第175話

「アクト。そうやって画面を見続けると目に悪いぞ」

「……分かってる」



 だけど



「この人選は……マジでなんなんだ」



 案の定というか、見知った名前もある。



 ・アクト グレイス



 ・桃井 桜



 ・リーファ



 ・アルス ノート



 まぁ……分かる。



 桜が連絡していたのは知っているし、戦力として見るのならアルスがいるのもまぁ……分かる。



 だがだ。



 だがなんで



「テメェがいるんだよ!!」



 ・サムだよ〜ん。アクト様見ってる〜?



「殺そっかな?」



 何故お前が……しかも何を学生みたいな面下げていやがる。



「あぁクソ!!あいつはどこまで把握してやがる」



 ・ノア ロングレス



 明らかに俺への当てつけかのような人選。



 マジでイライラさせてくるなぁ。



 しかも、しかもだ。



「もう助けてくれぇ〜」



 ・ハル ヴィーアル



 何を隠そう、彼女こそ邪神教幹部であり、俺の愛しいメインヒロインである。



「もうダメだぁ〜」



 俺は力無く後ろに倒れる。



 横になってゲームをしていたルシフェルの上に乗っかり



「グヘっ」



 と変な声を出したルシフェルによって多少元気が戻った。



 後ろから飛んでくる罵声を無視しながら起き上がり、もう一度リストを確認する。



「一応……ちゃんと活躍したメンバーもいるんだな」



 ・キナコ ネメ



 ・ネイト シュタン



 ・サース ノウス



 ・アギト アグール



 キナコはご存知の通り、ネイトとサースはユーリに一矢報いた二人。



 俺の記憶が正しければネイトはかなりの魔力量で火力がある。



 サースはペンドラゴ家を目指していると言っていた指示が得意そうなタイプ。



 アギトはソフィアと一騎打ちした臆病そうだが、やる時はやる雰囲気の男……



「だったはず!!」



 正直ヒロイン以外の情報を頭に入れるのは苦手だ。



 こうして関連付けてならまだ多少いけるが、時間が経てばその記憶も怪しくなってくると思う。



 どちらにせよ



「この面子で挑むってことか」



 ちなみにだが、ユーリ、リア、ソフィアに関しては忙し過ぎて国から出ることは叶わない。



 だからこそ暇ーず(新メンバー:アルス)が選ばれたわけだ。



 一応俺も三代貴族なんだけどな。



「こうなったら、帝国に行く前に色々と準備しておくか」



 俺は部屋着のまま家を飛び出した。



 ◇◆◇◆



 最初に色々と確認すべきはサムの野郎だが



「そういえば、帝国に行くならソフィアの契約をどうにかしないと」



 あれのせいで色々と縛られることが多い。



 さすがに帝国に行けば暫く会えないのだし、仕方ないことだが



「果たしてソフィアが簡単に許してくれ」

「いいですよ」

「……」



 突然現れたソフィア。



 最早突如登場する系はヒロインのお家芸だな。



「契約は解除します。代わりに新しい条件は付けさせてもらいます」

「やっぱそうなるか」



 一筋縄ではいかないことは予想通りだ。



「とりあえず条件を聞いてから考える。なんだ」

「簡単です。私の記憶が戻るお手伝いをして下さい」

「……」



 そう来たか。



 俺が記憶を取り戻すことに消極的なことは既にバレていた。



 だから契約を使って俺に仕事をさせたいわけか。



 正直



「悩む」



 契約を緩めてもらうのは絶対条件。



 ノアの件といい、俺には帝国でやらなければいけないことが無限とある。



 じゃあ別の条件はどうかと言いたいが、金も権力もその他諸々を手に入れているソフィアへの交換材料は少ない。



 下手な情報を付けるくらいなら、記憶を戻すことに協力した方が良いのではと考えている自分がいる。



 が



「やっぱりダメだ」



 俺自身も記憶がない為分からんが、この記憶は間違いなく俺達の絆を強める爆弾。



 もうどっかの最強といい、騎士といい、ブラコンといい、桜といい、これ以上怪物を生み出すわけにはいかないのだ。



「そんなわけで他の条件だ。なんなら今後の研究にグレイス家が手を貸すことをリアに頼んでもいい」

「いえ、別にそれくらい自分で出来ます」



 まぁ……そうだね。



 ヒロイン同士が仲良くて俺は幸せだよ。



「他の条件となると難しいですね……。ではこれならどうでしょう。私の父の記憶を戻すお手伝い。これならば?」

「結局全ての記憶が戻る気配しかしない」

