第177話

アクト「おい、何でここに」

「その前にタイム」



 ここでリーファからタイムが入る。



「え?本当にいつまでこの名前言ってから喋る縛りは消えるの?」

桜「じゃあ今から何も言わないけど、本当に大丈夫?リーファは追いつけるの?」

「何に?」

桜「私達のスピードに」

「……ごめん、何言ってるか本気で分かんない」


 

 てなわけで名前叫びタイムが終わった。



 いやそんな話はどうでもいいのだ。



「何やってんだ。バカなのか?」

「バカじゃないけど!!」



 アイリーンは声を張り上げる。



 その様子に周囲からの目線が突き刺さり、アイリーンは慌てた様子で口を塞ぐ。



 うーん、やっぱりこのポンコツなところが可愛くて仕方ないんだよなー。



 だが今回はヒロインだからって俺が許すと思うなよ。



「帝国はヤバいことぐらい知ってるだろう」

「当たり前でしょ。私はこれでも王よ」

「じゃあ何のつもりだ。死にに行くつもりか?」

「そんなわけは……ないけど……」



 どこか歯切れの悪い答えが返ってくる。



 だがなんとなくだが、言いたいことも分かる。



「帝国が最近異常なことは俺様も知っている」

「どうしてそれを!!」

「俺様は天才だからだ」



 と言っても、聞いただけだがな。



 どっかの邪神教から。



「まさかと思うが、私なら救えるかもとか考えてるんじゃないだろうな」

「そんなわけ……ないでしょ……」



 帝国の状態はかなり危険だったりする。



 俺が帝国に急ぐ理由は、早めに帝国にいるヒロインを見つけ王国内に入れこもうとしているからだ。



 それ程までに不安定な帝国にこれだけ俺の助けるべき人物が行くという本末転倒感。



 その上



「いいか王女。これだけは言っておく。お前に何かあれば、王国は今度こそ終わりだ」

「……」



 これは脅しでも何でもない、本当のことだ。



 王国が最強を誇る門。



 アルスにワンパンされてしまったが、あれは本当なら邪神教幹部ですら手を焼く鉄壁の城塞だ。



 向こうからは手を出せず、こちらは全力で魔法を放てるとかいうアホ能力。



 この世界は魔法により建物や食糧問題も解決出来る要素が大きい。



 つまり人命が最も重要な要素であり、その人の命を守ることに特化した城が有用でないはずがない。



 だが、あの門の力を使うには王家の血がいる。



 そして現在、この国に残された王の血はアイリーンただ一人。



 もし彼女に何かあれば



「終わるぞ」

「……」



 再度の忠告の後、アイリーンは目を背ける。



 だが、じゃあ行かないとは言い出さない雰囲気だった。



「理由を話せ」

「……どうして」

「じゃなきゃ俺様はお前の意識を奪ってでも止める」

「……何よ。案外優しいじゃない」



 吐き捨てるようにボソリと喋ったアイリーンが口を開こうとした瞬間



「あの、大丈夫ですか?」



 俺達に話しかける声。



 その落ち着くような声に、どこか感情が昂っていた俺らの心が一気に静かなものになる。



「……何でもねーよ」

「そ、そうですか?」



 声をかけたのはノア。



 今朝グレイムとして電話し、ツインテールにしてきてと頼んだ結果、本当にその銀色の髪を二つに結んでいる可愛い子ちゃんだ。



 ……ん?



 そういえば、なんで俺はわざわざツインテールなんかに?



