第17話 吐故納新 とこのうしん

吐故納新 とこのうしん

昔からあるものを捨てて、新しいものを取り入れること



 朝起きた俺たちは昨日作ったフル装備で下位ダンジョンに向かった。ユキに相談したところ、下位ダンジョンでのレベリングを推奨された。

 最初は下位から始めるらしい。初心者が上位ダンジョンのレベリングで魔物を吸収した場合、いきなりの大きな魔力に身体が耐えられず、鬼人族や獣人族のように奇形が発生するからだ。


 下位第一階層に入った俺たちは、地上と変わらない風景の中、奥に進む。途中でスライムやウサギの魔物をイブキが倒す。

 イブキのレベルはまだ発生していない。第二階層(下位ダンジョンはボスがいない)でゴブリンを倒すもレベルが発生しない。第三階層の奥で下位オーガを妹が倒したときにレベルが発生した。

 ゲンジより発生が遅い。入学前に始めてよかった。妹が説明するにはレベル2、ステータスも全て2でスキルはアイテムボックス、刀剣術と身体強化だそうだ。


 山頂に登り、呼吸の鍛錬の後、俺は妹と向い合せで両手を握り始めて妹と初めて瞑想鍛錬を行った。俺は根源の力の海の中でその意識を拡張する感覚であるが、妹には真っ暗な世界に入った後、はるかかなたの地平線に僅かな朝日が見える感じだそうだ。

 俺は妹に俺の感覚を流し込んでいった。最初は戸惑うが、俺への絶対的な信頼感からか直ぐに抵抗がなくなる。


 少しずつ妹の世界に水を灌ぐ感覚で続ける。最初は雫が落ちる感覚から雫が1本に繋げる。それを蛇口で開いていくという感覚で続けた。

 イブキが言うには、朝日が少しずつ地平から登っていくような感覚だそうだ。俺との瞑想鍛錬の後、読めない二つのスキル、”スキルX” が現れたようだ。



 翌日、第三階層から入った俺たちは同じ山頂で呼吸と瞑想を行い、(だいぶ蛇口の栓を開けれた)いつもの各武具の型を打ち太刀、仕太刀を交代しながら行った後、第三階層の魔物を妹単独ですべての武具、暗器を用い倒していった。

 日が暮れるまでダンジョンアタックを続けた。妹はレベル10になり、文字化けスキルが増えたことを嬉しそうに俺に報告した。

 ユキに妹が、俺と同じく ”スキルX” が発生した事を説明した。ユキは状態を理解すると、俺と同じく個別契約し冒険者登録することを進言した。妹のスキルは学校に行けば公に晒される。

 俺の同伴ではギルドで鑑定されないが、単独では必ず大事になる。ユキの管理下に入れば、学校など俺の目が届かない時にもユキが把握できる。ユキが責任持って守るだろう。明日の朝、サロンで落ち合い妹も契約を行うこととなった。


『おはようございます』


 次の日、サロンで盛大に朝飯を平らげていた俺たちにユキが声を掛けた。同じテーブルに着いたユキはコーヒーを頼み、俺たちが食べるのを微笑みながら見ていた。既にユキと妹のイブキは面識があり、俺のパートナーであることも知っていた。


『おはようございます!! 今日はなんかすみません。こっちから挨拶も兼ねてギルドに行かなければならないんですが、ユキねえさんに出張ってもらって恐縮っす! イヤー、なんか兄にレベリングしてもらってたんですが、わけのわからないスキル満載で今日あたり私がユキ姉さんに相談しようかなって思っていたんですよ。さすがにこの状況は異常っすよね。けど我が兄は “心配ない、以上”って感じの説明しかしないんですよ。最近なんかお金はがっぽがっぽ稼ぐわ、冒険者ランクは鰻のぼりだわ、食べ放題の施設に引っ越すわ、きれいなお姉さんのいるカウンターでさらさら手続きをこなすわ、これ本当に私の兄か??って私の浅い常識からみても異常っす。この異常な兄から “心配ない” じゃあ、心配だったんすよ、あとあのカウンターの少したれ目の可愛い系のお姉さん、ヤバいっすよ。ユキ姉さんと真逆のかわいい系じゃないですか、これは堅物そうな兄がコロって行っちゃうパターンすよ、英雄色を好む。?、なんの話だっけ、ああ、相談の件なんですが、私大人の知り合いっていっぱいいるんすけど姉さんを差し置いて相談なんてありえないっす。一つ常識外れの兄を飼いならす猛獣使いのユキ姉さんに、客観的、具体的な対応策をご指導いただきたく・・え!猛獣、猛獣なのですか??あの・・?そうか!私が寝た後、夜な夜な抜け出しているのは・・・、ぎゃー-!ぬんが!』


 俺はイブキの口に特大のステーキをほり込んだ。まだぐにゅぐにゅ言っているのか噛んでいるのかわからないが一応黙った。


『さすがにここでは話せないので、サロンの別室を取っています。食事は終われはそこに来ていただけますか』


 口いっぱいにステーキを含みながら“ふんがふんが”いっているイブキも了解といったのだろう。

 食事が終わった俺たちは小部屋でユキの説明を聞いていた。丁寧に説明するユキを、キラキラする目で眺めている妹はちゃんと聞いているのだろう。俺と同じ契約だ。ただ冒険者登録したてのランクFだ。15に満たないイブキは、かならずユキと繋いでダンジョンに入ることが追加された。これはイブキがランクCになるか、或いは15歳になれば解除される。


『なにも問題ないっす!姉さんと一生繋がっていたいっす!家では“おい、めし、ふろっ”てくらいしかしゃべらない兄なんで、熟年夫婦かっ!てつっこみたくなる時もあるんすよ。ユキ姉さんがいつも一緒、しかも兄とも繋がっているって、、これは噂の3ピー、うんが!』

 俺は出されたケーキをイブキの口に突っ込んだ。ニコニコ聞いていたユキと契約を交わし、イブキの左手にも契約紋が浮かんだ。


「イブキのサポートを頼む。明日からは上位ダンジョンにイブキと入る。俺は何かありそうな場合のみ手助けする」


 ユキは俺からみえないボードを操作し、一つのクエストを選んだ。


『わかりました。第一階層の核回収のクエストを受注します。ノルマは1個、期限なし。納入数に応じ貢献ポイントが稼げます。これがイブキちゃんのギルドカードです』


「それでいいっす!今からユキ姉さんと繋がってるんですよね、明日もダンジョンで一緒なんっすよね!ユキ姉さんの名を背負う不詳イブキ、怖れるものがございません!剣を取ってはクールダンディーゲンジがお弟子、おつむを取ってはビューティーキューティーユキ姉さんが舎弟、ゲンジ一家の3ぴーの一人、イブキ、ここに参、ぶが!」


 俺のケーキを口に突っ込まれたイブキはむがむが言っていた。


『イブキちゃん、今日からよろしくね』


『りょううかいっす!』

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