第170話
<sideアルス>
次の日
つまるところ武闘大会当日。
「まだ間に合う……はず」
とりあえず時間を確認する。
うん、まだ大丈夫そう。
ノアから貰った場所を頼りに学園へと向かう。
軽く飛べば直ぐに辿り着くだろう。
だけど
「やっぱりサプライズは大事」
私は今まで何度もアクトを驚かせた。
その時の彼の顔は、本当の意味でビックリしていてそれがいつしか癖になっていた。
だから今回も何かしらの形で面白おかしく登場したい。
「むぅ、どうしよ」
何か良い方法はないのだろうか?
例えばそう……
「乱入とか?」
うん、面白そう。
勝ちを確信し、アクトが余裕を出している場面で私が颯爽と現れる。
きっとアクトはいつものように呆けた顔をしながらビックリする。
ありきたりだけど、分かりやすくて派手なものはいつだって芸風に出来ると桜が言っていた。
ちなみに桜は芸人よりもアイドルになりたいそう。
リーファが芸人の方が向いてると言って、少し機嫌を損ねていたことは記憶に新しい。
桜の声……また聞きたいな。
「あ、そういえば連絡取れるわね」
携帯という手段を失念していた。
私は通話よりも直接会って話すタイプの為、意外と忘れてしまいがちだ。
今度はアクトにイタ電でもしようかな?
「とりあえず桜に連絡しよ」
電子音が鳴る。
そもそも起きてるかな?
桜って朝弱いはずだけど
「はいもしもし、どなたでしょうか?」
なんて考える暇もなく、桜の声が聞こえた。
「私」
「私!?私ってもしかして三年前に生き別れになった双子の妹のアース!?」
「そう、アースよ」
「良かったー、生きてたんだ」
いつも通り茶番劇を始める桜。
テンションが高い。
何か良いことか楽しみなことがあるに違いない。
十中八九武闘大会だけど。
「それにしても急にどうしたの?もしかして真見つかった?」
「まだよ。ただ武闘大会があるから一度帰ろうと思って」
「あ、同じー。私も今家なんだー」
向こう側からは、ドタバタと何かを急いでいる音が聞こえてくる。
確かに我が家ならではの暴れ方だ。
「じゃあそれこそどうしたの?また道迷った?」
「それも解決した」
「じゃあどうしたの?」
尋ねられた為、私は素直に
「桜の声が聞きたくなっただけ」
「きゅん!!(尊死)」
死んだ桜。
桜はよく死ぬ。
タイミングはアクトと被ることが多いのもポイントだ。
「アクトもこれにやられたか!!」
「いえ、アクトにはデレないわ」
「えぇ!?嘘でしょ!!アルス学校でどれだけアクトに引っ付いてるのか分かってる!!」
「私はアースよ」
「誰よその子!?また新しい女なの!?」
双子の妹を忘れた桜。
可哀想なアース。
「けれど、多分新しい女という点に関しては一人それっぽい人物を見つけたわ」
「え、どんな子だった!!やっぱり可愛いの?アクト面食いっぽいし」
「邪神教よ」
「おぉ……」
さすがに驚く桜。
桜は基本的にお茶らけてるけど、内心の真面目さは私の何倍も強い。
私がしっかりしていないと言われたらそれまでだけど。
「けれど邪神教っぽさが無かったわ。おそらくだけど、元々何かしらの理由で捕らえられていたとことを、アクトが邪神教として強硬手段で助け出して、今は身を隠す為に隠蔽中といったところかしら?」
「どうやってそれは分かったの?」
「勘」
「なら合ってるね!!」
見えないが、桜がサムズアップしたことは長い付き合いで分かった。
やっぱり私はそんな桜が好きだった。
「愛してるわ、桜」
「な、何今日のアルス!!私目覚めちゃうけど大丈夫!!あ、でも最近本当にそっちのけがあるんじゃないかと自分でも思ってて……」
「私は桜のこと好きだけど、何かいけないの?」
電話の向こうから何かが崩れる音が聞こえた。
「はわ、はわわ。こんなんじゃ私、アルスのこと本気で好きになっちゃうよ〜」
何故か気持ちを伝えると、頭がおかしくなってしまう桜。
よくあることなのでスルーする。
桜も悪ノリをやめて普通に話始める。
「桜の方こそ何してるの?」
「私?私は今お弁当作りナウ」
「……そういえば私、朝食べてないんだ」
意識すると急激に空腹が襲いかかる。
「えぇ!?大丈夫!?一人で買い物行ける?」
「それくらい出来る」
あの頃の私とは違う。
人を避け、人に避けられる人生はもう終わった。
私はもう、変わったのだ。
「ラーメン一つお願い」
「え!!何だって!!」
「ラーメン一」
「ヘイ!!塩ラーメン一丁!!」
「あn」
「次のお客さまどうぞぉぉおおおおおお!!」
「……」
私は店を出た。
「……桜」
「あ、今からそっち行くけど欲しいものある?」
「……桜の手作り」
「ヘイ!!承った!!」
元気な声で桜は電話を切った。
私から行けばいいと思うのだけれど、桜が電話に出ない為仕方なく待つ。
暇な時間が出来てしまった。
「リーファは……電話出れるかな?」
あの子は私以上に携帯を使わない。
料金を渋った結果、持ち歩く習慣が出来ていないのだ。
他の友達に連絡を取ろうと思ったが
「忙しい人ばかり」
私の知り合いは権力者が多過ぎる気がする。
もしかして私って……凄い?