「我儘ですね」

「俺様は元々我儘だ」



 ソフィアは考える。



 俺も考える。



 互いに妥協点を見つけられる答え。



 今までのソフィアの全てを思い出す。



 何か、何かソフィアに与えられる物は……



「……パーティー」

「え?」

「パーティーを開く。そこに、お前を招待する。これでどうだ?」

「……まさか、あのアクトからその言葉が出るとは予想外でした」



 ソフィアは珍しく驚いた顔を見せる。



 そして少し悩み



「……良いですね」

「よし」



 契約は成立した。



「メンバーは武闘大会の方々、それとアクトのお友達を連れて来て下さい」

「俺様に友達などいないが?」

「では契約書にはアクトからの好感度が高く、向こうからの好感度も高い相手にしましょう」

「っ……ま、まぁいいだろう」



 今後出会うヒロインの好感度は絶対に上げん。



 だから大丈夫なはずだ(フラグ)。



「……楽しみです」



 契約書を書きながらソフィアはほくそ笑む。



 今の今まで人付き合いを惰性としてしか見てなかった彼女が、こんなにも積極的に……しかも楽しそうに待ち望んでいる現状。



「あれ?雨でも降ってきました?」

「あぁ……これは雨だよ」



 俺の涙によってクシャクシャになった契約書に名前を書く。



「……何故名前が違うのですか?」

「これでしか出来ないんだよ」

「偽名では効力が発揮されないのですが」

「だからこれでいいんだよ」



 俺とソフィアが魔力を込めると、契約はなされた。



 ソフィアは顎に手を当て



「なるほど」



 そう一言述べた。



「ではパーティーは来月のどこかで。予定だとかスケジュールはアクトが仕切って下さい」

「まぁ、それくらいならしてやる」



 俺はどうせ面倒なことになるんだろうなと考えながら、その場を去った。



 第一目標は達成。



 これで帝国への道が開かれた。



 てなわけで今度こそ



「サムのクソッタレに会いに行くか」



 とりあえず俺はいつもの喫茶店へと向かった。



 ◇◆◇◆



「マスター。サムはいるか」

「これはアクト様、いらっしゃいませ。いえ、サム君は今日は来てないですね」

「そうか」



 とりあえず俺はカウンター席に座り、コーヒーを頼む。



 すると何故かマスターが色々と食べ物をおすすめしてくるが、丁重にお断りした。



「あ、そうだ。アクト様観ましたよ。武闘大会凄かったですね」

「当然だ。俺様は人類の頂点に位置する存在だからな」

「その言葉も嘘じゃないかもですね」



 そんな軽い会話を続けていく。



 そして何分か経った頃



「いらっしゃいませ」



 新たな客が店に入って来た。



「この店に俺様とサム以外の人間が来るなんて珍しいな」

「フシュー」



 相変わらずの特徴的なガスマスクが特徴の男が俺の隣に席を下ろした。



「ここは邪神教ブームでも起きてんのか?」

「フシュー」

「マスター。炒飯と餃子だそうだ。バカな奴だ。喫茶店を何だと思っているんだ」

「いやここ飲食店だから!!おかしいのはアクト様の方だよ!!」



 久しぶりに料理が作れると何故か涙を流すマスターを横目に、俺は隣にいる男に語るかける。



「俺様を殺しに来たか?」

「フシュー」

「違うのか?」

「フシュー」

「そういえば、テメェにはそんな過去があったな」



 俺にとってはどうでもいいことだが、まぁ同情出来ないこともない。



 だが



「それで何故俺様に接触しに来た。理由があるはずだろ」



 邪神教幹部、ベルは暫く黙った。



 そして一言



「フシュー」

「それは本当か?」



 まさか……そんなはず……



「帝国で何が起きてやがる」

「アクト様って読心術でも持ってるんです?」



 マスターは用意した炒飯と餃子をベルの前に置いた。



「どうぞ」

「フシュー」



 ベルは目の前に置かれた料理をジッと見る。



 マスターはその顔がどんなものか気になるのか、マスクを外す時をソワソワしながら待っている。



 だが残念ながら



「フシュー」

「美味かったとさ」

「え?」



 瞬時に料理は空になっていた。



 ポカーンと口を開けるマスターの姿が少し面白かったが、今はそれよりも



「これは急いで行かないとまずいかもな」



 次回 帝国編開始

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