告白編2

 アルスの場




「頼むカーラ」



 カーラの場合



「呪いを……解いてくれ」

「嫌じゃ」

「頼む!!」

「お主そんなキャラじゃったか?」

「俺様が頭を下げることがどんな意味を表すか分かるのか!!」



 アクトは頭を下げない。



 だが、それを無視してでも頼み込むアクト。



 その理由は至って単純。



「落ち着いて聞いてくれカーラ。このまま告白をすれば……俺様は死ぬ」

「主が落ち着け」

「俺様は至って冷静だ。これを見てくれ」

「なんじゃこれは?」



 アクトが取り出した謎のメーター。



 0〜100までの数字を飛び越え、ドクロマークが描かれた場所を針が指している。



「これは俺様の幸せメーターだ。このメーターが今、危険値を示している」

「ふむ」



 カーラはなんとなくアクトの手を握った。



 すると針は限界を越え一周し、またしてもドクロマークの上で止まる。



「今の俺様の幸せ指数は9億だ」

「ふむ」

「幸せメーターが100を超えた時、人が死ぬと言われている」

「……ふむ?」

「つまりこのままだと俺様は死んでしまう」

「……なるほど」



 既に900万回は死んでいるアクトに同情したカーラは



「分かった。代わりに条件じゃ」

「何でも言え。俺様に出来ることなら叶えてやる」

「そうじゃの……ふむ。今この場で妾に全力で愛の告白するでどうじゃ?」

「俺様に死ねと?」

「1回死ぬのも100回死ぬのも変わらんじゃろ」



 アクトは考える。



(死ぬか……死ぬ。難しい2択だな)



 だがアクトグレイスは理の分かる男。



「いいだろう。この俺様自ら素晴らしい演技を見せてやろうじゃないか」

「ほう、道化として見事に舞うと宣言するのじゃな。面白い」



 そう、今までと違い今回は偽物の告白であると分かっている。



 であれば、アクトが今から行う告白は大袈裟な演技。



 微塵も、これっぽっちも感情移入などしない、偽の告白である。



「カ、カーラ。は、話がある」

「う、うむ」



 瞬間、カーラの心を支配したのは動揺。



(な、なんじゃこの空気は)



 カーラにとって恋愛とはドラマや漫画といった創作物に近いイメージであった。



 今まで自分に寄ってきた男はカーラの美貌に惹かれた変態、もしくは吸血鬼の能力で無理矢理恋に落としたもの。



 どれもこれもが非常に退屈であり、カーラの知る恋愛とはかけ離れたものだった。



 だが今回、今までとは全く異質の何かをぶつけられる。



「なるほど、これが主の本気か……」



 侮っていた。



 まさか演技力だけでここまで自身の心を揺らせるのかと。



「ずっと、言いたかったことがあるんだ」

「なんじゃ」

「俺、君のことが好きだ」

「う、うむ」

「でも君はきっと好きなんて言われてもよく分からないだろう。君にとって人生は遊びであり、退屈を減らすものでしかないのだから」

「そうじゃ。この世界は妾のオモチャ箱。それ以上でもそれ以下でもない」

「そう、その通りだ……なんて思って欲しくない」



 アクトのいつも強張って入る表情が緩む。



「武闘大会、面白かったか?」

「ん?まぁ久しぶりに楽しかったの」

「みんなと話す時間は?」

「妾は喋ることが大好きじゃからの。嫌いではない」

「俺と賭けをした時、どうだった?」

「なんじゃさっきから。主がするべきは告白じゃろ?」

「俺は楽しかった。カーラと一緒で。カーラと、みんなと遊べて」

「……」



 なんとも言えない気持ちになった。



 確かにアクトの言う通り、カーラにとって武闘大会は間違いなく楽しいと断言出来る一日だった。



 だがその理由は何かと問われれば、分からない。



 戦ったこと?



 話したこと?



 アクトを賭けで屈服させたこと?



