第174話

「……え?負けたの?」



 嘘だろ?



「き、きっと見間違いだ!!見間違いに違いない!!」



 俺は同じ画面を何度も何度も見直し、自分の目が悪くなったのだと目薬をリットル単位でぶち込んでみたが



「諦めるしかないぞ」



 まるで受験に落ちた学生のように、胸の奥からなんともいえない虚しさが込み上げてくる。



「随分と嬉しそうではないか、人間」



 そんな俺の元に来たのは、案の定カーラその人であった。



「俺様を笑いの来たのか?」

「何を言う、むしろ逆じゃ。まさかここまで心躍る結果になるとは思いもしておらんかった」

「予想通りの間違いだろ?お前は俺様が負けると思ってこの勝負を挑んだんじゃないのか?」

「主こそ何を言っておる。勝てる見込みのある賭けなんぞつまらん。妾は主が勝つと予想を立てていた」



 俺が勝つ?



 誰がどう考えたら俺があのメンバーに勝てると思えるんだ?



「それがどうじゃ。主は妾の想定以上に面白く、そして対戦相手の成長もまた、主と同等レベルであった」



 何?



 なんか褒めるカーラとか怖いんだが?



「ひょんな顔をするでない。素直に喜べ。主達はここ数十年で妾の心を最も動かした存在ぞ?」

「まぁ……そう言われると悪い気はしないが……」

「と言っても、賭けは当然続行じゃぞ?」

「騙したな!!」

「それとこれとは話が別じゃからの」



 遂に……来てしまうのか。



 確か賭けの内容は、俺が準決に進めばカーラを好きに出来る、そしてそれが無理だった場合俺が負けた相手に……ん?



「この場合どうなるんだ?」

「勿論負けた相手に愛の告白じゃ」

「いやそれは知ってるけど」



 俺の想定だと、負ける相手ってのは一人のはずだったんだ。



 勝ったら進み、負ければ失格的な。



 だけど今回は総当たり戦となり、様々な勝ち負けが生じているわけだ。



 ある意味で勝ち、ある意味で負けた。



 そんな曖昧な状態では賭けは成立しないのではないだろうか?



「そんなわけで今回の話は無かったことに」

「なるわけなかろう」



 なるわけがなかった。



「準決勝に進んだ者、そして直接戦い負けた者全てに決まってるおるじゃろ?」

「……ん?待て、それ全員じゃないか?」



 俺が白星を獲得出来た相手はリア、ユーリ、桜だ。



 そしてその内全員が準決勝へと進む。



 つまり賭けとしては本戦にいる全てのヒロインに告白をしなければならないわけだが



「それは流石に俺様を舐め過ぎじゃないか?」



 そんな後出しルールを言われて、はいそうですかとはならない。



「なんじゃ、やるのか?」

「力だけで全てを解決出来ると思うなよ、プリティーガール。人には時に命よりも大切なもんがあんだよ」

「ふむ、そうか」



 カーラは一枚の紙を取り出す。



 それは所謂契約書。



 魂さえも縛ってしまう、この世で最も恐ろしいアイテムだ。



「な、何で急にそんなもん出した」

「妾の得意な闇魔法は呪いじゃ。主も知ってるじゃろ?」

「まぁ……おい、まさか……」

「主の言葉はし〜っかりとここに記されておる」



 俺は急いで契約書を手に取る。



 そこにはカーラとの賭けの内容が書かれ、同時にあるはずのない俺の名前が載っていた。



「どうやって……俺様の魂は俺様にしか……」

「じゃから言ったろ?妾の闇魔法にかかれば口約束すら契約へと発展させられるのじゃ」

「チ、チートだろそんなもん……」



 俺は涙を流した。



 だってズルじゃん。



 俺……あんなに頑張ったのにこんな結果とかあんまりだよ……。



「はぁ」



 泣き言はここまでだ。



「分かったよ。そもそも先に契約を破ったのは俺様みたいなものだしな」

「カカっ、面白くなりそうじゃの〜」



 楽しそうに笑うカーラには申し訳ないが、実は俺は負けた時用の保険を作っている。



 答えは簡単。



(めちゃくちゃダサくて気持ちの悪い告白をすればいいんだ。そうすれば相手がドン引きして好感度が下がります、その上告白も有耶無耶に出来る!!)



