第2話
虎に慰められた俺はいつの間にか眠っていたらしく、気付けば森は朝を迎えていた
「…あの」
「…ガル」
なんだろう、凄く気まずい…もうどうせ死ぬならと羞恥の限りを晒しまくったせいだろうか
はたまた虎に慰められると言う人間としてどうなのか、となけなしのプライドがそうさせてるのかは分からない
「…言葉、伝わりますか…?」
「…ガル」
虎はコクリと頭を縦に振る
「…マジかぁ…すみません…お見苦しい所を見せて」
この世界の虎は人の言葉が理解出来るらしい、流石は異世界と言った所か
そう思うと心做しか羞恥心が芽生えてくる。なんせ地球では目立たず、騒がず、平和に暮らしていたと自称しているし
べ、別に陰キャじゃないからな!
…誰に言い訳してんだ俺は
「その、俺この世界に来たばかりで…何も分からないんですけど。と、とりあえず森の出口を探してるんです」
「…ガル?」
この世界に来たばかりとは?と疑問に思ってるような気がする
「あ、ええと…転移というか…追放というか、前の世界から何故か追放されちゃいましてね?酷いっすよねぇ…本当」
「ガル」
それは災難だったな、と言ってる気がする
「うう…貴方だけですよ…そう言ってくれるのは!よく分からない銀髪女は俺を馬鹿にして追放するし!母さんと妹は影で嫌ってるし!ちくしょ…!」
「ガルガル」
よしよしと前足で頭を撫でられる俺氏
やだ、この虎優しい…
「すみません…寝床まで貸してもらって、こんな愚痴にまで付き合わせて…ぐすり…」
「ガル」
気にするな、と言ってる気がする
なんか俺、虎語マスター出来そう
「それで…森の出口は…」
「ガルガル」
それは私も知らない…らしい
「そうですか…はは…森からも出れず。俺、このまま何も知らない世界で1人、死んで行くんですかね」
もうどうでもよくなってきたな、横にあるエクスカリバーもしなしなと元気なさそうに曲がっている
…お前は別に気落ちしなくてもいいだろう
「…」
虎はしばらく考える素振りを見せると、俺の肩に再び前足を乗せる
「ガルガルガ」
「なんと…!」
虎はこう言った、しばらくはここに住まないか…と
私の事は家族と思ってくれ…と
「…貴方が天使でしたか」
もう虎なんて呼び捨てにできねぇよこんなの
虎様だよ虎様、ガチの聖人じゃないか…人じゃないけど…
うーん…聖虎?
「いいんですか…?」
「ガル」
うむ、と言ってる
「…うっ…ぐす…ありがとう…ありがとうございます…」
こうして、俺は人間でも滅多にいない凄く優しい心の持ち主である虎と家族になりました
…
…
そこから次の日
「ひゃっほー!!!」
俺は全裸で森を駆け抜けていた
「自然と一体化気持ちいい!!」
俺氏は 変人から 変質者へと 進化した!
「ガルガル!」
おい待て、森は危険だから油断するな!…と後ろから追いかけてくるネルギアンさんが言っているが。この開放感を味わった俺氏は誰にも止められない
ついでにネルギアンとは虎の名前だ。家族になるから特別に教えてやると言ってくれた
虎にも名前ってあるんですね
「ひゃっふー!気分が高揚してくるな!」
言うことがナチュラルに変態である
「ブオオオ!」
「?!」
だが、全裸で森を駆け抜けていると…目の前からイノシシが現れた
いや…厳密に言うとイノシシを5倍程デカくした化け物だった
「ひっ…」
流石の変態も、すぐさま死の気配を感じた
「た、たすけ…!」
ちょ、調子に乗りすぎた…!でもこんな化け物いるとは思わないじゃん!
それに皆も全裸になるとテンション上がるでしょ?
え?俺だけ?
「…ブオオオ!」
化け物イノシシは地面を蹴りながら、俺へと飛ぶように走り出す
「んぎゃああ!来たァァ!」
こ、今度こそ死ぬ…!
