第169話
「何してんだお前」
銅像の中から現れたアルス。
なんだか久しぶり過ぎて抱きしめたくなる衝動に駆られるが、そこが我慢だ。
「……する?」
何故か俺の意図を察し、手を伸ばすアルス。
おいやめろ。
その首コテンってするの可愛いからやめろマジで。
何をまだ?みたいな顔してんだ。
しねぇからな!!
「やっぱり後でしてもら……じゃなくて、何をどうしたらこんな状況になってんだって聞いてんだ」
俺の質問にアルスは答える。
「順を追って説明したいのだけど、残念ながら試合時間が残り5分しかないわ」
「……じゃあ決着の後に」
「だから時短で回想形式でお送りするわ」
「いや回想形式ってどういう意味だy」
◇◆◇◆
<sideアルス>
「しまった」
気付いた時にはもう手遅れだった。
どうすることも出来ない。
世界はこんなにも
「明日……武闘大会だ」
残酷だ。
「どうしよ」
カレンダーを見ると、バカでも分かるくらい楽しそうに花丸を書いた日付が飛び込んで来る。
真を探すことに夢中になり過ぎて、日付け感覚が狂ってしまった。
真を探して、活動限界がきて、ゲームしてお菓子食べて夜中まで寝る。
「友達思い過ぎた」
でも大丈夫。
「今からでも間に合う」
ベットから起き上がり、地図を確認する。
「……?」
あれ?
ここ……どこだろ?
とりあえず真が
『左か右かなら、右に行くかな。なんか漫画でそんな感じの読んだから』
と言っていたから右に飛んだけど、地図と方角って全然違うから現在地点がよく分からなくなる。
「上から見たら……分かるかな」
私は空を見上げる。
あ、ダメだ。
『バ!!おまバカ!!宇宙行ったら息出来ないって知ってる!?』
『知ってるわ。でも、頑張れば吸える』
『危なっかしいわ!!いいか、どうしてもまずい時以外に上には行くな。分かったか?』
『アクトって……お母さんみたい』
『お前はまたそういう言い辛いこと……はぁ、本当に君は……』
あの時のアクト、なんだかカッコよかった。
だけどそれ以上に心配させてしまった。
「私が支えないと」
いや、違う。
「私達で支え合わないと」
私は強いけど、強いだけじゃダメ。
強さだけでは人は生きていけない。
弱さを受け入れなければならない。
「やっぱりまだまだ」
彼らもまた弱い者。
自分の弱さを受け入れられず、必死に強がって、逃げて、隠している。
認めてしまえば、彼らの中の何かが壊れてしまうから。
「めんどくさい」
惚れた弱みという言葉があるが、全てを受け入れるだけではダメだと思う。
間違っているものは間違っていると、そう言わなければいけない時がきっと来る。
それこそが本当の意味で好きということなんだと、私は思う。
「会いたいな」
……ん。
「行こう」
動かなければ何も始まらない。
「とりあえず現地取材」
私は車椅子に座り、動き出した。
◇◆◇◆
「タランチュラ星雲लूसिफ़ेर अंतिम मालिक है happy」
「ありがとう。何を言ってるのか分からないということが分かったわ」
「fu●k you」
気の良さそうな現地人に聞いてみたはいいけれど、どうやら言語が違うよう。
私は王国の言葉しか知らない為、いきなり万策尽きたと思った時
「こんにちは」
「……」
声を掛けられた。
金髪で、ピアスをしている男。
あと肌が黒い。
あとチャラそう。
まるで何かのビデオに出てきそうな……強いて言うならN
「何?」
「いや君困ってるって聞いてさ。お兄さん王国の言葉分かるから、ちょっとお助けに参った的な?」
「……そう、ありがとう」
どうやら親切な人のようだ。
「どこに行きたいのかな?」
「王国に戻りたい」
「そっかそっか、じゃあ付いてきて。お兄さんが空港まで連れてってあげるから」
そう言って男の後ろをしばらく追う。
