第158話
「全然当たんないんだけど!!」
アイリーンは魔法を放つ。
王族である故に多くの魔力を持って生まれたが、魔法を習う機会が少なく大それた魔法は使えない。
それでも十分過ぎる程の火力とスピードを持つ魔法は
「そんなもんか王女様ぁ」
「うざ!!」
シウスに躱され、弾かれ、防がれる。
「あいつゴリラなんじゃないの!!」
「戦闘スタイルはどこかアルスさんと似ていますね」
「あ、あれとは流石に一緒は良くないんじゃない?」
アイリーンは破壊された門を思い出す。
歴史上で一度も破壊されたことの無かった門が、たった一人の手によって破壊された光景は軽くトラウマとなっていた。
「でもあいつの体力だって無限じゃない。このまま持久戦に持ち込めば」
「何も相手は俺だけじゃないんだぜ?」
シウスは不自然に距離を詰める。
「ちょ!!来た来た!!エリカ防いで!!」
「そう慌てなくてももう防いでいます」
エリカが結界を張る。
「よ、よーし、むしろ近付いて来たあいつに私の魔法をぶち当ててやる」
「油断はいけませんよ。シウスさんが無策で攻めて来るとは到底思えません」
そんなエリカの考えを裏付けるような現象が直ぐに起きた。
「覚えておけ。味方が敵になることだってある」
「急に何言ってんのあいつ?」
「……!?アイリーン、下がって!!」
「え?」
シウスがエリカの結界に触れる瞬間、どこからか飛んできた魔法が結界を切り裂く。
「は、はぁ!?」
「ダメだよスカーレットちゃん邪魔しちゃ」
「チッ、あのクソ男がやりやがって」
流れ弾により防御を失った二人に猛スピードでシウスが突っ込んでくる。
「殺されりゅ!!」
「さすがにそれはないですが、迎撃はしましょうねアイリーン」
直ぐにエリカは気持ちを切り替える。
接近されてしまえば二人に勝ち目はない。
かと言ってシウスを遠くに飛ばすには時間がない。
そこでエリカの考えた方法は
「アイリーン。作戦を思いつきました」
「え?何?勝てるなら私なんでもするよ」
「盾になって下さい」
「オッケー……じゃないけど!!」
エリカは軽くアイリーンの背中を押す。
体勢を崩したアイリーンはそのままシウスに急接近する。
「バカ!!アホ!!偽聖女!!」
「どういうつもりだ?まさか俺が王女相手なら手加減すると?」
「してよ!!私この国のトップなんですけど!!」
シウスはどこか期待外れの様子で拳に力を込める。
「無理死ぬ〜。私死んじゃう〜」
アイリーンは涙を流す。
何故自分はこんな女を信じてしまったのかと。
何故こんなクズ男を雇っているのかと。
(最悪。こんなことなら出なきゃよかった。私王様なのに。私は王……)
抜刀
「私は王だ」
「ヒュ〜」
剣の振り方すら知らない少女の一閃に、シウスの剛腕が弾かれる。
「……あれ?」
「さすがですアイリーン」
稼いだ時間でエリカは結界によりシウスを閉じ込める。
「俺相手にそこまで魔力使って大丈夫か?」
「問題ありません。これはあくまでただの模擬戦ですから」
エリカは少し汗を滲ませる。
「何これ凄い」
「強度だけで見たら武闘大会の結界に近いです」
「え?壊せないじゃんそれって」
「そうですね。その分維持が少々大変ですが」
アイリーンは中にいるシウスを煽ろうと思ったが、周囲の観客に気付き大人しくする。
「アイリーンもありがとうございます。さすがでしたよ」
「え?あ、うん。なんか頑張ったら出来た」
「さて、どうしますか?あのお二人の戦いに入ってみます?」
「絶対嫌」
二人は視線を向こうへと移した。
「向こうは終わったみたい。見てみんなの反応、凄く盛り上がってる」
「そりゃ何よりだね」
視界を覆う魔法が次々とディーラを射殺そうとするも、全てが結界や魔法によって潰される。
「私もそろそろ終わらせたいんだが、反撃してくれないもんかね?」
「え〜もう終わるの?もう少しだけ遊ばない?」
「そりゃ無理な話だ。私はもう一歩も働きたくないんだ」
「そっか。じゃあ」
雰囲気が変わる。
「終わらせるね」
一直線に進む。
スカーレットは今まで以上に多くの魔法を打ち込むが、ディーラは変わらず笑顔で進む。
「化け物が」
「残念、化け物じゃなくて」
チョンとスカーレットの額に指を当てる。
「神様です」
スカーレットは空へと打ち上がった。
「さて」
