第18話 発憤忘食 はっぷんぼうしょく

発憤忘食 はっぷんぼうしょく

心を奮い立たせて、食事をとるのも忘れるほど物事に夢中になって励むこと



 俺たちは上位ダンジョン第一階層に入った。既にイブキはユキと繋がっている。

 最初声を発して会話していたが、意識でユキと会話できることを理解しおとなしくなった。

 山頂での鍛錬の後、30匹程度の規模の小さいゴブリン隊を見つけた。

 イブキは頷いている。ユキの解説を聞いているのであろう。

 俺はゆっくり群れに近づき、群れ全体を砂塵で囲んだ。砂塵の範囲から出ようとしたゴブリンが砂塵に削られ死ぬ。状況を理解したゴブリン隊はそれを避けるように固まった。

 砂塵の流れを変え、1匹ずつ囲みから出した。出たゴブリンは俺に襲い掛かろうとするが、その後ろには既にイブキが回り込んでおり、首に針を刺した。

 ゴブリンは黒い煙を発し魔石を残した。

 次のゴブリンを出す。奴らは全て俺に向かってくる、気配を消しているイブキが後ろから仕留める、それを続けた。

 今度はイブキを俺の前に立たせゴブリンと対峙させた。

 イブキは剣を構える。向かってくるゴブリンが振るう剣を最低限の動きで弾き心臓を刺す。今度は剣を合わせず、カウンターで腕を落とし、逆袈裟に切る。

 次の一匹は剣をガントレットで受け、エルボーで殴り殺した。しばらく繰り返していると慣れてきたのか、レベルがあがったのか正面対峙で危なげなく一撃で倒せるようになった。


 次のゴブリン隊を探索し、砂塵で囲む。今度は2匹ずつ囲いから出す。イブキは槍を取り出し2撃で正確にそれぞれの心臓を突く。

 3匹出した。3方から襲うゴブリンに薙刀を構えるイブキはその一振りで3匹の首を撥ねた。

 5匹出した。イブキは弓の速射で3匹倒し、槍に持ち換え残りの2匹を刺した。

 7匹出した。薙刀をもって敵に飛び込みそれを旋回させ纏めて切る。背後から襲ったゴブリンは石突で吹き飛ばす。間合いの敵を切り伏せた後、クナイを投げ吹き飛ばしたゴブリンに止めを刺す。

 今後は10匹だ。下がりながら全て弓の速射で倒す。残り25匹を出してみた。弓で数を減らした後、急転回し群れに飛び込み薙刀を振り回し魔石に変えた。


 声は出さないが肩で息をし、泣きそうな顔で大きな仕草をしているイブキはユキと会話しているのだろう。俺もユキに意識を繋げた。


『・・・んですか!鬼ですか!悪魔ですか!試練ですか!ドエスですか!か弱く、優しい、蚊も殺せない10歳の少女の妹に上位ゴブリンの群れを放ちますか!ユキ姉さんに背中を預けていなかったら即死ですよ、即死!これ・・』


 慌て意識を切った。


「行けるか?」


 コクコク頷く。まだ身振りが続いているので愚痴をいっているのだろう。空間魔法による探索域を広げ、核がありそうな洞窟と群れを見つけた。

 イブキは頷きながら付いてくる。ユキの解説を聞いているのであろう。


 洞窟の前には大体100匹程度のゴブリンがいた。第一階層では大きな規模だ。戦闘前に昼食を食べた。イブキはボックスからのお握りを10個は平らげている。俺は周囲に近づく魔物を砂塵や火弾で密かに排除している。お茶を飲み、落ち着いたようだ。


 洞窟に向かった。100mの距離まで近づくとイブキの目が変わる。長弓を出し速射していく。主にホブゴブリンを仕留めていっている。

 隊の統率を失ったゴブリン達は弓を射返すもの、一人で突っ込むもの、ギャーギャー騒ぐもの、既にバラバラだ。短弓に持ち替えたイブキは走りながら弓を持っているゴブリンを射止めていく。

 10mまで近づいたとき、弓から薙刀に持ち替え突っ込んだ。

 纏めて手足や首を切り飛ばすのを眺めながら、足が止まらないこと、重心が揺れていないこと、自分の間合いに調整できていること、距離に応じた武具を選択していることから冷静さが保てていることを理解した。


 暴風雨のような殺戮が続き、あらかた倒し切った時、高台に魔法持ちが出てきた。火球をジグザグに走りながら避けている。手にしたクナイをまとめて5本飛ばした。即死には至らないが魔法を中断させた。

 一呼吸の内に接近できたイブキは槍を投擲した。3匹の魔法持ちゴブリンを串刺しにし、更に近づき薙刀で首を飛ばした。

 慌てた残りの魔法持ちゴブリンが土壁を作るが拳で破壊する。そのまま壁を乗り越え残りを殴り殺した。生き残っているゴブリンを高台から射殺し殲滅は終了。


 洞窟に入っていく。いくつかの部屋に分散していた冒険者の人骨、アイテム、武具を回収し、イブキは最奥の祭壇を蹴り壊した。核はユキに送ったようだ。終了。


 なんて奴だ。


 戦闘開始から核回収まで10分程度か、この分では俺のサポートは必要ないな。さすがに疲れたのか倒れ込んでいるイブキを見ながらそう思った。


「大丈夫か?」


 イブキは寝ころんだままコクコク頷く。念のためにユキに意識をつなげる。


『・・・・・ましたか姉さん!またまたか弱い妹が疲れ切って倒れ、声も上げられない状態で “大丈夫か” 4文字っすよ。見ましたよね!さっきも何とか倒しきった私に “行けるか” 4文字っすよ!見ましたよね!姉さんお付き合いを考え直したほうがいいっすよ!妹が声も出せない、疲れ切って喋れない時を見計らってますよ、見計らって、手を差し出すことも、抱っこして運んでくれることもせず、4文字っすよ!4文字・・・』


慌てて意識を切った。大丈夫だ。

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