第6話
「…なんだ、お前」
俺は目の前の光景を信じられなかった
「…」
さっきまでへっぴり腰で俺の攻撃を一方的に受け続けていた馬鹿な男が…
俺の全力の一振を片手で受け止めていた
「ぐっ…剣が…!動かねぇ!」
どんなに力を入れても…こいつの手から引き剥がすことができない!
「ちっ、なんなんだよお前は!」
「…」
やばい、俺の直感がそう言っている
こいつの目は、俺たちと同じ…人を殺すのになんの抵抗もない人間の目をしている
自分が生き残るためなら…同じ仲間すら殺す
そんな目をしている
「…くっ」
殺される…!こいつに…!
まるで巨大な蛇の魔物に睨まれたような、死の恐怖が一気に身体中を支配した
「えい」
…へ?
「…!かはっ…」
そんな事を思っていたらいつの間にか後ろに移動していた部下の棍棒がそいつの頭にヒットしていた
「…な」
普通に気絶した…
「ボス…大丈夫ですかい?」
「あ、え…あ、ああ大丈夫だ…」
ボスの俺がビビっていたと悟られては不味いので、とりあえず平気そうな顔をしたが…
…え?あんなにヤバそうな雰囲気してたのに後ろから殴られたぐらいで気絶しやがったぞ
というかまず気づけよ
「ぼ、ボスどうしたんですか?そんな何とも形容しがたい間抜け面して…」
「いや…なんでもない、というかお前失礼だな」
「あ、すみませんつい」
「…まぁいい、こいつも売るぞ」
「…はい?こいつもですかい?」
「…ああ、こいつは何かやべぇ」
こういう奴は金が有り余ってる物好きな奴には売れるだろう
「さっさとずらかるぞ、この森には長居したくないんだろ?」
「「は、はい!」」
「…んー…」
こうして、私を助けに来てくれた青年は…よく分からないまま同じように捕まってしまいました
「…はぁ」
やっぱり失敗ばかりだな…私
…
…
2日後
「おらぁ!働け!」
「あひぃ?!」
どういうわけか、縛られていた女性を助けようと思ったら奴隷になってました
「はぁ…はぁ…!」
「おら!女だからって怠けてんじゃねぇぞ!」
「…くっ…」
あの時の女性も俺と同じように奴隷になったようだ
正直気まずい、助けられない所か同じ奴隷になって隣で作業しているのだ
せめて離れた場所で作業させてください、たまにこちらを見てため息つかれるの凄い精神的にくるんです
「よーし、10分休憩だ!10分後にまた持ち場に戻れよクソ奴隷ども!」
ふぅ…8時間労働の後の10分休憩はありがたいね
…休憩したら再び5時間労働だけど
「…このままじゃ過労死してしまう」
飯もダイヤモンド並に硬いパンに、残飯みたいなスープ少々。それを1日1食…俺らは少食な小動物か!
俺追放されてからろくな目にあってない気がする
「…」
隣では目の光がフェードアウトしている女性が細々と汗を拭っていた
「…あ、あの…」
流石に気まずすぎるので、出来るだけ柔らかい表情で話しかける
「…なんでしょうか」
「…その、すみません…助ける事ができなくて」
「…いいですよ、元はと言えば全部私が悪いのですから」
無表情を通り越して完全なる無の女性はそう言った
「それに、謝るべきなのは私でしょう。あなたを巻き込んでしまった」
「い、いえ…それは俺が自分でやったことですし」
ネルギアンさんの忠告を振り切り、無理やり来てしまったのだ
…ネルギアンさん、最後怒ってたな
「…」
「…」
再び静寂が訪れる
「…はぁ」
あの時、ネルギアンさんの言うことを聞いておけば…こんな事にはならなかったのだろうか
どうせ…何も出来ないのなら
「…いや、違うだろオレシ」
それではあの銀髪女のように腐るだけだ、例え無力でも…守れなかったとしても
俺は、困っている人を見捨てない…見捨ててはいけないんだ
「…でも、ネルギアンさんには謝らないと」
この世界でたった1匹の家族に嫌いと言ってしまった事を…無理やり助けに行ってしまった事を
ネルギアンさんなら…きっと許してくれるだろう
家族じゃないと言っていたネルギアンさんだけど、何となくそう思えるんだ
「おーし、10分休憩終わりだ!持ち場に戻れ!」
「そのためには、ここから…逃げないと」
そして、隣にいる守れなかった女性を…今度こそ助けてみせる…!
