第二章 ダンジョン
第8話 一樹之陰 いちじゅうのかげ
一樹之陰 いちじゅうのかげ
人と人との出会いはすべて前世からの因縁である
学校を首席卒業した。卒業式まで学校に行かず、卒業式当日だけ出席した。
相変わらず誰も俺に近づかない。理由が軽蔑から怖れに変わっただけだ。
まあ、あれだけ凄惨なものを見せれば仕方がない。卒業式では、この国のギルド長から6本のミスリスインゴットと、Cランク冒険者への推薦状を貰った。俺が首席卒業であることが皆の前で告げられた。
ギルド長は俺にだけ聞こえる声で、
『お前はいい冒険者になる、俺たちはお前を待っているからな』
と呟いた。首席クランのメンバーは、いくつものクランから勧誘があるはずだが、結局俺には誰からも声がかからなかった。
通常クランは貴族の援助を受けており、その貴族のご子息を、公衆の面前でボロボロにした俺に対し、どのクランも声をかけられないのだろう。俺の所持金は交流戦の賭けで、だいたい3000万Gになり、これは、ミスリルインゴットの加工費用に充てる予定だ。
ミスリルは魔法との相性がよく、これで作った武器との併せ技が使える。俺は様々な新しい技を妄想し胸が躍った。
卒業式の次の日、中央区にある上位のギルドに行った。
前に行った下位のギルドとは違い、4階建ての立派な建物で、酒場はなく、きれいな大理石の広々としたロビーであり、静かな雰囲気を漂わす冒険者が集まっていた。
いくつかカウンターがあったが、一つのカウンターに、俺を見ている受付嬢がいた。俺はこのカウンターに自然と引き寄せられた。
卒業時に受け取った推薦状を出し、冒険者の登録に来たことを告げた。
彼女は暫く俺を眺めると、スキルボードを出した。通常スキルボードは自分のみに見え、他人には見えないはずだ。受付嬢が示したスキルボードが、俺には見えた。
名前:ゲンジ
レベル:10
ステータス:攻撃力:16、守備力:4、身体活性:10、精神力:20、魔力:4
スキル:アイテムボックス:6, 身体強化:5, 剣術:10
スキルX:"覇気"ε、"合気"ε、"操気"κ、"根源力"i、"呼吸"ο、"瞑想"ο、"意識"k"、武術"χ、"間合い"κ、"空間支配"α、"物理支配"α
俺は受付嬢に殺気を飛ばした。本来本人しか見えないスキルボードを俺に見せたこと、そのボードには明らかに俺のスキルが浮かんでいること、文字化けしていた情報が解読されていること、この三つから一気に警戒レベルを上げた。受付嬢は表情を変えずに話した。
『通常ギルドの受付は、顧客の情報を正確に把握し、それを基に最適な依頼を推奨するため、鑑定スキル上位のものが行います。あなたのステータスを断りなく鑑定したことは申し訳ないですが、ここに立つ限り、鑑定を受け入れるのが前提です』
そうなのか、ゲンジの知識にも上位ギルドの受け付けルールなんかない。
「わかった。ここは始めてだ。よく分かっていなかった。登録作業を続けてくれ」
『了解いたしました。登録作業を続けます』
暫く自分に向いているステータスボードを操っていたが、俺に向き直り言った。
『ゲンジさん、でいいですね。ゲンジさんは既にお気づきのように、あなたは通常ではありえないスキルをお持ちです。このケースでは特別な対応が必要になります。あなたには三つの選択肢があります。
一つ目は、当ギルド職員になることです。あたなの特殊な何かは、ギルドで共有、研究され冒険者全体の能力の底上げにつながる可能性に関し、追求されます。了承いただければ、ギルド管理の外には出られませんが、ダンジョンに入るような危険を冒さず、莫大なお金と、なに不足ない生活が与えられます。
二つ目は、あなたの特別な情報をギルドに共有せず守秘義務がある情報として私と共有することです。私をあなたの専属パートナーとすることです。あなたへの報酬の10%は私への報酬になります。私があなたの情報を守り、私があなたへの必要な情報を与え、最適な依頼を推奨します』
俺が特殊なのは見破られた。何も考えずここに来た俺の油断だ。この世界は俺にとって特異ではあるが、温いと油断していた。
あの学校のレベルで俺はこの世界を判った気になっていた。油断だ。大いなる反省点だ。
さあ、どう持って行く。一つ目は判る、けど二つ目はなんだ。職員とパートナー?
