第14話 越俎代庖 えっそだいほう

越俎代庖 えっそだいほう

自分の出過ぎた行いによって、他人の権限を侵す罪のこと



『今日は第二階層にある核の回収のクエストを受注しました。第二階層はオーガ、オーク、ゴブリン等の人型魔物の数が多く、群れの規模が大きくなっています。一階層に比べ、より多くの核が存在し、その核の周辺を群れが守っていると認識してください。通常のCランクであれば、群れからの小集団を釣って孤立させ、攻撃力に特化したチーム2隊で挟みながら殲滅する、これを繰り返し、群れを核から引きはがしていきます。そして隠密型のチームが祭壇の核を回収し、攻略します。Cランクのクランであればです。ゲンジさんはソロですが、魔力が尽きず、ここの魔物であれば一撃で倒せる力があり、近接だけでなく遠距離も可能ですので包囲されても問題ないと判断しました。第二階層の群れ、軍隊化した魔物を討伐しつくしてください。そしてできる限り、核を回収してください』


 武者震いがした。数の暴力、これに対抗するには際立った力がもちろん必要だ。前世での技と魔法の原理を混合した新しい攻撃、行ける。やってやる。


『アイテムボックスには上位の回復薬を多量に収納しています。また解毒、魔力回復の薬も入れています。このクエストの後は少し長めの休暇をとりましょう』


 第二階層への転送門に足を踏み入れる。入り口には複数のクランの姿があるが、ユキの指示に従い、奥に駆ける。ここも地上と変わらない平原あり、山あり川ありのフィールドらしい。森を抜け山岳地帯に向かう。


 1時間程度駆けると前方に陣の様に固まった魔物共が見えた。5層の陣、大体1000匹くらいだろうか。呼吸を整え火弾5発を発現させた。周囲を砂塵で覆い国行2刀を抜き放った。


“南無三!”


 そのまま突撃する。火弾は水平に打っていく、二刀で風飛漸を打つ、砂塵を周囲に旋回させる。俺の砂塵の間合いに入った魔法をレジストできない魔物は肉のミキサー状態だ。最初は弓が放たれたが、砂塵に軌道を変えられ、削られ消滅する。矢だけでなく、とにかく近づく魔物、柵、構造物、まとめて高速自転する砂の円盤が細切れにしていく、俺はできる限り複数の技を同時に使った。何処まで持久するか、その限界も試したい。


 既に第3陣まで突破している。抵抗らしい抵抗もできず、魔物たちは殲滅されていく。魔物は逃走することがなく人を見ればとにかく襲ってくる習性とゲンジは習っていた。奴らは自ら死の暴風に近寄り消える。

 第5陣を抜けた。そこには洞窟が見えたので、入る前に残っている魔物を鉄火弾で殲滅していく。

 キリがないので土魔法で周辺の地形を傾かせ、残った魔物を一か所に集め、鉄火弾と飛斬を打ちまくる、もう戦闘でもなく清掃になっている。俺の魔力は尽きない。外の魔物を一掃した後、洞窟の奥にいた魔物も火弾で瞬殺し、核を回収した。ここにも死んだ冒険者の骨とアイテムがあったので回収していく。


 この作業を延々と繰り返す。もう3時間以上過ぎた。瞬移により各段に移動速度が増し、核も6個回収したがまだ俺の魔力は尽きない。一度俺が戦闘している近くに他の冒険者チームが来たが、無視して殲滅していった。多分俺の姿は捉えられていないと思う。彼らは強力な魔物が魔物の群れを襲っていると思ったのか、一目散に逃げていった。殲滅作業を続ける。


 時間の感覚がないが、既に核は15個以上回収したはずだ。次のユキの誘導された先はボスエリアだった。

 いい加減この作業に飽きを感じていた俺は、この誘導に感謝した。ボスエリアが見えた。待機している冒険者クランが見えた。ゆっくり歩いて近づいたが、血まみれ、肉まみれ、砂まみれな俺を見たのか、クランの少女が


『ひっ!』


と悲鳴を上げた。その10名程度のチームは俺に向かい戦闘態勢を慌てて取った。


「俺は冒険者だ。敵意はない」


俺の声を聴いて隊形は解いたものの、警戒は解かなかった。


『わかった。ただし、俺たちから距離をとってくれ。お前が20m以内に近づいたら敵とみなす』


「わかった」


 俺は離れた木のふもとに座り、順番を待つ。先に見えるクランが俺のことをひそひそ話しているが無視する。


 リーダーらしき男が近寄ってきた。俺に回復薬を投げると、


『さっきは悪かった。魔物扱いして俺たちがお前に敵意を一瞬向けたことを詫びる。ソロなのか?』


「まあ、そうだな」


『ソロでここまで来れる実力者に敵意を向けたとはな。おれはハルトだ。あのクランのリーダーだ』


「気にしないでくれ。これはありがたくいただくよ、ハルト。おれはゲンジだ」


『ゲンジ、回復薬とお互い生き残ったら俺が外で飯をおごる。これで手打ちでいいか?』


「それでいい」


「子守か」


『ああ、今回の報酬の高さが俺のつまらないプライドを上回った。あのお嬢様のお付きが申し入れた、ありえない追加報酬がチームの安全判断を少し緩くした。つまらん仕事だ。まあ、今回はお前に出会ったことが俺にとって最大の成果だったと少し後で振り返るんだろうな』


 再開を約束し、ハルトは蒼い宝石を埋め込んだ小手を付けている右手を差し出した。握り返し別れた。ハルトのチームがボスエリアに入っていった。


『第二階層のボスはミノタウルスです。人型で牛の頭を持ち、皮膚はオーガ以上の硬度があります。特異種は角の色で判ります。通常角は白いですが、灰色が上位、レアが黒です。黒は硬度、パワー、知能が段違いで、通常4階層で稀にでる魔物です。弱点は変わらず心臓、首、脳です。ゲンジさんの場合、火弾、飛漸であれば十分通ると判断します』


 ハルト達が入って30分程度だろうか、結界が解けた。俺は入っていく。

洞窟の中は真っすぐ伸びた通路とその向こうに広いスペースがあった。近づくにつれ血の匂いがした。そこにはいくつもの冒険者の死骸の一部が転がっていた。奥にはそれを食らっているミノタウルスがいた。角は黒い。


 俺に気付いた奴は、新たに俺が入ったことが嬉しいのか、誰かの足を食いながら、奇妙な声を上げてウロウロしていた。ゆっくりミノタウルスに近づく。


 俺に全く警戒せず、よく見ると俺をみて涎を垂らしている。片手に誰かの足、もう片手に蒼い宝石の着いた小手に覆われた手、それを振りながら踊っている。


 俺の間合いに入った瞬間、十分気を溜めた国行を抜き放った。高度に圧縮した風飛斬を飛ばす。ミノタウルスの首が滑って落ちた。


『・・・・・・』


 奴は黒い煙に変わり、奥の階段が見えた。

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