「……なんだか、人が少ない気がする」
「気のせい気のせい」
周りから人が消え、廃棄されたゴミがちらほら見え始める。
「なぁお嬢ちゃん」
「何?」
「あんた体が弱いのか?」
「ええ。見ての通り」
「怪我でもしたのか?」
「そんなところ。まともに歩くことすら難しいわ」
世間話を交わす。
家族はいるのだとか、どうやって暮らしているのだとか、経験はあるのかなど。
「本当に……運がいいな」
「そうね。道案内してくれる人に出会えて本当によかったわ」
「まさかここまで世間知らずな人間がこの国にいるとはな」
そして、私はとある倉庫の中へと入る。
中には多くの男が密集していた。
「どんな気分だ?お嬢ちゃん。今から最高の毎日が始まるんだぜ?」
「ええ、それはきっと私の愛しい人と、私の友達が笑って過ごせる毎日なんでしょうね」
「おいテメェら久しぶりの上玉だ!!今日は目一杯楽しーー」
ボキッ
「んあ?」
「あら、ごめんなさい。力加減を間違えたわ」
肌の黒い男の腕を折ってしまう。
「い、いだーー」
「静かに」
頭を蹴飛ばし、意識を飛ばす。
「近所迷惑よ?」
それにしても本当に助かった。
まさか自分達の方から人気の少ない場所に行ってくれるなんて。
呆けている連中にアドバイスしてあげる。
「どんな気分かしら?ただのカモと思った相手に、今までの人生が台無しにされるのは?」
私の言葉に、男達は必死な顔をしながら楽しそうに私へと走り出す。
やっぱり来てよかった。
「楽しみましょ?」
◇◆◇◆
「ありがとうございます。こいつらは年々増え始めていた犯罪グループの一つでして。我々も前々から色々とーー」
「話が長い」
私はこの国の騎士のような役割の場所へと連絡し、例の集団を突き出した。
すると、皆が一斉にあーだこーだともてはやす。
「英雄だ!!」
なんて盲信のような人まで現れる始末。
正直めんどくさい。
早く帰ろう。
「それで、王国の場所はどこなの?」
「王国ですね。あー申し訳ありません。現在王国へ行くためには色々と手続きが必要でして」
「場所はどこ?」
「え、えっと……ですから」
「場所、方角はどこ」
「ほ、方角?」
男はわけも分からなそうに色々と調べ
「おそらくこの方角かと」
「合ってるの?」
「はい。この線を目印に行けば、おそらく王国の城と重なりますね」
「ん、分かった」
それが分かれば大丈夫。
それにしても、大丈夫と言いながらおそらくしか言わないのは嫌がらせなのだろうか?
「じゃあね」
「えっと、じゃあねとは一体どうーー」
飛ぶ
「……ワオ」
私は風を感じながら、宙を進む。
その間、私の世界は青と白だけで埋め尽くされる。
この時間が私は結構好きだったりする。
今までは戦いくらいでしか嫌な気持ちを晴らせなかったが、アクトに……みんなに出会ってからは変わった。
色んな世界が見え始め、私の人生は楽しさで埋め尽くさている。
「二人も気付いて欲しいな」
私も、いつか彼らに教えたい。
この世界の美しさを。
生きる楽しさを。
だから
「あ、着いた」
思考を遮るように、視界の中に大陸が映り込む。
あの大きさ、間違いなく王国だ。
「確か……あそこだったはず」
何度か似たような光景を見ている為、なんとなく自分の住んでいる場所に見当がつく。
つくが、まぁ多少はズレる。
大体200キロ程だ。
そんなわけで
「どこだろ、ここ」
私は振り出しに戻る。
「な、なんだ?」
「急に空から人が……」
「怪我人はいないの!?」
「大丈夫だ。だけど、どうしてここが……」
いや、振り出しではなかった。
「チャオ」
大勢の人物が一斉に私を見る。
「何者だ」
男が尋ねる。
「人に名を聞く時は、まず自分から答えると知らないの?」
「悪いがそんな道理は我々に通じない。行くぞお前ら、侵入者を排除すーー」
「待ってラト!!」
「へぇ、ラトというのね」