「どういうことだ」
『昔はギルドの鑑定で、特殊なスキルが確認された者は、問答無用で隔離し研究対象とした苦い過去があります。それはどうしても噂になります。
その噂を聞いた有能で特殊な冒険者は、ギルドに加盟せず、多くの冒険者は無理に鑑定をレジストできる隠蔽のスキルをとりました。ギルドは正確な冒険者の情報が得られなくなり、スキルとクエストのバランスが、現実と大きく乖離しました。それにより、クエストの失敗、冒険者の死亡事故が相次いだのです。
そこで、特殊スキルを持つ、或いは自身のスキルを隠したい冒険者は報酬の10%を信頼できる職員に支払い、その者とのみステータス、スキル情報を共有する制度ができました。ギルド側は犯罪歴の有無や成果報告をその職員から得て、冒険者は自分のステーテスやスキルの秘匿、選んだ職員からカスタマイズされたギルドのサービスを受けられるようになりました。
ランクアップの条件は同じです。その冒険者のランクは公開されますが、それを実現したステータスやスキルの情報は本人と契約したギルド職員にだけに共有されます。これで形だけでもギルドの管理下にあるという態をとれます。
あなたの場合はとても特殊なので、選択肢の2、つまり私をパートナーに選ぶことをお勧めします。あるいは三つ目の選択肢、フリーで活動するかです』
俺はギルドとの関係において、窓口の一本化に関して異存はない。10%も問題ない。彼女はどうだろう。
「俺たちは初対面だよな。どうやってあんたを信頼すればいい」
『その答えが契約の内容の説明になります。まず、双方の特定情報を開示できない契約魔法がかけられます。その魔法は、最上位の契約魔法使によって行われ、レジストは基本的に不可能です』
『それとこいつは俺の娘だ』
受付嬢の後ろには、卒業式で会ったギルド長がいつの間にかいた。
『お前のことは一応調べた。中々波のある人生送っているな。交流戦では久しぶりに気合の入った若造を見つけたと思った。そいつはプロの冒険者でもやらない命がけを平然と行い、いい子ちゃんの集まりになった学校で、冒険者の現実を見せつけた。それによって、お前は冒険者としてもソロで活動するしかない状況だ。違うか』
「・・・・・・」
『娘は鑑定だけでなく、空間魔法や八識の使い手で、俺が知る限りこいつより優秀なサポーターはいない。ダンジョン最下層でもここから繋がれる。
ここにいながら視覚や聴覚、お前はアイテムボックスを持っていると思うが、その空間をこいつのボックスに繋げることもできる。俺はお前が何を目指すのか知らんが、潰れていい奴じゃないと判断した。
特別で強力な何かを持っている奴は孤立し、ソロで活動し、信じられない活躍をし、情報過疎による自分の立ち位置の状況判断ができないまま突っ走り、直ぐ死ぬ。クランを組まない、組めない冒険者には俯瞰的な情報を持つサポート役が必要だ。
お前は直ぐに死んでいいやつではないと、俺の勘がいった。そして、お前が今日くると思ったので娘を座らせていた』
「・・・・・・・」
沈黙が流れた。
「ギルド長、あんたのいうことは判った。あんたは信じる。今の俺に最適だろうパートナーを推奨してくれた」
「パートナーとは背中を預ける者だ。だからあえて言う」
「あんたはこの親爺に言われてここに座った。違うか?いくら優秀な奴だろうが、俺は自分がない奴は信じない。他人の目的で動く奴は信じない。それがなくても信じるのは家族だけだ。この親爺への信頼をあんたに置き換えたりしない。悪いが二つ目の選択はなしだ」
娘は驚きの表情を浮かべていた。ギルド長は相変わらずニヤニヤしていた。
『あなたは・・・、私はあなたを見直さなければならないようですね。あなたを鑑定していながらあなたを見誤ったようです。
私の目的は、神からの使命の実現です。魔物を最も効率よく倒し、その悪の情念をできる限り浄化させるためここに座っています。
先ほど父が言いましたが、私には特別な力が与えられました。その力は直接魔物を倒すのではなく、倒す者を手助けする力です。その力を最大限活かしたいと私は思っています。
冒険者は通常複数でクランを結成し、お互いの不足するものを補い合い活動します。この集団戦闘が冒険者の基本です。
しかし、クランを組めない者、クランに入れない者がいます。力がないもの、社交性がないもの、何かを隠したいもの、この三つです。あなたは力を二度示した。いろいろ理由があるのでしょうが上級国民を叩きのめすという形で。
あなたは強さは示したが、隠したい何かがあり、自分だけで行動しようとしている。違いますか。
クランを組めず、無知ですが特別な何かがあり、特別な強さがあり、自分だけで何でもできると勘違いをしている者が、私の最適なパートナーです。
あなたです。あなたは情報を得る伝手もなく、無防備にここに来たように、あなたはこの世界を知らない。既に特別な力は鑑定させていただきました。父が言ったように、力がある者ほど、その力が特殊な場合ほどソロで行動し、無謀さゆえに直ぐに死にます。サポートがあれば、もっと多くの魔物を浄化できたのに。
私は間接的でもより多くの魔物を討伐し悪の情念を浄化したい。だから今日ここに座りました。自分の意思で、です。
私の目的をあなたに伝えました。そして、その目的は、あなたとは違う。しかし、手段は同じだ、違いますか?』
「・・・・。目的は違えど手段は同じか、その通りだな」
「俺は魔物を倒し、強くなる、あんたは魔物を倒し、悪を浄化したい。この国は魔物を倒し、魔石の資源で国民に快適な生活を与えたい。
魔物を倒していくという手段は同じだ。
今更敵対した貴族の息のかかったクランと組むことはない。あんたのサポート能力は判らないが、それはギルドトップの保証付きだ」
「・・・」
「わかった。二つ目を選択する。あんたにサポートをお願いする」
『あんたではなく、私はユキです。』
これが俺のパートナーになるユキとの出会いだ。
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