第163話
一巡目が終了した。
結果としては
俺 1P
桜 1P
ユーリ 1P
リーファ 0P
銅像 0P
リア −1P
ソフィア −1P
カーラ −1P
といった感じだ。
そして俺はこのポイントを見て思ったことは
「まぁ……予想通りだな」
一箇所だけ間違いはあったが、それ以外はおおよそ想定通りだ。
「だけどあの銅像、マジでなんなんだ?」
映像を見ていたが本当に謎だ。
魔法を斬る上に、リーファですら砕けない程の頑丈さ。
どうせシウスが用意したものだろうが、どうにもきな臭い。
絶対何か仕掛けてやがる。
「……まぁいい。今は試合に集中するか」
俺はフィールドへと足を踏み入れた。
そこには席を埋め尽くす学園の生徒達の姿。
最初はブーイングや罵声が飛び交っていたこの環境も、いつしか傍観するように静かにその時を待っている。
俺の強さに気付き始めたのだろう。
実際は仮初の力なんだけどな。
「随分と人気になったのではないでしょうか」
「俺様は元々大人気だ」
目の前にはソフィアが立っていた。
今までの試合では腰などに多くの道具を下げていたが、今回はそれが見受けられない。
と言ってもソフィアには物を収納する魔道具がある為、見た目での判断は軽率でしかない。
ソフィア戦での勝ち負けを決するのはやはり
「俺様を倒す無謀な策は考えついたのか?」
「はい、ここで勝利を収めさせてもらいます」
頭脳戦。
真っ向勝負であれば、俺がソフィアに負けることはない。
だが、そんなことはソフィアが一番理解しているだろう。
今大会で唯一、全ての相手に挑戦権を持っているのはソフィアだけ。
彼女は俺達を倒す為の方法をその頭の中に埋め込んで来ている。
だからこそ
「俺も同じように対策するんだ」
ソフィアの情報はソフィアの想定以上に俺は持っている。
答えは簡単、俺が君LOVEが大好きだからだ。
画面の向こう側から血眼で見続けた光景が、今こうして俺の力となる。
「例えばだ」
試合はもう始まっている。
そしてソフィアは動かない。
何故なら
「あの……何をしているのでしょうか?」
「見て分からないか?」
「分からないから聞いています」
「はぁ……しょうがない、教えてやろう。俺様は今こたつに入りながら鍋を食べているんだ」
「すみません、よく分かりません」
AIのような返答をするソフィアを無視し、おでんを食べる。
うん、美味い。
隣でルシフェルが涎を垂らしながら食べたそうにしているが、さすがに今は我慢してもらおう。
「何故……この暑い日にこたつに鍋なのでしょう」
「俺様が言うのもあれだがお前も少しズレてるよな」
試合中に何やってるんだではなく、夏なのにどうして冬みたいなことしてるのという疑問を浮かべるソフィア。
「まぁ落ち着けよ。どうだ?お前も一緒に食うか?」
俺はまるで我が家かのようにくつろぎ出す。
ソフィア含め会場は唖然としているだろう。
だがそれでいい。
その予想外こそが、彼女の緻密な計算を壊す唯一の方法なのだから。
「……そうですね。それではお言葉に甘えましょうか」
「おうおう、そうし……んん?」
え?
来るの?
ソフィアがテクテクと近付いてくる。
なんだ?
何が狙いだ?
俺は警戒しながらソフィアを待つ。
手足だけでない。
彼女の全身……いや、彼女の周りにある全てに注意を払う。
それ程までにソフィアという存在の知性は俺なんかよりも遥か上なのだから。
「……」
そして距離は一メートルにまで接近する。
まだ何もしていない。
いや、既に何かをしたのかもしれない。
一度体制を立て直すべきか?
