第9話 嚆矢濫觴 こうしらんしょう

 嚆矢濫觴 こうしらんしょう

 物事の始まり・起こり。「嚆矢」はかぶら矢の意。転じて、物事の始まり。昔、戦いを始めるときに、かぶら矢を敵の陣に射かけたことからいう


 ユキの説明を思い出す。


”この国ではダンジョンは上位下位に分かれます。ダンジョンから魔力が地上に拡散されますが、その魔力量が多いダンジョンを分別し上位ダンジョンと呼んでいます。


 ここはより強い魔物が発生し、高エネルギーの魔石が採取できる貴重な国の資源でもあります。ギルドが厳重に管理し、Cランク以上の冒険者しか入れません。


 学校で入ったダンジョンは下位ダンジョンの一つです。学校を除いて、下位ダンジョンの管理は甘く、ランクD以下が入れます。


 ダンジョンには魔物が発生しやすくなる触媒として核があり、各階層には更に下の階層に繋がるルートを守るボスがいます。ボスを倒し次の階層に行ければ、その魔力に晒された者だけ、転移門という魔動技術で作られたゲートによりその階層に入れます。この国のダンジョンは第五階層まであります”


 ランクCの俺は上位ダンジョン第一階層に入ると左手の甲に刻まれた契約紋を開放し、ギルドの通信室にいるユキと意識を共有した。


『ゲンジさん、第一階層の主な魔物は上位のゴブリンです。今回ゴブリン討伐のクエストを受けました。ここは人型の魔物が主です。人型は基本的に群れで襲ってきます。攻略は群れを分断し、1対多の状態から1対1の状況を作り、時間をかけず一撃で倒すことです。魔石やドロップは自動的にこちらで回収、転送するのでゲンジさんは戦闘に集中してください』


 既に俺のアイテムボックスはユキのそれと繋がっており、ユキの能力でドロップは自動的に回収される。


『他のクランから離れるため、左奥に進んでください。約5km先の森の奥に核エリアがあり、今日はそこの核の回収を我々の目的とします』


 ユキのナビに従い森の奥へ駆けていった。


『そこです』


 森を抜けた先に見える洞窟、その入り口には剣を持った多数のゴブリンと二回り大きなゴブリンがいた。


『大きなゴブリンはホブゴブリンと言い、ゴブリンの上位互換ですが物理攻撃だけです。まだ魔法持ちは出ていません』


『彼らの魔石は心臓の位置にあります。人と同じく、首、脳、心臓を破壊することで動きが止まります』


 俺は躊躇なく洞窟前に飛び込んでいき、ゴブリンの首をボックスから出した薙刀で撥ねていく。ホブゴブリンがギャーギャー喚き、ゴブリン達に指示しているようだが、俺は前に出た奴を確実に一撃で倒し包囲を作らせず殲滅した。


『ゴブリン45、ホブゴブリン9、討伐です』


 洞窟入り口周りに魔物はいない。


『ここからはその洞窟の中にいる魔物が出てきます。より上位のゴブリンが出てくる可能性があります』


 俺は呼吸を整え、薙刀を構え洞窟の中に進んだ。洞窟の中は松明が灯されており、視界は確保できている。奥の方は、なにやら騒がしく、あまり連携していない単体が飛び出してきたので、突き伏せ進んでいった。ある程度進むと、大きな空間が広がっていた。


『魔法型ゴブリン5匹です。遠距離からの攻撃に気を付けてください』


 俺はこのスペースに飛び込んだ。ゴブリン共はギャーギャー騒いだあと火の玉を俺にめがけ2,3撃ってきた。威力はありそうだが弓と同じくらいの速度だ。これなら当たらない。弓を出して5体を射抜いていった。奥の祭壇らしきものの上に、魔石によく似た大きめの球体があった。


『それが核と呼ばれる魔石です。魔物を生む触媒です。回収してください』


 今回、初めての上位ダンジョンのクエストであったが、このレベルは今の俺にとって問題ないようだ。帰還した俺はダンジョンの傍にある冒険者専用施設外側のシャワーを浴び、血肉を落とし体を石鹸で洗った。服と武具はボックスに送り、新しい服を取り出し着た。ユキと連結され拡張されたボックスは戦闘でも生活でも大いに役立っている。夕刻、ギルドに戻るとユキは他の冒険の対応中だった。


『ちょっと待っていてください』


 俺の頭の中に直接声が届く。便利だ。ロビーのソファーで改めて今回のダンジョンアタックを振り返ってみたが、ユキの能力は驚異的であった。武具は取り換え自由で、ドロップする魔石やアイテムを拾う必要もない。初見の魔物の情報もタイムリーに伝えてくれる。俺にはゲンジの知識はあるが、実際のダンジョンに関する的確な情報はもちろん持ち合わせず、それが直接俺に音もなく届く。しかも俺が守る必要のない安全が確保された場所からだ。

 魔物から得られる力は俺とユキに分散吸収されるようだが、デメリットはそれくらいだ。


『いま終わりました。窓口に来てください』


 ここでユキとの感覚共有を切った。

 おれとユキの関係はあくまで、冒険者と受付の関係であることを装うため、精算は窓口で行うと決めていた。


『お疲れ様です』


 ユキは俺にステータスボードを見せる。


 レベル:15

 ステータス:攻撃力:16→24、守備力:4→8、身体活性:10→15、精神力:20→30、魔力:4→6

 スキル:アイテムボックス:6→76, 身体強化:5→15, 剣術:10→32, 薙刀術:5, 投擲術:1→5, 火魔法:1

 スキルX:"覇気"ο→υ、"合気"ο→υ、"操気"μ→μ、"根源力"λ→ν、"呼吸"υ→φ、"瞑想"υ→φ、"意識"μ→μ"武術"ψ→ω、"間合い"μ→μ、"空間支配"α→α、"物理支配"α→α


 レベルは5上がっていた。火魔法が出た。


『初日からコアの回収までいけました。素晴らしい成果ですね。更に魔物を間引けるよう、ドロップ品はすべてこちらのボックスに移して保管しますね。現在のゲンジさんの資金は今回の私への10%報酬を引いた後で3252万Gとなります。


 ゲンジさんはレベルの伸び具合は標準的です。しかし、このステータスは、ランクC冒険者としては標準的であり、本来ならソロでのコア回収はあり得ません。

 スキルXの影響か、他の何かなのかわかりませんが、今日のソロでの成果は、レベル三桁のランクA冒険者と遜色ないと思います。


 これらかのルーティーンとしては、基本的に二日に1回ダンジョンに入るとし、クエストの難易度を都度調整していきます。それでいいですか?』


「それでいい」


『では何かあればいつでも契約紋から繋げてください』




 私は去っていくゲンジの後ろ姿を見つめた。


“生き残れますように” 


 ユキは神に祈った。

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