告白編1
桜の場合
「……」
「……」
二人の間を風が通り抜けた。
仁王立ちするアクト。
対して女豹のポーズで対抗する桜。
状況は混沌と化していた。
「話がある」
「何?これでも私は忙しいんだけど」
まるで何事もなかったかのように立ち上がり、ポケットから何かを取り出す。
「ほら」
桜は予定帳を見せつける。
中身は白紙。
柄が可愛くて買ったはいいが、結局使うことなく今の今まで忘れていたものであった。
「時間は取らせん。ただ、渡したいものがあるだけだ」
「そっか。遂にって感じだね」
特に理由もなくそれっぽい言葉を口ずさんだ桜。
そんな特に意味もない言葉を咀嚼し、勝手に納得をするアクト。
もう一度言おう。
状況は混沌と化していた。
「これを読め」
「……これは?」
「手紙だ」
「……」
桜はアクトからの手紙を受け取る。
その瞬間、珍しく桜は素直に顔を赤くした。
「ど、どうしたのアクト急に!?変なものでも食べた!?」
思わず素で対応する。
それ程までに桜は動揺を隠せないでいたのだ。
「いいから読め」
「う、うん」
手紙を開いた桜は目を見開く。
『俺様の大好物はハンバーグである』
「何これ?」
「告白だ」
「何の?」
「俺様の好きなものを告白した」
ドヤァと自慢げな顔をするアクト。
桜はジト目でそれを見つめた。
「何かおかしいと思ったけど、あれかな?私を怒らせたいのかな?」
「マジ!?」
若干不機嫌になった桜を見て、好感度が下がったのだと喜ぶアクト。
実際は2億から1引かれた程度なのだが、知らぬが仏というものである。
「これ、他のみんなにもするの?」
「ああ」
「やめておいたら?みんな傷つくよ」
「ウッ」
ヒロインが傷つくと言われダメージを受けるアクト。
相手に嫌われたい、だのに傷つけたくないという厄介な性格の男である。
だが愛の告白をするくらいなら同じことを繰り返すつもりのアクト。
どうにか食い止めなければ。
というか普通に告白して欲しい。
桜はどうするべきかを考える。
しかし、その必要もなさそうであった。
「な、なんだ!!」
「アクト?」
「体が……勝手に……」
ふらふらとこちらに近付いてくるアクト。
「ま、まさか!!」
ここでアクトはあの日の言葉を思い出す。
『さて、お主に呪いをかけた』
『へ?』
『先程の条件を達成しなかった場合、勝手に命令に従うものじゃ』
そう、あの時強制的につけられた呪い。
アクトとしては、契約内容に不備があった為無効になった代物……という認識であった。
が、カーラは当然それを無視。
とある協力者達と共に馬鹿みたいな魔力を消費し、アクトを自律的に動く人形へと変貌させていた。
「アクト?」
「に、逃げろ桜」
異変に気付いた桜。
瞬時に今の状況がアクトにとって予想してないものだと判断する。
そして大体アクトが失敗する時というのは
「私達にとって嬉しい時!!」
桜は笑顔でアクトへと近付く。
「何故!?」
やはりアクト。
ヒロインに嫌われようとすれば全て裏目に出る男。
「グギギギギッ!!」
アクトは必死に抵抗しようとする。
かなり高レベルとなり、魔力すらも覚醒しつつあり、こと戦闘能力に関してはヒロインに負けずとも劣らない領域にまで踏み込んでいる。
だが
「クソ!!無理だ!!」
相手が悪過ぎた。
邪神教幹部の中でも頭ひとつ抜けた強さを誇るカーラの呪い。
それを弾くにはまだまだ力不足なのだ。
「ルシフェル!!ヘルプ!!」
アクトは自分が最も信頼する相手を呼ぶ。
闇魔法に関する技術では間違いなく右に出るものがいない
きっとこの呪いも直ぐに解呪してくれるだろうと思えた。
しかし
「ルシフェル?」
返事がない。
「お、おーい、ルシフェルさんやーい」
もう一度呼んでみる。
やはり返事はない。
どうやらしかば
「あ?」
おっと。
好きな人?に関しては本当に冗談が通じない男である。
それにしても私の声を認識できるようになる辺り、そろそろ彼……アクトの性質も大分こちら側に染まってきたようである。
まぁそれはそれとし
「ま、待て桜。何かが俺達を見てる!!危険な奴かもしれん。一旦休戦と」
「ダメ」
「近いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
ほぼゼロ距離にまで迫った二人。
そして遂に
「桜」
「はい」
アクトの意識が完全に闇魔法に持っていかれる。
今のアクトの頭には告白以外の存在が全て消え去っていた。
「好きだ」
「……はい」
「みんなを笑顔にさせようと、ふざけてみたり、声をかけてみたり、楽しいことをしようと誘ったり、君がいるだけで周りの人みんなが笑顔になる」
「そうかな?そうだと……嬉しいな」
「君はみんなを幸せにしてくれる。だから恩返しというわけじゃないけど」
