第159話

 つまるところ、シウスが渡してきた帝国への切符は俺にエースとかいう部隊への推薦状というわけだ。



「にゃるほど、確かにアクトの実力と知恵が有れば帝国でもかなり猛威を振るうだろうね〜」



 桜は納得したように帝国の身分証をクルクルと回す。



 一応それ俺のなんですけど。



「でもおかしいと思う。さっきの言い方的に友好関係の為の部隊なんでしょ?アクトなんてその条件から一番離れた存在だよ?」

「おい」



 さすがの俺でも怒る時は怒るんだからな?



 というのは冗談で、リーファが言う通りアクトグレイスを他国との関係を深める役に抜擢するのは些かおかしな話だ。



 絶対問題起こす自信しかねぇもん。



 俺を選ぶくらいならそこらの一般人の方が平和的に物事を進められるに違いない。



「むしろその問題を起こして欲しいんじゃない?帝国に大きなダメージをもたらすか、もしくは今の危機的状況を一気にひっくり返すような何かを」

「それってもしかして、選ばれた人って向こうで暴れろってこと?」

「どうだろ。それを知ってるのはやっぱりあの人だけなんだろうね」



 桜はあまり気にしてなさそうに、対してリーファはどこか心配そうな態度を取る。



「ねぇ桜。もし選ばれても、桜は行かないよね?」

「え?行くよ?だってアクトも行くんでしょ?」

「ああ」



 確かに怪しい。



 絶対に予想出来ないような最悪な展開が繰り広げられるに違いない。



 てか、あいつの策略に乗るという行為自体が凄く嫌だ。



 俺シウス嫌いだもん(駄々っ子)。



 だが、帝国へと何のやっかみも無しに行けることはかなり大きい。



 アクトの名は帝国でも有名だ。



 しかもグレイス家の影響が無い上に、戦場が我が家とか思っている連中からしたら俺は格好の餌食となるだろう。



 そうなると人目を避けコソコソと生きるしかなくなるが、使者としての役職を得られたのなら活動の幅が一気に広がる。



 このチャンスを逃す手はない。



「危険だよ!!いくら桜もアクトも強いからって、敵地に乗り込むような真似をしたら……」

「……」

「ごめんねリーファ、悲しい思いをさせて」



 桜は少し涙ぐむリーファを抱きしめる。



 リーファは優しく利口だ。



 王国と帝国の状態を知っているからこそ、俺達が帝国に行けばただでは済まないと分かっているのだ。



 そして俺もまた、桜には同行して欲しくない気持ちで一杯だ。



 シウスは俺に直接この身分証を渡したということは、是が非でも帝国に俺を連れて行きたいはず。



 それと交換条件に、桜や他のみんなの選定は無しにしてもらおう。



 だから桜には悪いが、帝国に行けば俺とみんなはしばらくお別れ



「あ、うん私。帝国のやつ?私とリーファも行くから。うん、よろしく。じゃーねー」



 電話の切れる音がする。



「……桜さん?今のは一体何を?」

「やったねリーファ!!これで三人で一緒に遊びに行けるよ!!」



 桜は楽しそうにリーファの手を取る。



 対してリーファは未だに頭の上に?マークを大量に出している。



 それは勿論俺も同じだ。



「ま、待て桜!!今のシウスだろ!!何勝手に決めてんだ!!」

「だってリーファが可哀想だよ。一人で王国に残らせるなんてアクト最低だよ?」

「いや遊びに行くんじゃねーんだぞ!?向こうは戦地だってお前なら知ってーー」

「でも、アクトが守ってくれるでしょ?」

「……」



 何の疑念もない、清々しい瞳が映り込む。



「それともまさか、私にはもう飽きちゃったのかな?」

「そんなわけ!!……そ、そうだ」

「ニシシ、やっぱりアクトは嘘が下手だね」



 そう言って桜はリーファの耳元で何かを囁く。



 先程まで不安で一杯だったリーファの顔が、一瞬で凛々しいものになる。



「分かった。私も行く」

「な!!リーファまで!!」



 どうして!?



