よわよわな一般男性(?)がいつの間にか異世界で英雄になってました
叶夢
1章 理不尽な追放
第1話
「あなたは、地球を追放されました」
「は?」
いや待て、急に目の前に現れたと思ったらコイツは何を言ってんの?
「という事で、あなたには異世界に行ってもらいます。良かったですね?今流行りの異世界転移ってやつですよ」
「いやいやいや!色々おかしい!というか説明!なんで俺が地球を追放されにゃいかんのや!」
目の前のコイツ、銀髪の女はめんどくさそうに…渋々と言った様子で説明した
「ちっ、めんどくさ…はぁ…あなたは地球には必要がないと判断されたんです」
なんだコイツ態度悪いな、1発殴りたい
「な、なんでだよ!別に働いてない訳でもないし…ちゃんと社会の役には立って…」
「とにかく、あなたは要らないんですよ。地球に…」
銀髪女は、投げやりにそう言った
「くっ…んなの納得できるわけ!」
妻も彼女も居なかったが、母と妹は地球にいるんだ…家族がいるのにそう簡単に納得なんて出来ない!
「はぁ…別にあなた一人居なくなった所で誰も困りませんよ、あなたの御家族もそんなに気にしてないですし」
「は?いや…」
そんな馬鹿な、仲は良好だったぞ?喧嘩だってたまにしかしてないし
「内心、あなたの事は嫌いだったようです。喧嘩が無かったのも近寄りたく無かっただけ…かわいそ、ぷぷ」
嘘やん…母さんも香矢も…俺の事嫌ってたん?
「てか笑うなよ!さっきからムカつくんじゃい!」
「八つ当たりしないでくださいよ〜」
「ぐぅ…」
ならば…本当に俺は追放されるのか?地球から…
「それじゃ、私も暇じゃないので…追放先の異世界マジーノマジマジに転移させますよ」
「なんだその馬鹿みたいな名前の世界…」
そんな所に飛ばされるの?俺…
「せいぜい、向こうでも追放されないよう気をつけることですね。では〜」
「え、そういえば俺転移の特典とか能力とか無し?」
「追放されてんだから当たり前でしょう」
「いや!これから過ごす場所がどんな所か知らないけど、何も知らない生身の人間が生活できる場所じゃないだ…」
「さよならー」
「くそ銀髪女ーー!!!!」
こうして、俺は何も分からないまま…異世界へと転移させられたのであった
「ふぅ、やっと行った…さ、サボろ」
銀髪女は椅子に座り、お茶と煎餅を楽しみながら…仕事をサボっていた
…
…
そんなこんなで数日後
「おら!しっかり働け!奴隷ども!」
「はひぃ!」
奴隷になってました
…何故?
「サボってんじゃねぇ!」
「しゅみません!」
バシバシと背中をムチで叩かれ、ヒリヒリする
「もうヤダ…なんでこうなったんだよぉ…」
「おらぁ!その仕事が終われば次の仕事が待ってるからなぁ!」
「…このままじゃ…しぬ…」
みすぼらしい服で汗を拭い、記憶を数日前へと遡らせた…
…
…
「…ん…ここは…」
目の前には木が犇めき合うように生えていた
「…木ばかり、森…だよな」
あの銀髪女…寄りにもよってこんな森に転移させたのか?
