第7話
「イッチさん、ご飯持ってきましたよ」
「おお、ありがとうオレシ」
奴隷の監視から情報を聞き出した俺は、他の奴隷ともコンタクトを取ってみた
しかし、殆ど瞳に光が灯っておらず。皆死んだように自分の仕事をこなしているだけだった
そんな中、このイッチさんと他数名は何とか会話が可能な状態であり。同じ奴隷同士、自然と仲が深まっていったと言うわけだ
「しっかし、お前さんも中々やるねぇ…監視官に気に入られるなんて」
「いやいや、それ程でも…少し媚びを売っただけですよ」
「だがそのお陰で労働が1時間減ったから、感謝してもしきれないよ」
そう、俺は情報を聞き出すついでにこのブラック企業も素足で逃げ出すような労働時間を改善出来ないか交渉していたのだ
俺の必死の肩もみや靴ぺろぺろの努力が実ったのか、何とか1時間だけ減らして貰えた
俺実は有能なのでは?
「…だが、皆は相変わらず目が死んでるようでなぁ」
「…そうですね」
「皆、生きることを諦めちまってるんだ…気持ちは分かる。奴隷は買われるまでも地獄だが、買われてもろくな目にあわないからな」
「…」
「たまに逃げ出そうとする奴もいるが、生きてここを出た奴なんていない…ゴウダンの手下でここは埋め尽くされてるしな」
「そんな…」
一筋縄じゃいかないと思っていたが、想像より更にヤバそうな雰囲気がする
「俺たちはここで一生過ごすか、買われて地獄を味わって死ぬかのどちらかしかないんだ」
そう語るイッチさんは、何処か諦めたような表情をしていた
「…させない」
「ん?何がだ?」
「…俺が、そんな死に方はさせない…ここにいる誰一人として」
俺はそんな使命感に駆られていた
なぜかは分からないが…人を救えと頭の中でそう誰かが命令しているような気がした
…
…
俺が奴隷になって2週間が経つ
ボスがここに来る日まで、残り2週間と言った所か
「ヨンゴさん、他の奴隷たちはどうです?」
「呼びかけてはいるが…ちと厳しいかのう…」
このおじいちゃんはヨンゴさん、奴隷達の中で1番の年長者でありリーダー的存在でもある
俺は脱出方法を考えた結果、ゴウダンとその手下達に皆で反乱を起こすことに決めた
やはり、どの時代も数で押し切れば何とかなるというあやふやガバガバ理論で導き出した答え
そのためには…ここにいる全員で立ち上がらなければならない
「ここにいる奴隷達の人数は確か100人ですよね?」
「そうじゃ、その殆どがお主よりずっと若い者じゃ」
…ほぼ子供しか居ないという事か
子供は労働にも不向きで、性奴隷も余程の変態じゃなければ買われることは無い
だからここで成長するまで過酷な労働をさせられているらしい
…胸糞な話だ
「…お主は反乱を起こすと言っておったが、子供が何人も集まった所で無駄死にさせるだけと思うがの」
そう…それが問題だ
全員が子供じゃないにしても、半数が年齢1桁、または10代前半の子供達なら反乱を起こしてもヨンゴさんの言った通り無駄死にさせて失敗に終わるだろう
俺はこの場にいる奴隷達全員を助けたいんだ、誰一人死なせずに…生きてここを脱出させてみせる
「…どうする俺」
意気込んでみたものの…いくら考えても答えは出ない、必死に捻りだそうと頑張ってはいるのだが…
やはり猿並みの知能じゃ奴隷達を逃がすなんてことできないのか?
「そう気落ちしなさんな、オレシよ」
「ヨンゴさん…」
「みんなを助けたいと思うその気持ちだけでも、大変素晴らしい事なのじゃよ?普通であれば自分の事で手一杯だと言うのに…」
「そう…でしょうか」
「そうじゃ、それにお主は労働時間を1時間も減らしてくれた…それがどんなに凄いことか、皆心の底ではお主に感謝しておる」
ヨンゴさんは優しく俺の肩に手を乗せ、微笑んだ
「…こんな絶望的な状況じゃが、きっと救いはあるはずじゃ。だが、それをお主が背負わなくてもいい…お主は既に十二分にようやってくれた」
「…はい」
ああ、せめて俺がもっと強ければ…ラノベのような最強の主人公であれば、この状況を変えることが…出来たかもしれないのに
俺は自分の無力さと、この世の理不尽な現実に…嫌気がさしていた
…
…
「はぁ…」
ヨンゴさんに慰められてから2日が経った
「俺は何も出来ずに、このままここで朽ち果てるのだろうか」
それとも、客に買われて過労死してしまうのか…?
