第16話 常備不懈 じょうびふかい

 常備不懈 じょうびふかい

 普段の生活の中でも、何かあった時のための準備を怠らないこと



 血でカピカピになり、きつい臭いのする体をシャワーと石鹸で洗い、新しい服と靴に着替えた。ギルド寄る前に家によった。俺の顔を見た妹は俺の体に異常がないか観察した。


「遅くなってごめんな。少しややこしい事情があったんだよ」


 俺たちの生活は大幅に改善し、常に健康的な食事がとれるようになっていた。

 妹は昨日用意していた鍋を温めなおし、パンを切り、野菜を付け足した。妹から、もう朝の鍛錬は済ませたこと、昨日近所のおばさんからたくさん野菜がもらえたこと、(いつもボロボロな)ゲンジの防具を洗って、磨いて置いていること、心配だったけどよく眠れたこと、こんなことと共に学校のことを相談してきた。


 妹は今年10歳だ。入学できる年齢になった。学校は無料で通える。同い年の友達もできる。魔物を倒すすべを覚えられる。ステータスも上げれる。

 しかし、妹の顔を見るとあの少女を思い出す。妹は戦闘技に関してはある種の天才だ。俺の朝の鍛錬を一か月続けているが、十分ついてきている。

 俺の10歳のころ程ではないが、ゲンジの記憶にある学校の生徒と比較にならない技量と力がある。あの少女を迎えに来たおっさんと言ったように、一寸先は闇だ。妹もレベルアップしない体質かもしれない、その対処を指導できるのは俺しかいない。

 よし冒険者学校に行かそう。その前にダンジョンに一緒に入ろう。ゲンジ、それでいいよな。


 食事後、ギルドについた俺はユキを探した。カウンターにはいない。カウンターにいる男性職員に聞いてみると、ギルドの2階にある小部屋に案内された。そこはユキがおり、コーヒーを入れ、お菓子を出してくれた。


『昨日はいろいろな意味でお疲れさまでした。本当にいろいろありましたね。まずはステータスを確認しましょう』


 レベル:55

 スキル:アイテムボックス:85→α, 身体強化:32→67, 剣術:51→α, 薙刀術49→α, 投擲術:32→67, 火魔法:21→α, 土魔法:8→25, 耐魔法:3→10, 風魔法;1→5

 スキルX:"覇気"φ→χ、"合気"φ→χ、"操気"π→σ、"根源力"ο→ρ、"呼吸"χ→Ψ、"瞑想"χ→Ψ、"意識"π→σ"武術"ω、"間合い"π→σ、"空間支配"α→τ、"物理支配"μ→τ

 


『レベルが55になりましたね』


『次に、冒険者ランクBに昇格しました。クエストポイントは少ないですが、核の回収と冒険者の遺品の納入数はギルドでのランク加点項目で重視されています。一人当たりでのゲンジさんのポイントは際立っています』


『更に、昨日のボス戦で敗れたチームの遺品と遺体回収、生存者の救助が後押ししました。ランクBは、街防衛のための緊急クエストの参加義務、報酬10%のギルドへの租税と引き換えに、特別な福利厚生が与えられます。ダンジョン前でいつも外のシャワーを使っている施設の内部が使えます。例えば3階のサロンです。ここは24時間飲み物や食事が無償で提供され、上位冒険者の交流の場でもあります。また、上位冒険者専用のギルドカウンターも設置されています』


『もうわざわざここに来ていただく必要はありません。2階には上位者のための武具、防具、アイテムを扱う店舗があります。ここでは既存の武具以外の作成依頼も可能です。武具の購入はほぼ原価です。宿泊も可能です。上位ランク者が効率よくダンジョンに入れるように、施設はBランク以上の冒険者に個室を用意します。ゲンジさんの部屋も用意されました』


『中はシャワーだけでなく、お風呂、ベット、キッチンスペースがあります。妹さんとそこに住んでいただいても問題ありません。ギルドカードは既に更新済みです』


 扱いが全然違うな。妹とダンジョンに潜ろうと思っていたところなので丁度良い。風呂に食べ放題か、妹が喜ぶな。


『次に資金ですが、今回のクエストと他の回収された魔石、アイテムの売却益が5500万G、前回の遺品回収が5万G、それと冒険者の救助に関する報酬、これは家族からクエストとして申請し処理されたという手続きが踏まれました。今回のBランク昇格にも大きく寄与しました。このクエスト報酬がこのカテゴリにおけるギルド上限の500万Gです。今回の多量の遺品回収の報酬は少し時間がかかります。繰り越しを足し7104万Gです』


 あの箱は妹にそのまま渡した。多分金だろう。


「ユキ、ミスリスインゴットはBランクの特権で購入できるか」


『それは難しいですね。あの学校での授与が破格であり、通常購入するにはSランクのステータスと億のお金、その流通ルートへ口が利ける誰かが必要です』


 なるほど、やはり妹もミスリルのためにも学校に行くべきだな。


「妹を学校に行かせたいのだが、手続きはどうすればいい」


『わかりました。手続きはこちらで行います。施設に引っ越すなら、妹さんが直接行う手続きはそちらのカウンターに引き継ぎます』


「俺たちは施設に引っ越す」


『わかりました。連絡しておきます』


 俺は早速家に帰り、家の荷物を全部ボックスにしまい、妹と上位ダンジョン前の施設に行った。2階のロビーでギルドカードを示すと、カウンターの女性が施設の説明と俺たちの部屋への案内、妹のための家族カードを渡してくれた。妹の学校入学の手続きもその場で行ってくれた。

 1か月後の入学になる。部屋に入った俺たちはその豪華さに圧倒された。部屋はリビング、キッチン、寝室、トイレ、武器庫とシャワーが付いた清潔な風呂がある。蛇口からはお湯がでる。妹はベットで飛び跳ねている。

 2階で武器と防具を更新した。俺たちは街の道具屋で作ったかなりの種類の武器でいつも鍛錬しているが、ここでも同じ種類の武具が揃っていた。手に取ってみるが一つ一つ造りがしっかりしている。さすがギルド直営。

 俺たちの細かい要望にも何らかのスキルを使ってその場で調整してくれる。防具は、先端、底、踵に金属を仕込んだブーツ、金属板が入った脛当て、体温保護機能が付いた上下インナー、耐刃性の高い革をつかった羽織と袴、魔法耐性のあるマント、手首から肘まで盾替わりの硬い金属板が入ったガントレット、色は前世で俺を看取った山県昌重の赤添えを参考にリクエストした。

 店員はスキルか魔法かでその場で答えてくれる。妹の武器は刀、槍、短槍、薙刀と暗器一式、俺は刀と鎖鎌以外だ。お値段原価のはずだが俺と妹の分併せ、占めて5000万Gだった。


“ゲンジ、見てるか、ここまできたぞ” 


 心の中で語り掛け、ゲンジとゲンジの両親の冥福を祈った。サロンでたらふく食った俺たちは、その夜、二つのベットを並べ、ぐっすり眠った。

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