「…もしまた会えたなら絶対1発は殴る」
自分の置かれている状況を少しづつ理解してきたのか、余計にあの銀髪女への怒りが湧いて出てくる
「何が追放だ!俺何もしてねぇよ!地球横暴すぎない?!」
何十億といる生き物の中で俺だけ当たりが強いってどういう事だよ
…言ってて悲しくなってきた
「というか母さんと妹の香矢にも嫌われてたのが地味に1番辛い」
あんなにお兄ちゃんお兄ちゃん言ってた香矢が…うっ…立ち直れなさそう
「はぁ…とりあえず…この森から脱出しないと…」
サバイバル経験など皆無な俺でも森は危険と言うのは知ってる
「…あぁもう…どっち行けばいいんだよぉ…」
もう色々感情がぐちゃぐちゃになり、泣きながら適当な方向へ進む
それから数時間後
「アオーン」
狼らしき鳴き声が遠くで聞こえる
「…夜になっちゃった」
結局森は抜けられず、真っ暗な森の中をビビり散らかしながら進む
「…ちくしょー…食べ物も見つからないし…寝床だって地面で寝る訳にもいかないし…」
不幸中の幸いか、気温はそれほど寒くないので助かる
「早く…何処か洞穴的なものを探して…夜を過ごさなきゃ」
肉食の化け物がいないとは限らない、なんせここは異世界…モンスターが居ても不思議じゃないんだ
「お、あれは…」
すっかり夜の暗さに慣れた目が捉えたのは、程よい広さの洞穴
「ついてる…!いやこの状況が既についてはいないんだけど…とにかくこれで今日の夜はなんとか過ごせるぞ…!」
後は火を焚けばとりあえずは安心だ
「この…森をさまよっている道中で手に入れたエクスカリバー改めてただの棒きれを使う時が来たな」
…ただの棒きれに名前をつけるなんて余っ程精神が参ってるのかもしれない
少し冷静になる
「さて、洞穴に失礼しまーす」
ふふ、ここが今夜の俺の寝床…だ
「ガルルルル…!」
目の前に虎がいた
しかもめちゃくちゃデカい、3mぐらいあるんちゃいますかね
え?
「…あ、あなたの寝床でしたか〜こりゃ失敬〜」
全身から汗が吹き出る
「ガルルルル…!!」
あ、ダメだこれ死んだわ。めちゃくちゃお怒りだもん
なんか牙出してヨダレ垂れてるし
「…ここまで…か…」
ようやく見つけた小さな希望である洞穴も虎(仮)の住処で、虎も絶賛俺を襲おうと臨戦態勢へと移っている
「…」
「ガルル…!」
「ああああああああぁぁぁ!!!なんなんだよちくしょおおお!!!」
「…ガル?!」
限界だった、なんかもう全てにムカついて…目の前の死に嫌気がさして俺は今まで生きてきた中で1番の大声を出していた
「おら!食うなら食えよ!クソ虎!言っとくけど美味くねぇからな!食うなら一思いに殺してから食えよ!痛かったらぶっ殺すぞ!」
鼻水と涙を撒き散らしながら、虎に叫ぶ
「だいたい!俺がなんでこんな目に合わなきゃならねぇんだよ!薄暗い森に転移されて!ずっとさまよってやっとこさ洞穴見つけたら虎だぁ?」
「…が、ガル」
目の前の虎は困惑している
「ふ、ざ、け、ん、な!銀髪女めぇぇ!」
手に持っているエクスカリバーを振り回す
「何見てんだよ!見せもんじゃねぇぞ!」
なんなら虎に八つ当たりした
「…ガル」
俺の目が確かなら虎はめちゃくちゃドン引きしてた
「うがぁぁ!こいやぁ!こうなったら戦ってやる!」
「…ガルル」
言葉を理解してか、虎が迫ってくる
「あ、すみません今のは冗談ですので近づかないでください」
さっきの大騒ぎは何処へやら、素早い動きで土下座をかます
最早ただの頭のおかしな変人である
「…ガルル」
しかし、変人の土下座は意味無く。虎は俺の目の前へとやってきた
「あわわ…すみません…さっきのは血が上ってというか…ストレスが爆発したというか…」
言葉なんて通じる訳ないのに言い訳を並べる俺氏
無様すぎる…銀髪女が見ていたら腹を抱えて笑っていただろう
「…ガル」
そんな時、虎は手…前足を俺の肩に乗せる
「え…」
「…ガル」
なんて言ったのかは分からなかった…でも多分こう言ったのだろう
ドンマイ…と
虎はとても憐れむような瞳で俺を見ていた
「…う、ぐす。うええん…」
拝啓、母上…俺は異世界に来て、虎に慰められました
色々辛い事はありますが…何とか生きてみようと思います…
追伸、小さい頃エクスカリバーと書いた棒で尻を突き刺してごめんなさい
こうして俺氏の異世界転移一日目は虎に慰められて終わったとさ
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