「どうせ失敗するぞ」

「なんか言ったかルシフェル?」



 ◇◆◇◆



 告白の件は……もう忘れようと思う。



 俺の考えが甘かった。



 まさか……あの気持ち悪い告白であんなことになるなんて思わないじゃん!!



「はぁ〜」



 まぁいい。



 もうその件は忘れたのだ。



 それよりも今は



「よう怪物。いくらお前でも負けることがあるんだな」

「うるせぇクズ。お前如きが俺様に気安く喋りかけるな」



 口から煙を吐き出すシウスは笑いながら火元を消した。



「……単刀直入に聞く。お前は俺様に何を求めている」

「なーに大したことじゃない。ただ帝国に部隊の一員として行く。お前の力なら十分過ぎる理由だろ」

「おい、誰の許可を得て俺様に嘘を吐いている」



 軽く殺気を浴びせると、シウスの額から冷や汗が溢れる。



「お前さんどんどん人外の領域に踏み込むな。まさか本当に神にでもなろうとしてるのか?」

「さぁな」



 実際、俺はルシフェルの魔力で少しずつそっち寄りの性質になりつつある。



 実質的に半分神のユーリとペアルックと言っても過言ではないな(過言)。



「まぁ別にいいか、お前になら」



 そしてシウスは目的を語る。



「帝国が王国に対して協定を持ちかけるが、前王はそれを拒否。この時点で王国と帝国には軽い亀裂が入った」

「帝国は革命の国だ。王国とは常識が違うからな」

「そうだな。そしてどっかの誰かさんのせいで門が破壊された」

「全く誰のせいだろうな」



 俺の頭には可愛い顔をした最強さんが小さく手を振っている光景が見えた。



「そして火蓋が開いた。帝国が王国に攻めいようとし」

「邪神教の妨害によって作戦は中止した」

「帝国は甚大な被害を被り、現在他国との睨み合いが続いているわけだ」



 一旦話に区切りをつけるように、シウスはもう一度煙草に火をつけた。



「俺達はそんな帝国に支援として戦力であるエースを送り込む。そうする事で帝国とのいざこざをチャラにしようとしているわけだ」

「……本当か?」

「……面目上に決まってるだろ」



 シウスはギラついた笑みを浮かべる。



「俺の目的は帝国の吸収。王国の圧倒的な戦力を見せつけ、心を折り、帝国を王国の傘下にする。それが俺の計画だ」

「クソ外道が」

「なんとでも言え。だがこれは俺含め王国民全ての利益になる。間違ったことをしている言われはないな」

「……チッ」



 確かに間違っちゃいない。



 シウスのしようとしていることを簡単に言うと



『うっひゃ〜。王国民強いべ〜。こりゃ王国に従うのが正解だべな〜(CV帝国民)』



 とさせることだ。



 帝国を攻めるのではなく、力を見せつけ取り込む。



 強力な手駒は次々と吸収していくシウスらしい考えだが



(どうせまだ裏があるんだろ?)



 だがこれ以上奴は何も言わないだろう。



 とりあえずの情報は引き出せが



「結局、何故俺様だ。強さだけなら他にもいるだろ」

「本当にお前を選んだ理由は簡単だ。どうせお前が向こうに行けば何かが起きる。そうすれば俺達の強さをより良く宣伝出来るだろ?」

「そんな主人公みたいなことが俺様に起きるか。テメェにしては珍しく人選ミスだな」



 イベントを引き起こすのは俺じゃなくて真の仕事だろ。



 確かに傍目から見たら俺の近くで事件が起きているかのように見えるが、本来なら真が解決するものばかりなのだ。



 俺は物語を知っているからいち早く対処出来ただけに過ぎないのだ。



「はぁ〜分かった。これ以上の追求は勘弁してやる」

「そりゃありがたいことで」

「だが最後に一つ」



 俺にとって最も重要なこと。



「帝国には誰を連れて行くつもりだ」

「……決まってるだろ」



 そしてシウスはニヤリと笑い



「こいつらだ」



 そして渡されたデータを見た俺は



「……は?」



 ただただ困惑するのだった。




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 アクト告白編は別で投稿させて頂きます。

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