第165話

 現在のポイント



 俺 1P

 カーラ 1P

 ユーリ 1P

 リア 1P

 桜 0P

 リーファ −1P

 ソフィア −1P

 銅像 −2P



 といったところ。



「拮抗してるなー」



 今までの試合は圧倒的勝利を収めた面々だが、一同に会すると大きな差はそこまで出ていない。



 だが例え小さな差だとしても、実力は如実に出ているところが非常に面白いところだ。



「でもアクト、まずいぞ」

「分かってる」



 さっきの試合でルシフェルの魔力を相当数使ってしまった。



 本来なら今頃有り余ってる予定なのだが



「認めよう。調子に乗った」



 多分負けて悔しかったんだと思う。



 案外自分の子供らしい一面に触れ、アクトの子供らしい様子を想像して吐き気を催していた。



 普通に最悪。



 死なないかな早く。



「まっずいな。あれだけドヤ顔かましといて桜とリーファに一方的にボコられたら泣くぞ、俺」



 かと言ってこれ以上ルシフェルの魔力を消費させるわけにもいかない。



 もしルシフェルが消えた場合、俺のメンタルは間違いなくブレイクされる。



 正直、今日まで生きていけてるのはルシフェルがいたからだ。



「あの謎の銅像を破壊することが出来たとしても、点数は−1Pか」



 これじゃあ準決勝へはギリギリだな。



 せめて一人、誰かに勝つ必要がある。



 しかも相手はベスト4に残りそうな相手となれば



 ◇◆◇◆



「お前に勝てば俺様のベスト4入りは確定ってことだよな、桜」

「おうおうアクトさんや。随分おちゃらけてるじゃあないか。私に勝とうなんざ百年早いぜー」



 謎の言葉遣いと共に、桜は満点の笑顔で登場する。



 可愛い。



 あ、今はそういう時間じゃなかった。



「アクトはこう思ってるでしょ。ソフィアはそもそも戦闘系じゃないし、リーファも強いけど戦闘慣れしてない。だからベスト4に入るなら、私が一番可能性が高いって」

「一言一句綺麗に述べてくれてありがとうよ」



 桜の言った通り。



 おそらくリアとカーラとユーリは上に行く。



 では残り一枠に収まる上で一番の障害は誰かと問われれば、まず間違いなく桜だ。


 いくら命の掛け合いでないとはいえ、あのカーラに勝ったという事実は普通じゃない。



 真正面から勝ったユーリはもっとおかしいけど。



 そんなわけでここで桜のポイントを下げることが出来れば、俺の勝ち筋はグッと上がる。



 逆に言えばここで負けるとマジでヤバいんだが。



「ふっふ〜ん。でもアクトさんや、さっきの試合であんなに大暴れしておいて魔力の方は大丈夫なんですかい?」

「心配無用だ。俺様ほどになればお前なんぞ魔力無しでも勝てる」



 嘘です勝てません。



「強気だね〜。でも私には痩せ我慢にしか見えないよ?」



 桜は準備運動を始める。



 相変わらず柔らかい。



 どこがとは言わないが。



 毎日ストレッチしているのだろう。



 果たして毛穴とかいった概念がない世界で美意識って意味があるのか疑っている俺だが、なんかちょっと官能的だし許すとしよう。



 美意識大事だね。



「むむ!!エッチな目で見られた気がした!!」

「気のせいだ」

「そっか、気のせいか」



 開脚している桜をガン見する俺を見て、勘違いだと気づいた桜はゆっくりと姿勢を正す。



「さて、始まるね」



 キナコが開始前に前奏を奏でている。



 時々俺の褒め言葉が混じっている辺り、やっぱりあいつは普通じゃないな。



「アクト。愛しの私が目の前にいるというのに他の女にうつつを抜かすなんて、どういう用件だ〜」



 桜がジト目を向ける。



 なにそれ可愛い。



 写真欲しい……じゃない!!