「あ」
そんな中、連絡先をスライドしていると一人だけ暇そうな人を見つけた。
この人ならゲームばかりしている為、しっかりと持ち歩いているはず。
人……で合ってるのかは分からないけど。
まぁいいや。
「もしもし」
通話をかける。
「む、なんだ人間。我に何か用事か?」
向こうから幼い声が聞こえる。
だけど、どこか神聖で一生聞いていられるような美しい声でもある。
「いや、暇だから」
「アクトみたいなことを言い出したぞ、こいつ」
「何してるの?」
「我か?我は絶賛ゲーム中だ。アクトは昨日徹夜したせいでまだまだ起きそうにないからな」
「まさか……また無茶?」
返事が来ない。
心臓が激しく動くが、直ぐに
「まさか。ただの発作だぞ」
「……そっか」
安心する。
彼女はアクトと違って嘘はつかない。
だって、彼女以上にアクトを心配している存在はいないのだから。
その気持ちは……私達以上に。
「それにしても不思議だぞ。神の力無しに我の声や姿を認識出来る存在など、この世にアルスしか……いや、もう一人いたぞ」
「それって聖女様?」
「あれは例外。実質神様みたいなものだぞ」
「逆に君は神様じゃないみたい」
「な!!我は正真正銘神だぞ!!」
ムキーと漫画みたいに怒る。
ちょっと面白い。
アクトがいじめたくなる気持ちもよく分かる。
だけど
「さすがに分かるわよ。神様だって」
「なんだぞ急に。そんな褒めても周回プレイに付き合うくらいしかしてやらないぞ?」
確かにこうして話をすると、全くと言っていい程神様感はない。
でも
「普通じゃないでしょ?あの世界の全ての魔力を吸い続けてる存在が、普通の神なわけ」
「ちょ!!そういう大事なことをさらっと言うな!!多分それあれだぞ。伏線ってやつだから!!」
怒られてしまう。
何に怒ってるのだろう。
「アクトに話さないの?」
「だ、だって……言えないぞ、あんなこと」
「それでアクトがまた危険な目に遭っても?」
「うぐっ、そう言われると苦しいぞ。でももしアクトに嫌われたら……我……」
どうしようと迷いだす神様。
本当に人間かのようだ。
「ごめんなさい、調子に乗ったわ」
「ほぇ?」
「二人には二人のペースがある。それを邪魔するつもりはないわ」
あの程度のことでアクトが怒るはずないどころか、むしろ感謝すらしそうであるけど、それはやっぱり二人の問題。
「に、人間〜」
嬉し泣きする声がする。
そんな彼女には申し訳ないけど
「だけど一つだけ、宣言だけはしとくわ」
私達の問題になら、全力で立ち向かう。
「アクトの一番だけは、譲らないわよ?」
そんな挑発に彼女は
「……むぅ」
分かりやすく不満そうな声を漏らす。
「我忙しいからもう切るぞ!!」
そして怒って電話を切ったのだった。
嫉妬してしまったようだ。
「本当に……人間みたい」
今まで色んな神様を見てきた。
リーファの店にいるお婆ちゃんや、時々桜に悪戯して笑ってる奴、それから
「……ええ、そうね」
私の横にいるこいつ。
そんな中でもどこか人間味溢れて、全ての神々に恐怖を抱かせる存在。
私も詳しく知っているわけじゃないけど
「邪神復活……ね」
そんなことをしたら間違いなく
「世界は終わるんでしょうね」
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