…
…
「へへ、アニキ…肩凝ってますねぇ…へへ」
「おう…奴隷どもを監視するのも苦労するぜ」
「いや〜アニキのおかげですよ本当〜」
「褒めてもなんも出ねぇよ〜がははは」
…俺が奴隷になって1週間、逃げ出す為にはどうすればいいか猿並みの知能で考えた結果
奴隷達の監視をしている奴に媚びを売ることにした
「お前は最初頭のイカれた奴かと思ったが…結構使えやつのようだな」
「へへ、そんなことないですよ〜」
何故俺と会ったやつの俺に対する最初の第一印象が揃いも揃ってイカれた奴なんだ?
別に独り言を一日中呟いたり、枕に話しかけたり棒きれに名前を付けて相棒(物理)にしてるだけではないか
うん、なんもおかしい所はないな
「アニキは奴隷達の扱いが上手いっすね〜」
「そうか?いやそうだろうな…なんせボスから直々に任されているからな」
「ボス?」
「なんだ、知らねぇのか。ゴウダン様だよ」
「ふむ?」
「本当に知らねぇのか?ゴウダン様って言ったら国中で指名手配されてる悪の中の悪だぞ」
「す、凄いですね…色々」
「だろ?ボスは色んな悪事を働いてるんだ、人攫いに奴隷を売りさばく商人に違法カジノも経営してるらしいぜ?」
「悪事のオンパレードだなぁ…」
「最高にイケてるだろ?そのボスに俺は商品になり得る奴隷達を監視する役目を命令されてる訳だ」
「凄いなぁ…」
絵に書いたような悪党でもう凄いしか言えない、俺の語彙力よ…どうか怪しまれないように捻り出してくれ
「お前とお前の隣にいる女もボスに攫われたんだろ?」
「…ボスってあいつの事だったのか」
思い返してみれば、確かにボスと言われていたような気がする
「お前は色々使えそうだし、今度ボスが来たら俺の手下にしてやるよう交渉してやるよ」
「ま、マジですか?あ、あざーす」
ここまで嬉しくない出世は初めてだよ
「ま、ダメだったら素直に売られるか魔物の餌になるこったな!がははは」
「ま…魔物の…餌…」
どちらにせよお先真っ暗じゃないか!どうせ食われるならネルギアンさんに食われたいわ!
じゃない、俺は情報が欲しいんだ…この状況を打破するような、とにかく小さな糸口でもなんでもいい
「そのボスって、いつもここに居るんですか?」
「お?お前もボスに会いたくなったか?だが残念だな、ボスは多忙の身…ここに来るのだって1ヶ月に1度だぞ」
「なるほど」
「次会えるとしても一月後って事だな」
「…それは残念です」
逃げるとしてもボスがいる日は避けた方がいいだろう
「そういや、俺たちって商品なんですよね」
「ああ、たまにボスが客を連れてくるからそん時に選ばれたらお買い上げって事だ」
「ほほう…なら買われるのはボスが来る日と同じになる可能性が高いと」
「そだな、大体は1ヶ月に1回来る時に客も連れてくることが多いな〜」
やはり期限は1ヶ月…それまでにここを脱出する方法を見つけねばならない
「へへ、その時が楽しみっすねぇ〜」
「まぁな、でも期待すんなよ?奴隷を買うやつなんて女なら性奴隷に…男なら使い捨ての労働力としか思ってないような奴ばかりだからよ」
「…了解です、アニキ」
「そうシケたツラすんなって!お前は俺が交渉してやるからな!」
「…ははは」
さて、情報はこれぐらいでいいだろう…
後はどうやって脱出するか方法を考えよう
「じゃ、俺仕事に戻りますアニキ」
「おう、またな」
俺は使いすぎた頭を休めながら、仕事場へと戻るのであった…
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