「危なかった。もう少しその姿を写真に焼き写すところだった」

「全くだよ。アクトは本当にしょうがないな〜」



 俺のカメラに合わせて様々なポーズを取る桜。



 俺の宝物フォルダがまた増えたぜ。



 さて



「満足か?」

「凄いブーメランだけど、うん。ありがとね」



 別に俺らの間に何かがあったわけじゃない。



 ただなんとなく、桜が俺の考えを読むことが増えたように、俺もまた桜に何かあることに気付いた。



 こうやってふざける時間が必要だと。



 だから



「本気で行くぞ」

「勿論。手を抜いたら怒るから」



 こうして気持ちを切り替えられる。



「速攻!!」



 長期戦は無理。



 決めるなら直ぐだ。



「カッコいいよアクト。大好き!!」



 俺の気持ちに応えるように、桜も距離を詰める。



 ありがたい。



 いや、俺はそれすらも利用した。



 桜なら乗ってくれると信じたのだ。



「俺もだよ」



 そっと呟く。



 そして剣が激しくぶつかり合う。



 一撃一撃のインパクトにより、地面にヒビが入る。



「よっ」

「グッ」



 桜の蹴りが腹に当たり、距離が開く。



 結界はギリギリ割れてない。



「ナイスルシフェル」

「うむ」



 咄嗟にルシフェルが威力を弱めてくれたようだ。



 すると前方には色彩豊かな魔法が顔を見せる。



「むふふ、お姫様を助け出してねアクト」



 弾幕が飛んでくる。



 どうやら障害(魔法)を乗り越えお姫様(桜)の元に向かう必要があるらしい。



 お姫様兼魔王ってどういう仕組みだよ。



 それに



「違うな。お前が俺様の前に来るんだよ!!」

「およ?」



 桜の腰に謎のモヤが発生する。



「にゃるほど、さすがアクト。いいよ、乗ってあげる」

「来い!!」



 俺は紐状に伸びた闇魔法を引っ張る。



 それにより桜は一気に俺に向かって飛んでくる。



 悪いが俺に王子様の役は不似合いなもんでな。



「あ〜れ〜」



 桜は楽しそうに空を舞う。



 そのかん俺は桜の魔法を打ち落とす。



「桜。お前が風魔法を使えないのは知っている。空中で軌道を変えるには、自爆する以外方法はないよな」

「え?自分で自分を攻撃して空飛ぶ人とかいるの?」

「え?(自分への攻撃を主な移動手段にする男)」



 そして空飛ぶ桜は俺に向かって剣を構える。



「決めるよアクト!!」

「ああ、そうだな!!」



 完全に甘えた試合だ。



 そもそも距離を取り続ければ勝てるし、闇魔法で引っ張る行為も彼女なら対処出来る。



 それでもこうして付き合ってくれるのは、ひとえに……その……あんまり言いたくないけど



「愛ゆえだね」



 俺の台詞を取った桜は笑顔で俺に向かって飛んでくる。



 迎撃するべく、俺は残りの魔力を全て使い、桜に向かって……は?



「なにやってんだバカが!!」



 咄嗟に俺は剣を捨てる。



 すると桜も分かっていたように剣を無造作に投げ捨てた。



 そして両手を広げた桜は、そのまま俺に抱き着いた。



「えへへー。捕まえたー」

「おい、どういうつもりだ」



 俺は気付いた。



 桜の制服、いつものものだ。



 マーリン家の結界がついたものじゃない。



「ルールでは規定の物をつけていないと負けだったはずだが」

「うん。だから私の負けでーす」



 桜はポケットから白旗を出しヒラヒラと揺らす。



 いつも思うが小道具大好きだな。



 てか冷静ぶってるけどこれ……



「アクト心臓バクバクだね〜」

「は?全然バクバクじゃないが?めっちゃ余裕だが?」



 普通にヤバい。



 全身に人の温もりを感じる。



 それに桜のあんなところやこんなところが接触し、気が気じゃない。



 てか俺汗臭くないか?



 大丈夫だよな?



 いやていうか



「と、とりあえず離れろ」



 このままじゃいかん。



 さすがに民衆の前でけだものになるのは普通に恥ずかしい。



 引き離そうと震える手で桜の肩に触れるが、ピクリとも動かない。



 やだこの子強いわ。



「大好き」

「!!!!」



 耳元で囁かれる。



 一瞬気を失いかけた。



「大好き。この世で一番大好き。誰にも負けないくらい、ずっと一緒にいると誓えるくらい、大好き」

「!?!?!?!?!?!!!?!?!?」



 ふぇ!?(え!?)



 ひゅひゅふぃふぁふぃふぃっふぇるふぉふぉふぉふぉ!!(急に何言ってるのこの子!!)



「ねぇアクトはさ……私のこと好き?」

「……(愛してます大好きです結婚して下さい)」

「そっか。やっぱり大好きか」



 何も言ってませんが?



「こんな両思いの私達なのに、酷い人がいるんだ。私達の仲を切り裂こうとする極悪人がいるんだよ?」

「……(なんだとそいつは大変だ!!俺がぶっ飛ばしてやる!!)」

「そんな最低で最悪で……カッコよくて優しくて不器用な人をさ……そろそろ解放してあげたいんだ」



 桜は悲しそうに喋る。



「ダメかな?これって我儘かな?」



 桜の言っている意味は分かるようで分からない。



 多分だけど桜は……こんな俺を救いたいと思ってくれている。



 このどうしようもない存在の俺を、許してくれようとしているのだ。



 もう頑張らなくていいと。



 十分過ぎる程やったよと。



 だから俺は言う。



「我儘だな」



 しっかりと言う。



「……そっか」

「ああ、我儘だ。例えば俺様は初めてお前の命を助けたことも我儘だ。お前が母親と共に生きようとしたことを邪魔したのも俺様の我儘だ」



 俺の肩が濡れる。



 啜り泣く声が横から聞こえる。



「お前がそれによってどう感じたかは分からない。嬉しいのか、悲しいのか、もしかしたらどうでもいいのかもしれない。それでも……それでも俺は助けたかった」



 俺は桜の背に手を回した。



「我儘でも、勝手でも、相手の気持ちを踏み躙っても、俺は君を……君達を助けたいんだ。そういう最低で最悪な男が……俺だから」



 俺の言葉に桜は



「そっか……じゃあ私は、アクトに謝らなきゃだ」



 小さな声で言葉を返した。



 小さな言葉で宣言したのだ。



「真に続いて桜も……か」

「別に私は真みたいに遠くに行かないよ。ただアクトの隣でわちゃわちゃし出すだけ」

「それは色々と……楽しそうだな」

「うん、楽しいよ。楽しもう。笑って敵対しよ?それで最後までみんなで笑おうよ」

「それは……難しいな。なんたって相手はこの俺様なんだぜ?」

「うんうん、クソ雑魚だね」



 桜は離れる。



「大好きだよアクト」

「俺は君が大嫌いだよ、桜」

「にしし、最低のI love youだね」



 こうして俺は、ラスボスへの道を順当に歩み始めるのだった。

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