「はぁ…人1人救えず、死んじゃうのかぁ…」
やだなぁ…女性を助けるつもりが逆に捕まって死ぬとか恥ずかしすぎる
「でも馬鹿で無力な俺には何も出来ないし…もうやだ!やだやだやだやだやだ!うえぇん!!」
「うるさいですよ、独り言を言うのは勝手ですがもう少し静かにしてください」
「すみません」
隣の生気が抜け落ちてる女性に睨まれ、少しチビる
「…」
いずれは、この人も客に買われるのだろうか
隣の女性は、今は生気が抜け落ちてるせいか少し痩せて見えるが…地球にいた頃と比べても類を見ないぐらい綺麗であった
黄金色に輝く髪色に、光がなくとも綺麗だと思わせる透き通った青色の瞳…顔立ちも何処かのお嬢様ですかってくらい整ってる
「…」
「…なんですか、こっちをじっと見てきて…まさか私に欲情でもしましたか?」
「ぶっ…い、いやそんなんじゃ!き、綺麗だなーと思ってただけですよ!」
ジト目でこっちをしばらく見ていたが、どうでも良くなったのか再び作業に戻った
「…集中出来ないので、見つめるのはやめてください」
「は、はい…すみません」
「もし私を襲いたいと言うのならご勝手に…うじうじ見られる方が嫌ですから」
「だ、だから違…というかもっと自分の体を大切にした方が…」
大体簡単に襲っていいなんて言ったらダメだろう!男はみんな獣とはウチのお婆ちゃんの言葉だ
なお、お婆ちゃんとお爺ちゃんの馴れ初めを聞いたらお婆ちゃんがお爺ちゃんを襲ったからと聞いた時からあまり説得力はないが
「…自分の体を大切に?ふふ…今更でしょう…遅かれ早かれ…私は客に買われ、襲われるよりもっと酷いことをされるでしょうから」
「…それ…は」
そんな結末なんて、あまりにも…
「…おかしな人ですね、何故あなたがそんな辛そうな顔をするんですか。あなたには関係無いこと」
「…俺があの時、助ける事ができてたら」
「まだ言ってたんですか?気にするなと言ったはずですが、あれは…私の失敗によるものです。あなたがこんな目にあってるのも全て私のせいで…」
「…それは、違うっ」
「…!」
「俺、力も弱いし…頭も悪いし…何も取り柄なんて無いですけどっ…!あなたを助けようとした事に関しては後悔なんてしてない!」
目の前の女性は驚いたように目を見開く
「あなたのせいだなんて、1度も思った事がない…俺は俺のためにあなたを助けたんだ」
「なんで…どうしてあなたはそこまで…」
「…さぁ、なんででしょうか?俺もよく分かってないんですよね」
「…なんですか、それ」
「でも、きっと…」
俺はネルギアンさんに助けられた事を思い出す
「憧れ、だったのかもしません…俺を助けてくれた…たった1人の家族のように、俺と同じような理不尽な運命を強いられた人を…助けたかった」
だけど、俺はネルギアンさんみたいに…強くはなかった…天と地の差があるんだ
「…知ってた、はずなのにな」
俺なんかが、おこがましい事に憧れを抱いたものだ
「…あなたは、変な人ですね」
「…ですよね」
とうとう隣の女性からも変人認定を貰った、泣きそう
「アニラ」
「え?」
「私の名前です、まだ名乗ってませんでしたよね?」
「あ、ああ…よ、よろしくです…アニラさん」
「ええ、よろしくお願いします。それで、あなたの名は?」
「俺は…オレシです」
「そうですか、これから…いつまで会話を交わすことが出来るか分かりませんが。それまでは…仲良くしましょう」
アニラさんは手を俺の方へ向ける
「…はい」
俺も手を前に出し、お互いに握手を交わした
「…ありがとうございます。私を助けようとしてくれて」
「…!」
「結果はどうあれ…嬉しかったです」
相変わらずアニラさんの瞳には光が灯ってはいなかった…だが、初めて…小さく微笑んでいた
「…はぃ…ぐすっ…はい…!」
いつの間にか、俺は泣いていた。何故かは分からない
でも、心の奥底から…暖かい何かが溢れ出した
「…ふふ、お礼を言われたぐらいで泣くなんて…そんなに嬉しかったんですか?やはりおかしな人です」
「…すみ…ませんっ」
ああ、そうだ…俺は嬉しいのか
「…俺は、何をうじうじしていた」
「オレシさん?」
この感情は忘れてはいけない…
この感情は…きっとこれから俺の支えとなり得るもの
だから、この大切なものをくれたアニラさんを失ってはいけない
そう、例え…俺がどうなってもだ
ザー…
俺が…どうなっても
…ザザ
アニラさんを守るんだ
ザー…ザー…ザ
その思いに…全てを支配された
カチャ
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