「ガルガル!!」
その時、だから言ったろう…とネルギアンさんがイノシシに噛みつき、投げ飛ばした
「ね、ネルギアンさん!」
「…ガルガ…Л>ⅹз!」
「ブォン?!」
…なんだ…?今ネルギアンさんはなんて言った…?
殆どネルギアンさんの言ってることは理解出来てたけど…今の言葉は理解出来なかった
「って…それより…化け物イノシシが燃えて…る」
いつの間にか化け物イノシシ君は静かに丸焼きと早変わりしていた
「…もしかして」
魔法…なのか?
「ここ…異世界だもん…な…」
いきなり自分を燃やして食料にしてください、と自己犠牲の化身みたいな奴でなければ…やはりあれはネルギアンさんがした事なのだろう
「ガル」
世話が焼ける家族だ…と呆れた表情で俺を見るネルギアンさん
「す、すみません…全裸でテンション上がってしまって…」
「…ガル」
私は上着を脱げと言ったが、全裸になれとは言ってないぞ…
「え…そうでしたっけ…?」
「ガル」
変態め…と少し蔑んだ表情に変わるネルギアンさん
虎なのに表情豊かすぎる
「…い、いや…別に全裸になりたかった訳じゃ…」
「ガルガル」
ヨダレ垂らしていたのに?それも目が血走っていたぞ
「…」
言い逃れできないレベルじゃないか!
「…ガル」
まぁ今更だ、ほら…洞穴に帰るぞ…とネルギアンさんはため息をついて去っていく
「お、俺変態じゃないですからぁ!」
手遅れな言い訳が森に響いた
…
…
「…ガル」
今から家族の契りを交わす
「契り…?」
私の血をお前の体に塗る。その為に上着を脱げと言ったのだ
「なんだネルギアンさんの方が変態…」
「…ガルガル」
「すみません、謝りますから爪を肩にめり込ませないでください…俺が俺の血で染まりますから…」
「ガル」
次そんな冗談を言ったら食いちぎるぞ…と仰るネルギアンさん
…多分本気だから、気をつけよ
「…っ」
ネルギアンさんは自分の毛でふさふさな前足を少しだけ傷をつける
「…ガル」
これで…私達は今から…家族だ
「…ネルギアンさんと…家族」
俺の腹付近に血でよく分からない模様を描いた
そして…その模様は少しだけ光ると体の中に吸い込まれるように消えた
「…す、すごい」
「…どうだ?魔物の家族になった気分は」
「…まぁ、別にいつもと変わらな…え?」
今…日本語が聞こえた…ネルギアンさんの方から
「私の言っていることが分かるか?」
「…しゃ、喋ってる…虎が…日本語を…」
「…にほんご?それは知らないが…家族になった今、私の言葉は自動でお前の話す言葉に変換されているはずだ」
「な、なるほど」
家族になるってすごいなぁ…便利すぎる
「まぁ…なんだ…これからよろしく頼むぞ、家族よ」
「は、はい…!ネルギアンさん!」
本当に…なったんだ、ネルギアンさんの家族に…
「そう言えば、まだお前の名前を聞いてなかったな」
「名前…」
俺の名前は…いや、どうせ異世界に追放された身だ…ここから全て1から始めるべきでは無いだろうか
この時、この瞬間から…俺の第2の人生が始まったと思えば…少しだけ憂鬱さがなくなる気がした
「…俺氏、俺の名前は俺氏だ」
俺氏…俺の癖みたいなもの、よく頭の中で自分を表す時に使ってしまう一人称
まぁ、ネット掲示板にハマってた頃の名残なんだが。それしか思いつかないし…これでいいかな
「オレシ…?そうか…よろしくなオレシ」
少しだけイントネーションが違うが…いいか
「よろしくです、ネルギアンさん」
俺とネルギアンさんは共に握手を交わした
こうして俺の…遥か未来、世界最強の英雄と呼ばれる者の人生はこの時…始まったと言っていい
まぁ、それはまた別のお話にしよう…
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