第15話 後悔噬臍 こうかいぜいせい

後悔噬臍 こうかいぜいせい

後悔したとしてもどうにもならないこと



 ボス部屋の冒険者の遺品を回収しユキから送ってもらった死体袋にできるだけ同じ人の部位を集めた。


『ヒー、ヒー』


 洞窟の端から声が漏れてきた。


「生存者か、もし動けるなら皆の遺品回収を手伝ってくれ」


 返事がない。声がした方に近づくと、土の膨らみの中からのようだ。誰が入っているかわかった。多分ハルトのクランの誰かが、土魔法でこの子を守ったのだろう。その土魔法の囲いを解くと、ボスエリアで俺を見て悲鳴をあげた少女が胎児のような姿勢で横たわっていた。


「動けるか」


 返事がなく、こっちもみていない。仕方なくハルトにもらった回復薬を投げて作業に戻った。

 死体が入っているため、死体袋はアイテムボックスに入れることはできない。12袋だ。


『行かないで!』


 少女は這うように俺の方に近づいてきた。ユキに生存者1、死者12と連絡し、腰が抜け、動けない少女をおぶり、死体袋を運びながら第三階層に降りた。

 出たところで第三階層の魔力が吸収できたことを確認し転移門をくぐった。ユキから連絡を受けたギルド職員が淡々と死体袋を受け取った。少女も引き渡したかったが、俺から離れない。

 いつもならすぐにシャワーを浴びてギルドに向うのであるが、休憩所のベンチに座った。俺の服をギュっと握り続ける少女は泣き続けている。妹と同じくらいの歳だろうか。俺はなにも言わずに座り続けた。

 もう夜で、血と砂塵にまみれた俺と少女はギルド職員も驚くような姿だ。ダンジョンから出てくる他の冒険者は事情を察しているのか、俺たちを見ないように通り過ぎていく。

 泣き声はヒック、ヒックと続き、たまに叫び、またヒックとまだ落ち着かない。俺は黙って座り続けた。

 ユキに今日はギルドに寄れないことを伝え、妹に帰れなくなったことの連絡を頼んだ。どれくらいたったのだろう、横の少女は俺の服を掴んだまま寝ていた。

 そっとベンチに寝かし、新しいコートをボックスから出し、少女に掛けた。俺はベンチを背にし、座り続けた。


 朝が来た。女はまだ寝ているが俺の服を離していない。


『・・・』


 起きたようだ。黙って座らせ、回復薬を飲ませた。ユキから連絡があった。彼女の一族が迎えにくるようだ。

 慌てて駆け寄る上等な服を着た男女が彼女を立たせ、高級そうなデカい魔動車に乗せて立ち去った。


 年配の男が残った。

 ゆっくりタバコに火をつけしゃべり始めた。


『まず、お嬢様を生きて連れ帰っていただいたことに感謝します。また、状況の確認に時間を要し、ここに来るのが遅れたこともお詫び申し上げます』


『お嬢様は元々体が弱く外に出たがらない方でした。ダンジョンでのレベリングで改善するのでは、と考えられたご両親の願いでAランクの冒険者を雇ってダンジョンに入っていったのです。順調にステータスが上がり驚くような力を得られ、病弱だったお嬢様は単独でも魔物も倒せるようになりました。自分の成長と神の使命を達成できていることが自信になり、明るく前向きになってきたのですが、どうやら急ぎすぎたようです』


『信頼していた冒険者が付いていた。そして成果が出た。しかし、今回こういう結果になってしまいました。何があるか、確実な未来は誰もわからない。けど、最悪は回避できました。ゲンジさん、あなたによってです。あなたには感謝します。ここに感謝の印があります。ご両親からです。ギルド経由でも何らかの感謝の印が送られるでしょう。今回の件はこれ以上あなたからは広まらない、そう我々は信じます。また、今回偶然できた縁をご両親は今回限りで終わりと思っておられない、この縁に感謝を続けるでしょう。そしてそれはあなたにとって、無視できない力になるでしょう』


ベンチに装飾された木箱を残し、男は去った。

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