第13話 飛竜乗雲 ひりゅうじょううん

飛竜乗雲 ひりゅうじょううん

英雄が時勢に乗じて勢いを得て、才能を発揮すること



 家に帰った俺は、いつもの魔法の鍛錬を行う河原で風魔法を試した。

オーガは三本の角の間で竜巻を作っていたし、目に見えないナイフのようなものを飛ばしていた。魔力を風魔法に繋げる。空気が途端に重くなった。水中にいる感じだ。

 動きは阻害されないが空気を掴める感覚だ。空気を動かしてみた。風が吹く。回してみた。竜巻になる。この感じか。風魔法をいつものように圧縮すると、その部分が液体から個体に変化するような感じでできた。手で触れることができた。そして、それは俺には見える。


 火弾の圧縮と同じ要領で空気を圧縮し、ナイフの形状にした。これを飛ばす。岩に突き刺さるが、突き刺さった風のナイフは俺にしか認識できていないのだろう。これが奴の使っていた技か、なるほど。

 次に瞬移での更なる加速を試してみる。移動の瞬間、後ろから風で体を押した。止まる際に逆に風で止めた。速いし無理なく止まれる。土魔法による足場を利用する瞬移は、極端に重心を低く保たなくてはならなかったが、土魔法の足場と進行方向への風を加えた新しい動きは、逆に重心は通常の方が風で押せる。今まで以上に自然体で高速移動できる。モーションが少ない。これなら、敵は俺の動きを読むことが難しいだろう。

 今度は空中だ。瞬移で跳躍する。その先に空気を固体化した足場を作る。それを踏み台に跳躍し、後ろから風で押す。跳べる。

 空気の踏み台と風の押し上げで上空へ駆けあがる。そこからの街は小さく見える。


 地上に降りた俺は、空中で土魔法と風魔法を合わせてみる。地面の表面の砂を浮かせ、風で空中に舞わせる。

 空中の砂も感覚が繋がっている。オーガに使った目つぶしのイメージで砂を自分の周りに舞わせる、砂の濃度を上げ帯のように舞わせる。帯を龍の形で舞わせる。

 円盤状に成形した土を自転させながら舞わせる、いろいろ作ってみた。円盤状の土を岩に当てると砂が散っていくが、自転速度を上げることで同時に岩を削ることができた。大きな円盤を高速で回すと火花を出しながら岩を切断できた。

 今度は火魔法の要素を増し、強度を上げた円盤で試すと、だいたい半分の時間で岩は切れた。使える。自転速度と硬さだ。風魔法と土魔法を組み合わせたこの技を“砂塵”と名付けた。


 魔法の掛け合わせ、このヒントからオークに防がれた火弾について物理を併せられるか試すことにする。ユキも上位の魔物はより強い魔法に対する無効化を持っていると言っていた。

 手足に火弾を纏いゼロ距離で発動させることは、前回のオーク戦で効果があったが近接戦闘だ。中距離、遠距離での攻撃方法として、耐魔法をかいくぐる方法がないか試してみる。

 俺の遠距離攻撃は火弾だ。これに物理を組み合わせる。まず、圧縮した石で火弾に似せた円錐の棘を作った。これの円錐の底に火弾を乗せて撃った。

 火弾だけが飛んでいった。石弾は明後日の方向にはじけ飛んでいた。今度は石弾と火弾を同じ自転速度に合わせ発射した。真っ赤になった石弾は撃つと同時に前に飛んだが、途中で火弾の軌道とは別れてしまった。

 今度は石弾を包みこむような火弾を作った。火弾の中心に石弾がある状態だ。撃つ。成功だ。火弾と同じ軌道で着弾した。

 よし、魔法がレジストされる場合に使えるだろう。火弾で石が真っ赤になったのを見て前世の鉄加工を思い出した。今までドロップした剣などの鉄製武器を全て出した。

 土魔法で型を作り、ゴブリンやオーク、オーガの剣を詰める。火魔法で熱していく。

 剣が真っ赤になって溶け合った。次々にボックスから金属武具を放り込んでいく。かなり大きな灼熱の鉄の液体ができた。土型を広げ、底に小さな弾の型を作り、液状の鉄が流れ込むようにした。冷やした後ボックスに回収していった。

 この鉄弾と火弾との組み合わせた弾は、貫通威力が倍化した。“鉄火弾“、そう名付けた。ボックスから鉄弾を出し瞬時に火弾で包み撃つ、これを繰り返し、5発を連射できる状態まで仕上げた。



---------------



 少し休憩してから、二振りのミスリルの刀と鎖を確認した。ミスリルインゴットを見た時も思ったが、他の金属との違いは透明感だ。刀として加工された状態では更に透明感が際立つように見える。

 透けはしないが、光の反射が一層ではなく、複層の反射のように見える。太刀を取り出し観察した。製法や加工がちがうので刃に波紋はない。柄も加工なくミスリルの棒状だ。鍔も付いていない。鎖は約10mで両端は柄状の棒であり加工されていない。

 ユキが言うには、一次加工されたミスリルに具体的なイメージを魔力で流し込むことで完成形になるらしい。

 まず鎖から俺の魔力を流す。片側の柄をもって鎖鎌をイメージした。俺の魔力が鎖を伝わるのがなんとなく解る。すると、イメージ通り、先端に分銅が付いた鎖鎌になった。柄も俺の手のサイズに馴染んだ。

 撃つ、回すを繰り返し、分銅の重量や鎖の長さの俺のイメージを伝え変化させた。見た目もミスリルの透明感ではなく鉄の外観になった。しばらく、前世での鎖鎌鍛錬の型を繰り返し違和感をなくす。5m先の岩に回転させながら分銅を撃ってみる。岩に食い込んだ。鎖を引いて抜く。使える。前世で愛用していた鎖鎌以上の使い心地だ。しかも、鎖は俺のイメージ通りに伸び縮みする。


 今度は太刀だ。前世での愛刀、国行を強くイメージする。すると柄や鍔、鞘に至るまで俺が使っていた国行が再現された。よし。小太刀も同様にイメージした。国行の大小が手に入った。

 型を繰り返し、重心や長さを調整した。岩に近づき居合を放つ。しばらくすると岩は斜めにずれ、形状を保ったまま上部がずり落ちた。

 刃は岩の奥まで届かなかったはずなのに両断できた。これがミスリル武具の能力なのか。何度か奥行きの違う岩を切っていったが、断つイメージで切った場合は岩が両断できた。風魔法とは違う魔力そのものの刃が国行から飛ばされ切断している感覚だ。

 今度は岩に刃が届かない位置で国行を振りぬいた。岩が二つに分かれた。やはり魔力の刃が飛ばせているということか。何度かやってみる。

 今のところ岩を切れる間合いは5m程度か。 “飛斬“ 俺はこの技に名を付けた。一刀、二刀、鎖での斬撃距離の確認、威力の確認を行った。だいたい理想通りになった。

 更に、このミスリル武具に火弾を纏わせる、飛斬に火弾を混ぜる、鎖鎌で分銅を飛ばした先に分銅から火弾を撃つ、この鍛錬と調整を繰り返した。

 いける。火弾を纏わせた場合は飛斬の射程距離が倍まで伸ばせた。更に火のダメージか、切り口が燃えている。

 風魔法を纏わせた場合は切断のみのダメージだが10mくらいまで刃が届く。それぞれ”火飛斬“、”風飛斬”と名付ける。これで近接戦、中距離戦での技の種類を増やすことができた。きょうは収穫が多い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る