服を脱がしベットに寝かせ、体の各部位を確認していく。

 かなり肉がえぐられた跡がある。背中の切り傷は良く判らない。ユキは俺の口に口を付け何か流し込む。そして何らかの薬を全身に塗っていく。徐々に回復していくのがわかった。


『急ぎすぎました。私の油断です。ゲンジさんはレアを引き当てる。私はアレとの縁がある。甘く見ていました』


 薬を塗りながらユキは話す。


『あれはダンジョンのレア中のレア、百狐です。接敵して帰ってきたものはおらず、過去に1度あの百弧から逃げる際中に捕まったSSSランクの者からの報告があるのみです』


『彼女のチームは彼女以外全滅しています。その彼女によれば、幻視なのか不思議な世界に連れていかれたそうです。その世界で百弧は人間の女の子の姿をしていたようです。そこで一緒にお手玉をして遊び、天空の雲を飛び跳ねて遊んだそうです。彼女が気が付けば病院のベットで救援の者に助けられたあとでした』


『なぜ彼女だけが見逃され、なぜ彼女と遊んだのか、何もわかりません。白い姿をしている魔物は百弧だけです。冒険者の間では白い魔物をみたら何があっても逃げろ、そう言われています。しかし、目撃されたのは最上位のダンジョンです。そこは暴走・・』 


『入りますよー、姉さん!サロンから甘い甘いスイー・・・・・・・』


 目を点にしたイブキがいた。


『・・・・・失礼しました・・』


 イブキが去っていった。

 素っ裸で全身に油らしきものをベットの上で塗られている俺、覆いかぶさるようにその油を塗るユキ、そういう構図だ。第三者からは・・・・

 茹でタコのように真っ赤になったユキは飛び跳ね、バスルームに駆け込む。おれは服をかき集め部屋をでた。


 部屋に帰るとイブキがこっちに背中を向け土下座し、ペコペコしながらユキと会話しているようであった。俺は意識を繋ぐ、


『・・・・・キ姉さん申し訳ございませんでした、不肖姉さんの舎弟ともあろう者がお二人のくんずほぐれずのお邪魔をしてしまうなんて不届きを、このイブキをどうか、どうか手打ちにしてください、お二人はパートナー、その神聖なる営みのお邪魔なんて、ワタクシめをどうか手打にしてください。思い起こせばワタクシめの学業の開始とその空白を埋めるような姉さんのお引越し、そんなことも察せずお若いお二人の・・・・』


 慌てて意識を切る。体は大丈夫だ。もう削られた傷もうっすらしか痕跡はなくこのまま集中し回復を掛けていけばすれば明日には全快するだろう。ユキが使った薬はかなりの高性能だったのだろう。

 イブキはまだペコペコしている。


 それにしても俺に優しく微笑んだ白狐の姿、白狐とスミレ、白い空間の歌う少女、全てに縁を感じる。白狐は何か伝えたかったのだろうか。あの空間で冒険者と遊んだというユキの報告も俺の体験と違和感ない。

 俺が行ったスミレの世界、あれは百弧のスキルが俺にも覚醒したのだろうか。あの世界のあの女の子は百弧だったのか。あそこに入らなければ俺は死んでいたはずだ。なぜ白狐は俺と殺し合い、なぜ助けたのか? 間一髪だった。


 イブキが振り返る。泣く3秒前の顔で俺に飛び込んできた。


『兄さん、兄さん、ダメじゃないですか、私を残してダメじゃないですか、何処にも行ってはダメじゃないですか』


 ユキから事情をきいたのであろう。抱き着いたまま泣き続ける。あの時と一緒だ。そう思いながら可愛い妹の頭をなぜ続けるのであった。

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