アクトは桜の手を取る。
「俺が君を幸せにしたい」
「……」
「どうか俺の隣でずっと、笑っていてくれますか?」
「……うん。約束する。だから、ずっと、ずっと私の横にいてね」
「ああ。約束する」
涙を流す桜。
それでも笑っていた。
アクトもまた笑っていた。
その後、魔法が切れた二人がどうなったかは想像に難くない。
少なくとも桜は幸せそうだった。
それならば問題ない。
そうだろう?アクト。
「……」
返事はない。
どうやらただの屍のようだ。
◇◆◇◆
リアの場合
「お兄様?」
「フゥ〜、フゥ〜」
息を荒げるアクト。
契約を結んでいる為、逃げずに告白をしなければならない。
だが、桜の件もあり対策を練る必要があった。
呪いの解除をする為エリカの場所に向かったが、どうやら彼女は留守のようだった。
同じくルシフェルも見つからず、仕方なく既存の方法で闇魔法を消去することにした。
そもそも回復=聖女(光魔法)のイメージが強いが、他の魔法でも回復魔法は可能だったりする。
人の生命力である魔力。
それらを相手の体に馴染ませるように流すことで、傷を防ぐことが出来る。
と言ってもエリカのように骨折や病を瞬時に治すなんて芸当は不可能だが、それでも十分な効果がある。
それは呪いであろうと同じであり、人の体を犯す毒に魔力を馴染ませ、無効化する行為は古くからの闇魔法に対する心得の一つである。
そんなわけでアクトは家の者を使って呪いを解除し、プラスアルファとしてその他の闇魔法に対するあれこれを仕込んできた。
これならば何の憂いもない。
「大丈夫だ。きっと大丈夫な」
はず……なんて言葉で今まで成功した試しがない男である。
「リア、話がある」
「なんでしょうか?」
可愛らしく首を傾げるリアだが、実のところこの娘、全てを知るものである。
「大事な……お話なんでしょうか」
「あ、ああ」
まるで何も知らない生娘のような顔で、よくもいけしゃあしゃあと嘘が出るものである。
罪悪感が込み上げてくるアクトだが、それでも突き進むしかないと前に出る。
事前に用意していた女の子の着替えを覗くという下劣極まれない趣味を暴露しようとしたところ
「アガッ!!」
「お兄様?」
まるで何かに堰き止められるかのように顎が動かなくなるアクト。
それを心配そうに……いや、少し笑顔が漏れてしまっているリアが見つめる。
「どういう……ことだ……呪いは……解いたはず……」
「お兄様!!大丈夫ですか!!(最早隠す気のない笑顔)」
そう、この女、事前にアクトが呪いを解呪することを先読みし、家のものにこう伝えてある。
『もしお兄様が呪いを解くようお願いした際には、より呪いが強力になるようにしておいて下さい』
『『『かしこまりました』』』
これが人望の差である。
哀れ、アクトグレイス。
本当に面白い人間である。
「リ……ア……」
「はい」
「俺は……君のことを……」
「はい!!」
「あい……」
「愛!!!!」
「あいし……」
「愛し!!!!!!!」
「あ……ぐ……」
「クッ!!まだ抗いますか!!」
抵抗するアクト。
それを信じられない程憎たらしそうに睨むリア。
おかしいな。
桜の時はもっと穏やかだったはず。
これは本当に愛の告白するシーンなのだろうか?
「まだ……耐えられる……このままもう一度解呪しに」
「まずい!!」
遂に声を漏らしたリア。
「逃がしません!!」
「リア……まさかお前!!」
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
リアはありったけの魔力を流し、呪いを活性化させる。
必死に抑え込むアクトであったが、抵抗虚しく
「きゃ♡」
「リア」
リアを抱くように寄せるアクト。
「愛してる」
「私もです」
「ただ一つだけ……言わせて欲しい」
「何でしょう?結婚式は親しい方達だけをお呼びする予定ですが」
「実はだな」
アクトは困った様子で
「夜這いするのだけは本当にやめてくれない?」
「嫌です」
そんなこんなでアクトはまたしても失敗する。
アクトは地面で涙を流し、その胸の上で愛おしそうの抱きつくリア。
みんなが幸せそうで何よりであった。
おしまいおしま
「あ」
ん?
「何してるの?」
こちらを向くリアの顔はどこかいつもと違い、幼げな表情……というか、まぁアンである。
何故急に顔を出したのか。
その理由の一端は、後の人物の為に取っておくことになるだろう。
というわけでアン、今は忙しいから遊ぶのはまた今度。
「はーい」
あいつの言っていた通り、本当に妹という生き物は大変なものである。
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