第7話 含沙射影 がんしゃせきえい

 含沙射影 がんしゃせきえい

 陰険な方法で人を害すること



 翌日、俺は授業のあと、実技教師に学校の競技場に呼び出された。

 競技場には実技の教師と、ダンジョン指導の教師がいた。

 たしか二人ともCランクの冒険者だ。それに昨日の女回復術師もいた。観客席にはカーズや、そのチーム、その他五年生を中心に学生が集まっていた。

 俺がカーズに目をやると、奴はあわてて目を伏せた。教師は観客席に聞かせる為か、大きな声で言った。


『君の覚醒を心から祝福するよ。交流戦の動きはなかなかだったね。覚醒したのなら先生に報告しなければダメじゃないか。そのことは授業で説明したよね』


『君以外は皆そうしているんだよ。本当に君は授業をきいていないのだね。日々先生の指導に従い学校の授業をまじめに聞いて、協調している学生が、先生の言うことを聞かず、授業を理解せず、他の学生とも交わらない底辺の学生の卑劣な手によって汚される・・・』


『これはおかしくないか?先生の言うことを聞き、努力したものが報われ、なにもしない者は退場する、学校はそういうとこなんだよ。君みたいな学生が首席なんて、この学校の存在意義が揺らぐんだよ』


『そんな子がCランク?バカ言ってんじゃない。Cランクは郊外の出自も判らない半端ものが集う下位ギルドという底辺から、代々神の教えに忠実な血統の者が、仲間を募り、互いに助け合い、努力を怠らなかった結果で辿り着けるランクなんだよ。ようやく中央区の上位のギルドに行けるランクなんだよ。悪いようにはしない。今から首席を辞退して、ミスリスインゴットを先生に渡してくれる約束をしてくれないかな。後のことはこちらで全て手続きしておくよ』


 呼び出されてからこういうことだろうとは思っていた。Cランク3対俺1か。こいつらはカーズたちを褒めたたえ、ゲンジの窮地を助けることもせず、ゲンジに軽蔑の目を向け、直接加わらなかったが授業という名のもとに生徒をゲンジにけしかけ、半殺しになるまで止めもしなかった輩達だ。


「断る」


『これだから底辺の平民は協調や礼儀をしらない。先生に対しその口の利き方はなんだね。断るとしても“お断りします”だろうが』


「断る」


『先生の言うこともきけない子だね。そんな子が首席?そんなことは許せないんだよ。けど、一生解り合えないのだろう、そういう時はどうする、冒険者は決闘で決着をつけるんだよ』


『同じCランク同志、まさか逃げたりしないよね。さあ、審判はこの同じくCランクの彼女がやってくれる。殺しはしない。けど半殺しにはなるかもね。昨日僕の生徒の腕とか足を切り飛ばしていたしね』


『心配いらない。すぐ回復してくれるからね。昨日もそうだったろう。決闘にこちらが勝てば、首席辞退、Cランク辞退、ミスリルインゴットの先生への譲渡の約束をお願いするよ。こっちが負ければ何でもいいですよ。君の要求を聞きましょう』


「決闘を受ける。俺が負ければそれでいい。俺が勝てばそっちの命以外全部だ」


『決闘を受けましょう。では中央へ』


『待ちな。人数確認がまだだ』

 女回復士が言った。


『既に彼は受けましたよ。人数確認せずに』


『あんたら学生一人に教師二人掛かりかい、この子は昨日イベントで勝ってCランクになったばかりだ。それを貴様ら教師二人でなんて許せない』


『すまんね。人数確認せずに受けたその子が悪いんですよ。授業をきいていないからこうなるんですよ。これは授業を聞かない子への指導の意味もあるんですよ』


『くずだな』


『違いますよ、ルール通りの手続きですよ、平民上がりの回復士さん』


 回復士は俺をジッと見る。俺が動じないのをみて言った。


『ルールは判るな。参ったと言えば終わりだ』


 回復士は下がった。


『始め!』


“縮地”

 一人が剣を振りかぶり突っ込んできた。とっさに跳び下がり剣を出す。

“ファイヤーウォール”

 俺の左右と後ろに火の壁ができた。

 二人ともニヤニヤしながら俺をみている。

 前衛の踏み込みは中々のものだった。魔法のやつ、この距離で安定した火の造形が維持できている。魔法とやらは奥が深い。


『もう逃げ道はありませんよ。みんな、よく見ていなさい。退路を断つ。基本です。授業を聞いていない君にはわからない・・・・』


 なに戦闘中喋ってるんだ。前衛の奴は俺の間合いの中だぞ。剣を捨て薙刀を奴らの死角から出し、前衛の脛を切り落とす。

 体制が崩れたところを魔法の方に蹴り飛ばす。蹴り飛ばした奴の影に入りながら俺も飛び出す。

 魔法の奴が前衛を避けられず一緒に吹っ飛び倒れた。前衛は気を失っている。薙刀の刃を魔法の方の首に当てた。


『ま、参った』


 呆然としたアホ顔を見て引いた。こいつら闘技場の試合見てなかったのか、見てたら俺に近接で勝てると思わないだろうが、退路たっても意味ないだろうが、ボックスから鎖鎌出したのを見てれば俺の間合いが読めないのわかるだろうが、少なくとも戦闘中に喋らないだろうか、そもそもなんで技の名前最初に言ってんだ。

 俺は振り返り、回復士の方に向かう。


“・・・・ファイヤーアロー”


『後ろ!』


 女回復士が叫んだ。

 振り向かず横に体をズラすと矢の形をした火が通り抜けて行った。魔法野郎に振り返ると、震える手で木の棒を持ち、俺の方を指していた。


“ファイヤ・・・・”


 鎖鎌に持ち替え鎌を奴の右足首に引っ掛け、切り落とした。なんで技の名を言う。気づかれるだろうが。回復士は二人に駆け寄る。俺はシンと静まる会場を背に競技場を後にした。


 回復士は俺の家に奴らから回収したものを届けてくれた。

 あの場で奴らのボックスに入っているものも全てはき出させ、防具や武器や服まで剥ぎ、真っ裸にしてから回復したようだ。

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