「クッ!!」
ラトと呼ばれる男が近くの女に睨みを効かせる。
「何のつもりだナナ。ここでこいつを排除しなければ、グレイム様に合わせる顔がないぞ!!」
「でも、あの赤い髪に顔。あれってアルスノートでしょ!?勝てるはずない!!」
「だからって放置するわけには!!」
言い合いを始める二人。
アクトとリーファもこうやってよく喧嘩してるな。
基本的にアクトはニヤニヤしてるけど。
「あ、あの〜」
そんな中でトントンと肩を叩かれる。
「えっと……ノアっていいます」
そこには銀髪の女の子がいた。
顔を見た感じ、アクト関係だと分かる。
「私はアルスよ」
「アルスさんですね。アルスさんは何をしにこちらに来たのでしょうか?」
「着地に失敗したの。ここなら落ちても大丈夫だと勘が教えてくれたの」
それと
「学園への道のりも」
「学園!?」
「やはり感づいて!?」
ラトとナナという名前の二人が反応する。
「グ、グレイム様に報告を!!」
「バカ!!そんなこと言っちゃバレちゃうでしょ!!」
「無駄口叩いてる暇があったら早く行動に起こせ!!」
また喧嘩を始める。
ちなみにいくらコソコソ話そうと、私の耳にはまるで隣にいるかのようにハッキリと聞こえてくる。
二人の楽しそうな会話が。
「ふ〜ん、それじゃあノアがグレイムにご飯を」
「は、はいそうです」
「そう。それじゃあ私にもそれを。それからグレイムのこと、色々と聞かせてくれる?」
「分かりました」
私は言い争いをしている二人と、落ち着き始め私を接待し出した面々を見つめる。
「楽しそうね」
「グレイムさんのお陰です。最初の頃はナナさんもラトさんもピリピリした空気を出していましたが、グレイムさんが」
『おい、お前ら互いの親睦は深めておけ。情を捨てることも大事だが、いざという時に相手の性格を知っていた方が色々とやりやすい場面もある。だからこの金で遊んでけ』
「あれからですね。お二人は随分と丸くなった気がします」
「彼らしいわ」
私は味噌汁を頂く。
「美味しい」
「ありがとうございます」
それからも、私は色々とグレイムの話を聞く。
その時間はとても有意義なものだった。
けれど
「ありがとうノア」
「いえ、ノアもお話し出来てよかったです」
「そう。それで、逃げる準備は整った?」
「気付いて……いたんですね」
震える手、震える肩。
ノアと名乗る少女は、最初から私に怯えていた。
それでもこうして私に接近したのは
「グレイムさんが言っていました。私は見た目は幼いから、正義感のある相手には手を出されにくいと」
「そうね。もし真なんかが来ていたら、君の見た目に騙されて攻撃の手を躊躇うでしょうね」
「はい。ですから」
「それ以上はいいわ。強いのね」
「い、いえいえ。ノアは弱いですよ……誰よりも」
確かにこの子には戦闘をする力も、意志も、全く感じられない。
それを人は臆病と呼ぶ。
自分が傷つくことも、誰かが傷つくことも怖いのだ。
だけど私には
「優し過ぎるわね」
背丈は私と変わらないけれど、私には彼女が大きく見えた。
「ノア」
「は、はい!!」
ラトがノアを呼ぶ。
「人が多いと時間がかかるんですよね」
そしてノアが何かを叫んだ後
「凄い」
その場にいた全ての人間が、幻だったかのように消えた。
光の速さですらスロー再生に見えてしまう私の目ですら追えないということは、まず間違いなくこの世に彼女を捕まえることの出来る人間はいないのだろう。
それならよかった。
「さて」
私は味噌汁を全て飲み干す。
「行きましょうか」
私はノアから貰ったメモをの見る。
「学園に」
そして立ち上がろうとして
「あ」
自身の体が動かないことに気付いたのだった。
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