 リーファなら桜を一緒に止めてくれると思ったのに。



「うーんそれにしても凄い試合だったね。本戦はもっと盛り上がるのかな?楽しみだね」

「私選ばれるかな。活躍はしたと思うけど……」

「リーファは大丈夫だよ。むしろ私がヤバい。このままじゃAクラス落ちちゃうかも〜」

「待てお前ら!!話はまだ終わってないだろ!!」

「終わったよ」



 桜とリーファは立ち上がる。



「私達は本気だから」

「……」

「アクト。そうやって何でもかんでも自分でしようとするの、やめた方がいいと思う」



 二人はまるで敵と相対したかのような鋭い目線を向け



「本戦で当たった時は、全力でね」



 屋上から下へと降りていった。



「どうして……」

「アクト。多分あの人間達は、アクトが心配なんだと思うぞ」

「心配?」

「だって向こうは危険なんだろ?ならアクトがヒロインを心配する様に、あいつらもアクトが心配なんだと思うぞ」

「……」



 なるほど。



 確かに合点した。



 俺に不思議と好意を寄せている桜と、優しいリーファは俺が傷つくのが怖いのか。



 そっか……



「なに……嬉しがってんだよ俺は……」



 嬉しい。



 俺が彼女達にとって大切な人間として見てもらえることが嬉しい。



 そしてそれ以上に悔しい。



 この幸せがいつか俺に、そして彼女達に降り注ぐ悪夢となると知っているのに。



 俺は死ぬ運命になる。



 例え世間が、ヒロインが、俺が許したとしても、世界は俺を許さない。



 アクトグレイスはこの世界の汚物なのだ。



 だから



「証明しよう」



 彼女達の不安は俺が傷つく可能性。



 帝国に行き、その命を終わらせてしまうのではないのかという恐怖。



 ならば俺は示せばいい。



 俺が



「絶対的強者であることを」



 ◇◆◇◆



「本戦へのメンバーが決定致しました!!選ばれたのはこの八名です!!」



 キナコの声と共に本戦へと進むメンバーが発表される。



 どうやら本戦には八名のみ進むようだ。



 カーラの条件は準決勝に進むこと。



 つまりはたった一回勝てさえすれば、俺は勝利を手にするわけだ。



「悪いな」



 おそらくカーラとしては長い戦いで俺が消耗することを予想していたのだろう。



 だが突然のルール変更により、準決勝に上がる可能性が大きく向上した。



「グッヘッヘ、覚悟しろよカーラ」



 俺はカーラを好きに出来る未来を想像しニチャニチャと笑う。



「キモいぞ」



 何故かルシフェルにドン引きされたが問題ない。



 勝利は既に目の前に



「おっと失礼、先に本戦のルールを説明します。本戦では総当たり戦が行われます」



 ……ん?



 総当たり?



「対戦時間は10分と短い状態で行われます。勝者には1p(ポイント)、引き分けの場合はポイントの変動は無く、敗者には−1pされます」



 ルール説明に入っているが、俺としてはそれどころじゃない。



「嘘だろ、本戦に上がってくるメンバー相手に総当たりだと?」



 ただでさえ持久力のない俺があの見た目と中身は可憐だが、戦闘力だけは怪物クラスの連中と七回も戦う必要があると?



「逃げ切るもよし、倒すもよし、体力温存の為に敢えて点数を捨てるもよし。準決勝に進む為には半分以上の選手よりポイントが高い、それだけでいいんです!!」



 ただの勝ち負けじゃない。



 誰がどれだけ点数を稼ぎ、落とすかを見極める。



 勝てる相手に勝ち、負ける相手には引き分けを狙うか潔く負けを認めるか。



 最早今回の武闘大会はただのバトルじゃない。



 敵の情報や自分の力を測るなど、頭を精一杯使う必要があるようだ。



「それでは改めまして、本戦へと進む選手はこの方々です!!」



 そして遂に



 第一位



 ユーリ ペンドラゴ



「ふむ」



 第二位



 ソフィア マーリン



「やはりそうでしたか」



 第三位



 リア グレイス



「楽しみですね」



 第四位



 リーファ



「え?私?」



 第五位



 カーラ



「むにゃ」



 第六位



 アクト グレイス



「順位?」



 第七位



 桃井 桜



「私が七位?」



 第八位



 宮本武蔵金剛力士像



 いや誰だよ!!



「これは予選に置いての上位八名(内部操作あり)を選んだものです。今回の武闘大会で何故この順位となったかを考え、そして次回の武闘大会でより良い結果を出せるように期待しています。それでは明日の本戦でまた会いましょー」



 こうして武闘大会が初日は幕を下ろした。

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