 そんな俺の疑問に答えたのは意外にも



「……メア?」



 アイリーンの言葉によるものだった。



「……あ」



 俺は思い出すことになる。



 何故ここまでアイリーンが帝国に拘っているのか。



 その理由となる張本人の名は



「どうしてノアの妹を知ってるんです?」



 ◇◆◇◆



「あぁもう!!また反乱!!」

「ああ。東の方から、数はおよそ2000だ」

「昨日追い返したばっかりなのに!!」



 メアは苛立ちげに地団駄を踏む。



 すると、誰かに似た銀髪のツインテールが大きく躍動する。



「イラつくのも分かるが、落ち着け。お前が落ちれば今度こそ終わりだ」

「だからこうして頑張ってるんでしょ!!あぁもう!!なんでこんなことに……」



 無精髭を生やした男、レックはメアを宥める。



 だが、レックもまた暴れたい気持ちでいっぱいだった。



 というのも、現在帝国内部は荒れに荒れているかただ。



 理由は単純、女帝の死によるものだ。



 その力とカリスマ性によりトップに君臨していた彼女の死により、次の皇帝を狙う動きが各地で起きた。



 帝国軍はその猛攻から日々耐え続けるものの、限界は近付いて来ていた。



「なぁ……もういっそ、お前が皇帝になったらどうだ?」

「…………はぁ?本気で言ってるの?」



 メアは頭がおかしいんじゃないかという目線をレックへと向けた。



「お前は指揮能力もあるし、戦いにも慣れてる。それに信頼も」

「もう一度だけ言うけど」



 場が固まる。



「本気で言ってるの?」

「……」

「お姉ちゃんのこと、忘れたわけじゃないよね」

「……あぁ、すまん」



 レックは申し訳なさそうに俯く。



「……別にあなたが悪いわけじゃないでしょ。でも、私は別に帝国が好きでも何でもない。次の皇帝が決まるまでは面倒見るつもりだけど、それ以降のことは知らないから」



 メアの言葉にレックは少し笑ってしまう。



「何?喧嘩売ってるんです?全然買うけど」

「いやいや!!お前と戦えば俺が勝てるはずないだろ」

「帝国軍のくせにダッサ」

「勝てないもんは勝てないんだよ。あと、お前も一応帝国軍だろ」

「一応……ね」

「そう、一応だ。お前はさっさとこんな場所から離れた方がいい」

「何急に」



 レックは優しい目を向ける。



「いや、何でもねぇよ」

「……別にレックのことなんてどうでもいいけど。それより、本当に王国から援護は来るの?」

「ああ。丁度二日前に王国から出たらしい。あと数日もしたら到着するだろう」

「数日……それまで保つのか」

「さぁな。それを決めるのはお天道様の決めることだ」

「神様信じてるとか本当に帝国人?ま、別にいいけど」



 そんな二人の会話が区切りをついた段階で、部屋にノック音が響く。



「レックさん、メアさん、来客です」

「通してくれ」



 来客と聞き、躊躇いなく中へ入るよう伝える。



 すると、部屋の中にフードを被った人物が入る。



「それは認識阻害ですか?」



 レックは改まった言葉で尋ねる。



 それは相手への敬意の表れであった。



「ええ、その通りよ。知っての通り、正体がバレる

と色々面倒なものでね」



 その声色からおよそ女性と判断のつく人物は、ゆっくりと部屋の中にある椅子へと目をかける。



「ありがとう」



 そう言って丁寧な仕草で席に着く。



 二人は目を合わせ、向かい合うように席に着いた。



「それがあなたの占いの力ですか?」



 レックが尋ねると



「ん?違うわよ。そんなことの為に占うわけないじゃない」



 キョトンとした顔で答える女。



「……私、この人のこと苦手かも」

「おい、声が大きいだろ」



 二人は対面する相手を間違えたかと思うが



「ところで」



 直ぐにそれを後悔することになる。



「何故皇帝が生きているのに、いまだに反旗が起きているのかしら?」

「「!!!!」」



 レックが剣を抜き、メアが魔法を構える。



「失礼、私は戦闘は苦手なの。戦えば間違いなく死ぬわ」

「にしては余裕そうじゃない。それとも占いでは自分は生きて帰れると?」

「ええ、もちろん」



 殺気立つ二人に反し、優雅にテーブルの紅茶を飲む女。



「それにいいのかしら?これからの帝国の足掛かりとなる私にそんな態度を取って」

「元々いざとなったらこうするつもりだったし、手間が省けたって感じかな!!」

「悪いがこっちにも事情がある。皇帝の件含め、話してもらいますよ」



 二人の言葉は間違いなく本気だった。



 それでもやはり、女はその態度を崩さない。



「運命の神、それは気まぐれで利己的。自分が面白いと思った方向に舵を切る。例えそれが人類にとって悲劇の道であろうと」

「……はぁ?」

「運命の神、それは時に幸運を、時に運命の相手を、時に時空すらも歪ませる力を持つ」

「いい加減変な話は」

「姉が生きているとしたら?」



 瞬間、時が止まった。



「良い子ね、話を続けるわ」



 フードを被った女は語り続ける。



「私はあらゆるものの運命を探る力があるの。女帝のことも、お姉さんのこともこの力を使って知った」

「……本当なの?」

「おそらく……ね。あくまで私は運命の可能性を見るだけ。だけど、かなり高い確率であることに間違い無いわ」

「……レック、あと頼んだ」

「ちょ!!おい!!」



 そう言って、メアはどこかに走り去ってしまった。



「あいつ……」

「せっかちなお嬢さんね」

「そうだな。だが、事情を知ってる身としてはそうも言ってられないもんでな」

「仲がいいのね。羨ましいわ」



 フードを被った女は天井を見上げる。



「やっぱり行ってしまった。これでまた、彼女の好きそうな展開になったわね」

「おいおい、随分と独り言が多いな」

「あら、ごめんなさい。昔から人付き合いが苦手なの。ところでレックさん、一つお伺いしてもいいかしら」

「……なんだ」



 女はまるで今日の天気を語るかのように



「彼女が死ぬか帝国が滅びるか、どちらが良いですか?」



 運命の2択に迫るのであった。

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