 分からない。



 カーラにとって楽しいという結果は求めても、何が楽しかったかは重要ではないからだ。



 もし覚えて、そして飽きてしまった時の絶望が計り知れないから。



 半永久の時を生きるカーラにとって、それは死よりも恐ろしいことだから。



「中止じゃ。この催しにはもう飽」

「待て」



 腕を掴まれた。



「気安く」

「逃げるなカーラ」

「は?妾が逃げるじゃと?」

「ああ、そうだ。逃げるな」

「……離せ」



 アクトの腕が吹き飛んだ。



 だがアクトの姿は変わらない。



 魔力が腕としての機能を果たしているからだ。



「楽しかっただろ?寂しくなかっただろ?もういいんだ。もう大丈夫なんだ。俺達がいる。だからさ」

「何を知ったような口を聞く」



 アクトの喉が潰れた。



「ガハっ……。ふぅ。終わりか?」

「ッ!!妾をバカにしてるのか!!」

「それはこっちの台詞だ」



 アクトはカーラの腕を引き、無理矢理顔を合わせる。



「まだ怖がってるのか。弱虫カーラ」

「主……何故それを……」

「……君は、自分が思ってるよりもずっと弱いんだ。必死に隠して、必死に取り繕ってもダメなんだよ。それじゃあダメなんだ」



 アクトはカーラの終わりを知っている。



 あの時の笑顔を知っている。



 だから誓った。



「君に合うのはあんな笑顔じゃない。心から楽しさで笑う笑顔なんだ」

「主、さっきから何を……」

「カーラ聞いてくれ」

「……」



 カーラはアクトの目を真っ直ぐ見る。



「絶対に俺が助ける」

「……う」

「絶対に幸せにしてみせる」

「…………」

「だからもういいんだ」

「………………でも」



 カーラは涙を流す。



「いつかみんな死ぬんじゃ……」

「死なねぇよ」



 誰も死なない。



 誰も死なない。



 何故ならこの世界には



「俺様が死なせねぇ」



 アクトグレイスがいるのだから。



 ◇◆◇◆



 アルスの場



「ちょっと待てい!!」



 どうしたというのだこの男は。



「何故契約がまだ続いている!!」



 おかしなことを呟くアクト。



 先程の会話では呪いを解いてくれという願いであり、契約が破棄されることはないのだ。



 それに呪いについても



『あ、あれは結局愛の告白じゃなかったから話は無しじゃ』



 という形で終わったのだ。



 憐れ!!アクトグレイス!!



「いやいや待て待て。もう一度カーラの場所に」



 運命とは常に悪戯なものである。



「これ以上間伸びされると耐えられないわ」

「ア、アルス……」



 嬉しさと動揺が同時に顔に現れるアクト。



「せっかく順番を譲ったのに、これ以上待たされたら嫌」

「嫌とかじゃなくてだな。俺様はまず呪いと契約を」

「アクト。話って何?」

「いやだから話は」



 ドクン



「か、体が!?」

「呪いは発動した」

「ア、アルスゥウウウウウウウウウウ!!!!」



 そして毎度同じく壁ドン的なノリをするアクト。



 だがアルスの無表情フェイスは崩れていない。



 押しが足りないのだ。



「ウギギギギ」

「まだ耐えるの?」

「お、おかしい。俺様には今、お前がラスボスに見える」

「ラスボス転生って感じね」



 リアと違い、魔法が使えず呪いを促進出来ないアルスはただ待つ。



 対してアクトも呪いに抗う。



「仕方ないわ。正気でもいいから始めましょう」

「俺様は絶対に愛の告白なんぞ」

「いいの。だからただの真実の告白でいい」

「真実?」



 不思議そうにするアクト。



 この流れは……また重い話か。



 何故この面白い展開でそんなシリアス顔が出来るのだ。



 そうだ、飛ばそう。



 時間を消し飛ばし、このシリアス空間を終わらせればいい。



 そして時は流れ



「それが本当なら……」

「ああ。だから帝国に行く。お前は手を出すな」

「アクトはいつも……」



 少し短かったな。



 もう少し飛ばそう。



 そして時は流れ



「や、やめろアルス!!親御さんが悲しむぞ!!」

「私の両親はもういないけど」

「お星様で見てんだよ!!」



 ……飛ばしすぎた。



 一体何がどうなったらアクトはアルスに押し倒されるのか。



 不思議で堪らないが、残念ながらどうあがいても時は巻き戻せない。



 この世界は一方通行、それこそが絶対のルールだ。



 だがもしかしたら、過去に遡ることもあるかもしれない。



 例えば



『このチラシ、どうして私達の姿が?』



 ククッ



 未来とは本当に面白いものである。

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