いや、それじゃあ彼女の思う壺だ。
座して待つ。
常に予想外の選択を取り続け
「失礼します」
「あ、はい」
ソフィアはお辞儀をした後こたつに入る。
「中は冷たいんですね。これなら快適です」
ソフィアは気持ちよさそうな表情をする。
そして鍋に手をつけ始める。
「えっと……毒の可能性とか危惧しないんです?」
「さっきアクトが食べていたではありませんか。それに私は口内に解毒剤をいくつか仕込んであるので大丈夫です」
「そ、そうなんだ」
ソフィアは鍋を食べ始める。
ルシフェルが横で『我も食わせろ!!』と怒り始めた。
俺は最早わけも分からず一緒に鍋に手をつけ始める。
俺、何やってるんだろ。
「それにしても驚きました。いくつかのパターンは想定していましたが、この光景は私の予想の遥か上のことでした」
「いや、それは俺様も同じ台詞なんだがな」
「ではお互い様ということで」
ソフィアはどこか楽しそうな様子を見せる。
分からない。
俺には今の状況に楽しさを見出す気持ちが一切分からない。
「誰かと一緒にご飯を食べると美味しい。私はこの言葉が嫌いでした」
「嫌い?」
「はい。私も貴族の一人でしたので、食事の作法についてはかなり厳しいものがありました」
ソフィアはどこか懐かしそうに語る。
「父は言いました。これはお前の為だと。外で恥をかかないで済むと」
「……」
「それが間違っているとは思いません。ですが、時に私は窮屈を感じていました。それが愛されてるからだと言い訳にして」
ソフィアはお手本のような箸の持ち方で食事を続けた。
「ですから私にとって食事とは、いつしか栄養を取る為と他者に自身の育ちの良さをお披露目する為の道具となっていました」
「ソフィア……」
「ですが先日の食事会はどこか心が温まりました。皆が自由に、笑いながら、そんな風景が私には虹色に見えました」
本当に嬉しそうにソフィアは喋る。
この笑顔を見られるのなら、またああした食事会をするのもいいかもな。
「レールの引かれた風景画にはもう飽きてしまいました。今はもっと自由に、奇想天外な方に私は進んで行きたいと思います」
「……ああ。いいと思うよ」
俺の中でまた新しい記憶を思い出した。
消えた記憶をまた取り戻してしまった。
「あーあ」
最近の俺は本当にダメダメだな。
記憶が戻ればソフィアの好意は更に大きくなると分かっているのに、俺はこんなにも嬉しい気持ちになってしまう。
「記憶のピースはあといくつなんでしょうね」
「さぁな」
「……では、そろそろ始めましょうか」
かなりの長話だ。
時間はもうない。
だがこの距離であれば、圧倒的に有利なのは俺だ。
彼女に俺の本気の一撃を防ぐ手段はない。
だから勝者は
「防ぐ手段がないのはそちらも同じですよね?」
ソフィアの雰囲気が変わる。
「……おい、まさか」
「ヤッピー抑止力さん!!ソフィアにお願いされたから、ちょっとぶっ放すね!!」
まずい!!
そういえばこいつがいたんだった!!
顔を出したソピアーは俺に向かって攻撃を放とうとする。
「テメ!!そんな力使えばバレるぞ世界に!!」
「あっはっは、冗談キツイですよ抑止力さん。ここは今、愛の女神の加護を受けた聖女の力が働いているんですよ?見つかるわけないじゃないですか」
「知るかボケ!!」
んな後出しジャンケンみたいなルール急に言ってくるんじゃねーよ!!
「チッ、防げる手段がないだと?そんなもん力をぶつけ合えばいい。ルシフェル!!」
俺が声を掛けるとそこには
「ん?」
「……おいルシフェル。何故鍋を食ってる」
「だ、だって我慢出来なかったんだぞ!!こんな作戦を考えたアクトが悪い!!」
逆ギレしてきたルシフェルは案の定話を聞いておらず、完全に出遅れている。
「さすがソフィアですね。ここまで計算した結果の私だったんでしょう。いやー抑止力さん、ドンマイでーす」
笑顔で放たれたソピアーの攻撃に抗う術もなく
「えっと、こういった時に言うべき言葉は」
ソフィアは空飛ぶ俺を見上げながら
「たーまやー」
そして俺は初めての敗北を味わったのだった。
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