「ヒィ!!」
目が合ったアイリーンは酷く怯える。
「エリカちゃんダメだよ〜。私と戦う前にそんな魔力空っぽにしちゃ」
「申し訳ありません。相手が相手でしたので」
「う〜んそれもそうだね。むしろ全然足りてないんだけど」
ディーラはシウスに目配せする。
「そっか、もう目的は達したんだ」
「?」
「な、なんであの人シウスなんかとアイコンタクトを?絶対ヤバい人だ。エリカ付き合い考えた方がいいよ」
「あの方は大丈夫ですよ。ですが、何か隠し事をされているのは確かですね」
エリカは少しだけ顔をムッとさせる。
「エリカちゃん何その顔、可愛すぎる……」
「もう少し私にも相談して下さってもいいのですよ?」
「もしかして嫉妬!!どうしよう、生きててよかった……」
どっかの頭のおかしい男のような反応をするディーラ。
「だけど」
直ぐに真面目な顔をし
「エリカちゃんは色々と背負い過ぎちゃう。まぁこれは彼も同じなのだけど、だからこそ余計に巻き込めない」
ディーラは背を向ける。
「これも全て……愛のため……」
「そう言ってこの前とあるカップルを破局寸前まで追い込みましたよね?」
「だって苦難がある方が燃えると思ったんだよ〜。でもまさか別れようとするなんて……予想外だった」
「はぁ……」
愛の女神と名乗ってはいるが、結局は神と人間。
その価値観はかけ離れていた。
「ぶ〜、だからこっそり遊びに来るのに、最近はみーんな惰性の恋愛ばっか。もう少し激しい恋が見たいのにな〜。だからこそ」
ディーラはエリカとアイリーンを交互に見る。
「やっぱり彼を見ている時間が一番」
「「???」」
「よーし、もう終わり!!今日は私帰りまーす」
「え?」
「どうしたのあの人?」
ディーラは最後にこちらの正体を探ろうと躍起になる男に目を向ける。
「エリカちゃんを悲しませたら、殺しちゃうからね」
バキュンという言葉と共に
「女神様?」
ディーラは姿を消した。
それと同時に
「行ったか」
「「!!!!!」」
「まぁ問題ない。ここからの話は少し厄介だからな」
シウスはエリカとアイリーンを場外に投げ飛ばす。
「ふ〜、やっと舞台が出来たか」
シウスは息を漏らす。
「な、なんと予想外!!栄誉ある勝利を手にしたのはシウス選手に決定しました!!」
静まり返る会場。
知名度も実力もない男がまさか最後まで残るなど誰も予想していなかった光景。
だがそれがシウスにとって都合がよかった。
「勝者のインタビューはないのか?」
「え?あ、はいもちろんございます」
キナコは実況席から降り、シウスの元に向かう。
「よくやった」
「どうも」
マイクを受け取る。
「なんとか勝てはしたが、実のところかなりギリギリだった。最後は正直油断していた二人を倒しただけ。俺としても後味の悪い結果だった」
卑怯な手を使ったどの口がそれを言うのかと皆が思ったが
「だが、俺はそういった人材を今求めている」
ここでシウスは本題に入る。
「ここで俺の正体を明かそう。俺は王女アイリーン様の直属部隊、エースという組織のリーダーを務めているものだ」
会場が騒つく。
当然そんな話はどこからも出ていない。
そもそもアイリーン本人も知らない。
「暗い話になるが、王国と帝国は現在かなり劣悪な関係だ。このままいけばもしかしたら戦争になるかもしれない」
皆が唾を飲み込む。
なんとなく気付いていたが、それでも見て見ぬふりをしていた事実。
それが今、国から事実として語られた。
「だが気を落とすのはまだ速い。帝国と王国を結ぶ架け橋があれば、むしろより良い関係を構築出来る可能性が高いと俺は考えている」
架け橋。
それが意味するのは
「俺ら部隊エースが帝国に赴き、支援を試みる動きが始まっている。そこでだ、俺はこの武闘大会の結果から、部隊へのスカウトを考えているわけだ」
緊張が走った。
「予選が終わった今、俺が声をかけた人物は武闘大会が終わり次第城に赴いてくれ。そこで返事を聞かせて欲しい。以上だ」
シウスはキナコにマイクを投げステージから去った。
あまりにも突然に出来事に困惑が広がる。
そして最もその事実に揺れ動いたのは他でもない
「マジかよ」
アクトグレイスその人であった。
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